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ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』は、私にとって宝物のようなドラマになりました

とうとう最終回を迎えてしまったドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』。まだ余韻に浸っています。

毎話毎話感動の連続で、言葉に対する想いがもっともっと深くなって、このドラマが愛おしくて愛おしくてたまらなくなりました。このドラマと出逢えて本当に幸せでした。

全十話の感想を書こうと思ったら、本一冊書けてしまうくらいの想いが溢れ出てきてしまいそうです。

池田エライザ演じる主人公・岸辺みどりの成長物語ではありましたが、登場人物一人一人に丁寧にスポットを当てていて、みんなの辞書作りに対する熱量が嘘偽りなくストレートに伝わってきたところに説得力がありました。

「大渡海」の辞書編集チームのメンバーはもちろん、宣伝部に身を置きながらも"もう一人の辞書編集部員"として常にいい働きをしてくれた西岡。"究極の紙"作りに、みどりと共に粉骨砕身奮闘してくれた宮本。装丁オファーに応じてくれた後、何度も悩みながら最高の表紙を生み出してくれたブックデザイナー・ハルガスミ。

一冊の辞書が完成するまでの、気の遠くなるような長い年月を共に闘い続けてきた仲間との絆はかけがえのないものであって、こんなやりがいのある仕事に携われる辞書編纂者の人たちが心底うらやましく感じました。

みどりが宮本との会話から気になって確かめた「血潮」という言葉。「千入」という"ちしお"しか「大渡海」に入っていないことにみどりが気づき、そこからもう一度「用例採集カード」100万枚を「大渡海」25万2,000語の見出し語と照らし合わせる作業が発生したときにはドラマなのにドキドキしました。

穴の空いてるかもしれない舟にみんなを乗せて、海には出せません

この馬締の言葉に大学生のアルバイトたちも奮起してくれて、2か月かかる作業を2週間でやり遂げることができたときには、まるで自分もそこに参加したような気持ちになりました。

宮本とみどりの想いが通じ合った時の二人の会話も忘れられません。母親との幼い頃からのわだかまりの経験から、愛する人が突然いなくなってしまうことを恐れるみどりの不安の吐露を打ち消す宮本の優しい言葉が胸に響きました。

「怖いんです」
「えっ?」
「めちゃくゃ…めちゃくゃ優しいじゃないですか。宮本さん。あったかくて、面白くて頼もしくて…」
「そんな…」
「でも、宮本さんがそんな人だから、私、また無意識に調子に乗って甘えまくって。あのバラ…?『星の王子』さまのバラみたいにわがまま言って、自分勝手に宮本さん振り回して、だんだん静かに嫌われて、それである日突然黙っていなくなって…。ごめんなさいホント。子どもみたいな。多分、私そういうとこ子どものまま止まってて…」
「ないです!俺は、自分の意思では絶対黙っていなくなったりしません。黙っていなくなられちゃうってことがどれだけ苦しいか、何がダメだったんだろう?あの時ああしてれば…。ああしなければって想像ばっかしちゃって、どれだけ引きずるか知ってるんで。俺はしません、絶対。っていうか、ないですから。静かに嫌うとか。もしあったら嫌いになる前に伝えます。けどその十倍、百倍、そういうの嬉しいとか、幸せとか、そういうとこ好きとか、伝えたいです。だって、そのためにあるんですよね?言葉って」
「私…私もあなたが大好きです」
「マジすか?」
「マジです」

ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』第9話より

最終回は「大渡海」監修の松本先生が食道がんになってしまい、コロナ禍で面会もできない中で迎える校了までの日々がまず描かれました。

馬締はコロナによって生まれたたくさんの言葉たち…集団感染、クラスター、ヒト・ヒト感染、咳エチケット、不要不急、パンデミックetc…。それらを「大渡海」に載せるべきではないかと言い出しました。

荒木は時間がないと反対しますが、そこに松本先生の奥様が…。奥様が持参したのはなんと、松本先生が集めたコロナ関連の「用例採集カード」と執筆された言葉の説明原稿。

「残すべき言葉は、手渡すための言葉は…」
「手渡すって何を?」
「嵐の避け方、越え方…でしょうか」
「嵐…」
「災害や病気、生き抜く上でのさまざまな困難はどうしても、どんなに避けてもやってきてしまう…。きっと無くなることはないでしょう。それでも人間は未曾有の困難に直面するたび、懸命に抗って大切な何かを失って、でも同時に尊い何かを獲得し、それを後世に手渡し少しずつ前に進んできたんだと思います。手渡すためには、言葉が必要です」

ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』最終回より

みどりはじめ、辞書編集チームは松本先生の情熱に情熱で応えたいと。荒木も「やってくれたな。辞書の鬼」と。

ここから校了まで松本先生の情熱をなんとか「大渡海」に盛り込むために、再び奮闘する辞書編集チームの面々。3月末日、無事に校了を迎えることができました。

その後の松本先生からのメールも感動的でした。コロナ禍において、より誰かと何かと″つながる″ことの大切さを実感した今だからこそ、この松本先生の言葉の意味が心に沁みます。

「私の死後、あなた方が言葉を潤沢に巧みに使い、私の話をしてくれる。その時私は、確かにそこにあなた方と共にあるのです。言葉は死者とも、そしてまだ産まれていない者とさえつながる力を持っているのだと。つながるために人は言葉を生み出したのだと、そう思えてならないのです。その瞬間、死への恐怖は打ち上がった花火のように散り去って、消えることのない星の輝きだけが残るのです。新型コロナウィルスによって人々が分断されてしまった今、まさに言葉の力が試されているのかもしれません。むろん、言葉は負けないでしょう。距離を越え、時も越え、大切な何かとつながる役目を見事果たしてくれることでしょう」

ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』最終回より

馬締の奥さん、香具矢の存在も大きかったですね。いつもみどりのよき理解者であり、馬締を寛大な心で受け止めてくれる最高のパートナー。

コロナ禍で自分のお店を一時閉めて京都に行くと一人で決めた香具矢。「大渡海」の校了までみどりも馬締も香具矢の苦しみに寄り添うことができなかった…でもそういう二人が好きだからと。香具矢のこの強さが馬締を支えてくれているんですね。二人の愛の形は、二人だけの唯一無二のものだと痛感しました。

そうして迎えた刊行祝賀会。松本先生はリモートでの挨拶でしたが、辞書編集部員一人一人へ感謝の言葉を。その言葉に涙涙でした。

「馬締光也さん。あなたにとって言葉が宝であるように、言葉たちにとってもあなたは宝です。何も恐れず、密やかに輝く小さな光だけを見つめ、深く深く言葉の海に潜り続けてください。大丈夫です。あなたの仲間たちが決してあなたを溺れさせません」

「岸辺みどりさん。できましたね。用がなくても、触ってめくって…眺めたくなる辞書。できました。『大渡海』編纂の日々、特に岸辺さん。あなたが来てからの三年間はなんて楽しいものだったでしょう」

ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』最終回より

最初は辞書作りに何の興味もなかったみどりの心は、作業をしていく中で大きく変化していきました。

このドラマは心に残したい言葉たちが満載で、どれもこれも全部書き留めておきたいくらいでした。

馬締のこの言葉も私にとって大切な言葉になりました。

「それでも言葉にしてください。今、あなたの中に灯っているのは、あなたが言葉にしてくれないと消えてしまう光なんです」

自分が思ったことをそのまま口にするのが憚られる瞬間もあります。でもたとえ上手く伝えられなくても、自分の中に灯った小さな光である言葉をきちんと伝えていこうと改めて思いました。消えないうちに…。

言葉って、本当に素晴らしい!
私も言葉とずっとかかわり合いながら、生きていきたい!

そんな気持ちにさせてもらえたドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』。私にとって宝物のようなドラマになりました。

みどりの最後のナレーションが、これからの私の人生における言葉とのかかわり合い方の道しるべとなってくれるように感じます。

生きることは変わること。自分もみんなも。世界も。何もかも。変わることは止められない。それが嬉しいときもあれば、きっと苦しい時もある。

その先へ…。言葉の海に浮かぶ小さな光を集めて、伝えて、受け止めて。誰かと何かとつながって。その先へ…。

辞書はそのための大切な舟だから。これからも私、辞書つくります!」

ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』最終回より

長い文章最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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