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調査報告 父親は苦手なものを食べた

古東利樹は、家族3人分の夕食を作った。ご飯、唐揚げ、ほうれん草の胡麻和え、大根の漬物、味噌汁。唐揚げを作りすぎた。和樹はどれだけ食べてくれるだろうか。残ったら、明日の夜も唐揚げだ。

 さて、古東利樹にとっての一番の問題は唐揚げではなかった。ほうれん草の胡麻和えだ。利樹はこれが好きではなかった。はっきり言って苦手だし、嫌いだった。甘ったるく、舌から中々離れない感じ。それが嫌いだ。全く、何でこんなものが地球に、それも日本にあるのかわからない。

 それでも彼が自分で作ったのは、何だろうか、ほんの出来心、あるいは一瞬の気まぐれの為だった。自分は和樹に、好き嫌いなく食べるように言っている。それが自分は、嫌いなものを食べないというのでは、いけない。自分も食べよう。彼はそう思ったのだった。

 憂鬱だった。作っている時から、後悔だらけだった。どうしてこんなものを作っているのか。馬鹿な事をした。彼はそう思った。けれどもう戻れない。ほうれん草の和え物は案外直ぐに作る事が出来てしまった。

 3人の揃った夕食。冴子が、あれ、嫌いじゃなかったの、と彼に聞いた。それで彼は、これが嫌いだという事を、よくよく思い出してしまった。本当に嫌いだ。それでも仕方がない。何せ、作ったのは自分なのだ。食べる。

 やっぱり嫌いだ。何だこれは。ブツブツの食感が絶妙に嫌だ。そして口から消えない。嫌いだ。

 利樹は、彼を見る和樹に対して、精一杯、苦々しい顔をしてやった。和樹は口を凹ませた。それが唯一、利樹が得た報酬だった。


   可

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