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もしもゾンビが303

ひとつ屋根の下、大家族で生きていく。それが新しい世界の暮らし方。何の為に?幸せになる為に。幸せを求めるには、人は自分にも他人にも優しくあるべきだ。

幼児が転んで泣き出した。大人は手助けをしない。年長の子供達が抱き起こし、汚れた腕や脚、服の泥を払い頭を撫でた。幼児は嗚咽を漏らしている。

1人の子供が幼児に哺乳瓶持たせ、一緒に子牛にミルクを与え始めた。幼児はすぐに夢中になった。2人は顔を見合わせて喜びに瞳を輝かせた。

「兄弟じゃないんだ。でもあんな風に自然に面倒見るんだ」
私達は微笑んだ。とても良い流れで子供が育っている。こういう些細な事が大切なんだ。なんて温かな暮らしをしているんだろう。

ここには東京のコミュニティのような殺伐とした空気感がない。のどかで平和だ。でも東京だって最初はうまく行ってた。それが段々と変わってしまった。

半ゾンビと影で叩き、見下して笑い合うコモン達。新人類だと思い込み特権階級に甘んじていたグリード。二分された人々の距離は深まるばかりだった。崩壊は必須だった。

たとえ、あのヤンキー集団が火を着けなくても遅かれ早かれコミュニティは終わっていただろう。分けなくても良いものを区別した歪みが生じたのだ。

ふと目についた。皆から離れている数名の男女が気になった。目が合って笑顔を向けてくれる。頭を下げた。
「あの人達…グリード…。白い目の人ですね…」

ナカムラは彼らに目をやり、こちらを見た。
「そう。いつもああやって皆んなと距離を置いてるんだ」
「そうですか…」

人と交わることの出来ない孤独。仲間が欠ける寂しさ。自身が発症する恐怖。ウィルスの残酷な運命。それでも命ある限り生きていく。精一杯。彼らも幸せでいて欲しい。心からそう思った。

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