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物語と現実の狭間で

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実際に起きたこと、架空の思い、真実を混ぜて物語を紡ぎます。随筆のような小説のようなものです。
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#小説

災い転じてなんになる?

災い転じてなんになる?

乗った電車は乗客がまばらだった。昨今のご時世を気にしてか、乗客はまるで定められたかのように座席の端に座っている。その等間隔がずっと続く。

まるで鴨川のようだ。

私はふと思った。そういえば母が昔、鴨川のカップル等間隔法則を見ると卵を投げたい衝動に刈られたといってたっけ。

次の駅に着いても乗客は降りないし、乗ってこない。ほんの少し前とは変わってしまった。ある意味異世界のようなものかもしれない。

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ここではないどこかへ

ここではないどこかへ

大阪を出たいと思った。

今いる場所から遠く離れて、私のことを知らない所へ。携帯と財布をおいて。着の身着のまま漂うように。

気づくと仙台にいた。

海と島と観光客と勝景地。うみねこはどこかにいってしまった。古いものと商売の香りとマイナスイオン。葉は赤や黄に色ずきはじめ、ここに居続けるのは無理だと告げられた。

船に乗る。

水平線に向かう船は地球の裏側に吸い込まれそうな勢いだ。スクリューから出さ

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アブラゼミ

アブラゼミ

サンダルをはいて、玄関の扉を開ける。日差しと喧騒が一斉に襲いかかる。

鳴き声を聞くと今年はアブラゼミが多いように思う。大声でぐわんぐわん鳴くクマゼミと違って、シャワーで浴びせるように鳴くアブラゼミ。そういや新潟の親戚が大阪に来た時、クマゼミをみて驚いていたなと思い出しながら鍵を掛ける。

日差しが背中を襲う。暑い。これは外に出てはいけない暑さだ。

家の横の小道を通って商店街へ向かう。いつもなら

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夜の点灯夫

夜の点灯夫

キラキラと輝く街を上から眺める

この光は誰を照らしてるんだろう。
輝きながら、何を見ているんだろう。

どこにいっても明るいこの国は明るさを見せつけないと、国が終わるとでもいうように暗さを抱える。

夜の空を見上げて、なぜ向こうの方の空は白けているのか。
朝日も昇らない真夜中だというのに。

うちに秘めたどろどろの暗さを、人工の明るさで必死に隠そうとする。暗い部分はまるであってはならないとでもい

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