専業主夫の49歳が精神科病院に入院したときの話(6) 奥隔離を卒業します!
専業主夫の薄衣です。
今回は、奥隔離の部屋で途方に暮れる夜からとなります。
また、おつきあい頂ければ幸いです。
前回のお話しはこちら。
眠れない夜
隣室の絶え間ない絶叫が続いていました。
ベルトで拘束され、身体の自由がきかないであろう状況で、ず~っと叫んでいます。
お母さんやおばあちゃんに助けを求める声、何者かを威嚇する声、ナースコール越しに看護師に向けていると思われる声、等々。
凄いエネルギーです。
私はただ、ジ~ッとしているしか出来ませんでした。こういうときって、隣室の私らにはケアとかないんですね。入院経験のある皆さんは、いかがでしたか。
時々、看護師が隣室にやって来ては何やら対応しています。
何度か声がけを迷ったあげく、意を決して
「すいません」
と小窓越しに廊下を通る看護師に声をかけました。時計を見ると午前2時。
看「眠れない?」
薄「え~ま~。お水を頂けませんか。」
薄衣にはこれが精一杯。
そんな感じで眠れない夜を過ごしました。
午前5時を過ぎた頃、隣室からは絶叫に変わり高いびきが聞こえます。私はこれに1人で突っ込んでいましたが、結局私自身は眠れませんでした。
コーヒーを飲むだけのことなのに
6時を過ぎると電気を付けに看護師がやって来ます。昨日買ってあるはずのコーヒーをお願いしました。しかし、程なくしてコーヒーを片手に戻ってきた看護師が、
「ここ、缶とか持ち込めないんだよねぇ・・・」
手にしていたのは缶コーヒー。
でも買ったの私じゃないし・・・
いろんな感情と言葉を飲み込み
「どうしたらいいですか」と聞くと、
「紙コップに移そうか。それ飲んじゃって。」
と水の入った紙コップを指さします。
再び諸々を抑え、紙コップの水を飲み干してコーヒーを移しかえました。紙コップが小さいので、それでもコーヒーが余ります。
看護師は、
「今飲んじゃえ。」
黙って飲み干すしかありませんでした。
コーヒーを飲む。たったそれだけのことです。でも、それさえ思うようにできませんでした。
しかも、看護師に促されて一気に飲んだ水は、前夜にもらっていた貴重なもの。ペースを考えながら少しずつ飲んでいたそれを、一気に飲み干してしまったことや、楽しみにしていたコーヒーが残念な結果に終わったことなど、この日は思うに任せない朝となりました。
ホントに些細なことですけどね、今思えば。でもこの時はそれが全て。
私にとっては一大事だったんです。
一方で、チョット元気になっていることにも気がつきます。なんか少しイラついとる自分に、ホッとしたような。
解き放たれる10号
朝食を食べていると、廊下にお掃除の業者が入ってきます。
その時に看護師が、
「10号は多分午前中に出るので、
掃除はその後でいいです。」
「ん!? 俺のこと?」
10号少し喜びます。
昨日別の看護師から、先生に部屋移動の希望を伝えてみては?とアドバイスをされていたので、今日主治医が来たら聞いてみようと思っていました。
それがもう既に決まったいるのか???
期待に胸を膨らませる49歳のオヤジがいました。
その後、午前中の早い時間だったと思います。主治医が来て部屋の移動を告げられます。そして担当看護師が来たので、再再度「これからシャワーって浴びられますか」と聞いたところ、再再度大量のタオルを頂けました。
でも、今度のタオルは「ペーパー」ではない、普通のタオル。しかも温かい!どころか熱っ!普通のタオルを見て興奮して、顔に当てたら熱さでひっくり返りました。
でも、気持ちよかったです。何枚ものタオルで全身リフレッシュ出来ました。
さぁ、いよいよです。
扉を2枚くぐり、普通の(?)閉鎖病棟へと足を踏み入れました。
奥隔離よさようなら。先輩2人を残してきたのは心苦しいですが、後にも先にもあの病棟があんなにも広く、明るく見えたのはこの時だけでした。きっとテンションが爆上がりしていたのだと思います。
次なる私の部屋に案内されます。
個室で、窓から外の景色が見え、太陽の光も入ってくる!蛍光灯が2つもありトイレにはウォシュレットも!洗面台もある!手が洗える!ピンクと茶色の壁紙がやけに眩しく見えました。
また担当看護師に、性懲りもなくコーヒーとチョコをお願いしたのですが、すぐさま対応してくれました。本当に心から感謝です。
部屋は、身長166㎝の薄衣の足で、奥行き8歩、幅2歩半。カーテンこそついていませんが、時計もエアコンもあります。
看護師曰くカメラはついているけど、トイレに座ったときは膝下くらいしか映らないとのこと。
開放感に満たされました。
振り返ると
今思えば、隣室の騒音で全く眠れる気配すらないとき、眠剤をもらうなど自分から起こせるアクションもあったはずです。でもナースコールの出来ない薄衣。無理でした。自業自得と言えばそうですよね。
しかしこのナースコール。天井のスピーカーに向かって「大きな声」。これは出来ませんでした。恥ずかしかったんだと思います。自意識過剰でしょうかねぇ。
それとコーヒーひとつで結構怒ってました、当時は。本当にしょうもないですよね。
でもあの時って、あの世界、あの場所、あの瞬間が全てだったのです。
缶NGの部屋に缶コーヒーを買ってこられ、大切な水を奪われ、何より楽しみを全部奪われた!みたいな感じで直後に来る悲しみ、その後に来る怒りなど、久しぶりに感情がゴチャゴチャしていたと思います。返す返すも大げさです。
【缶コーヒーの変】
そもそも言葉の使い方を間違っているとは思いますが、私の中ではそう呼びたいくらい大きな出来事・・・だった・・・はず。
ですが、今こうして綴っていると、鼻で笑ってしまうようなホン~~~~~~ットウにしょうもない出来事でした。
振り返ってみると、もう蒸し返されることのない、脇に放っておける出来事になっていました。
いや、笑い話として使えるかも、ですね。
でも、これがあの時は全く受け入れられなかったんです。
そういうあの時の自分、あんなことすら受け入れられなかった自分を、今の自分はようやく受け入れることができました。
気の持ちよう。
よく言われることですが、実際に経験してみないと分からないものです。こういう小さな経験と、それにちゃんと向き合うこと。これが、今までの私に欠けていたことなのです。
昔から、何事もウマいこと見えるように表面だけ取り繕っていたので、自分のこと、自分に起きたことをちゃんと考えていなかったと、今つくづく思います。
さて、ようやく奥隔離から解放された薄衣。
ここから、全く違った入院生活を送ることになるのですが、それはまた次回に。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
続きます。
サポートに心から感謝です。主夫、これからも書き続けます。