千福理央

いろんな場面を切り取りたい

千福理央

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最近の記事

【切り取り小説】どーゆーこと?

いや違う違う、そういうことがしたかったんじゃないの! 私は新宿駅前があんまり汚いから、もうちょっと世の中綺麗になればいいのになっていっただけで、それをあなたにお願いしたわけじゃないし、それにこんなふうに叶えてほしかったんでもありません! 「ああ、分かっているよお。でも、俺はでっかい夢を叶えたかったんだあ」  夢なら自分で作ってくださいよ! 何で他人の夢を叶えてくんですか! それに叶えるんならちゃんと話聞いてからにしてください! あなた何なんですか? どうして学校の正門前で

    • 【切り取り小説】欲張りと頑固者

      時間がない。一瞬たりとも時間がない。やりたいことが多すぎる。休みゃいいのに、絵を描いて、ギターを弾いて、それから資産形成の勉強をしていたら、時間があっという間に尽きてしまう。  そんなことだから友達に会う暇もなくて、段々と精神的に参っていく。しょうがないから外を歩いて心を落ち着けるのだけれど、そうするとまた時間を失って、僕は焦燥を抑えられなくなる。みんな浮かれているのに。暑いのに。夏休みなのに。一人でこんなになって、恥ずかしい。  『小説の書き方』という本を見つける。欲し

      • 幻影小説

        頭痛に続いてひどい眩暈がした。冷めた気持ちでかんかん照りの太陽の下、アスファルトの上を歩いていた。最悪な気分だった。目を開けると、前髪が入って痛い。それでも周囲を見渡すと、ドアを開け放っている家を見つけた。エアコンの吐き出す空気が欲しかった。  色が殺すように私に向いた。これは夢ではない。私の夢はもっと単純で暗い。住人はいなかったが、空気は冷たかった。風が心地よく吹いていた。勿論、人工的な風だ。ちょうど風の届く位置に、ソファがあった。私はそれに寝転がった。ずっとここにいたら

        • 【切り取り小説】鼓動を聞け

           村ごと消えた。帰る場所がなくなっていた。代わりにたくさんの刃物が落ちていた。血まみれの刃物達だった。母の使っていた刃物に、母の血が付いて落ちていた。それが母の唯一の形見だった。家は壊され、死体はなくなっていた。  泣いた。死にたいと思った。けれど一緒に死んでくれる人がいなかった。当てもなく歩いているうちに、怒りが込み上げてきた。まっすぐな思いは、復讐に向かった。ぎりぎり持っていた理性で、対象が誰なのかを考える。  寒い。もうすぐ雪が降る。すると、この辺りは外界との接触が

        【切り取り小説】どーゆーこと?

          【切り取り小説】詐欺はいけません

          みんな! サンタだよ! 今日はみんなに正しいAIの使い方をプレゼントしにきたよ! AIっていうのはね、とっても便利で、サンタさんもよく使ってるんだけど、注意してつかわないと、怖い目にあっちゃうかもしれないから、気をつけなきゃだよ! 例えばね、こうやってAIにぽちぽちっと、サンタさんの個人情報を入力してみよう! ははっ! サンタさんは特別な訓練を受けてるから、みんなは真似しちゃだめだよ! そうするとAIさんはね、ほらっ! 僕のご近所さんのお名前とか、僕の昨日食べた料理の名

          【切り取り小説】詐欺はいけません

          【切り取り小説】歪んで上がって元どおり

          信じられるか。それが問題だった。  一昨日からの雨で、洗濯物は溜まりに溜まって、僕の生活環境は崩壊寸前で、それなのに世界はそんなに焦った風ではない。いつも通りのニュース。僕とは関係ないニュースが、幸せそうに流れていた。消せばいいのに、音がないと気が狂いそうだから、僕はテレビをつけっぱなしにしていた。それでも、考えてしまう。彼女の浮気について。  あの写真は、何なのだろう。夜の11時に、ここではない県で、二人で撮られた写真。彼女は正解を教えてくれなかった。言いたくないことが

          【切り取り小説】歪んで上がって元どおり

          【ショートショート】小さかったとき

          林間学校で泊まった宿舎の屋上から見た夜空はとても綺麗で、友達がたくさんいたのに私は一人、空に吸い込まれる感覚に酔い、見惚れていた。どこで覚えたのか、自分の人生と世界の大きさとを、子どもなりに比べようとして、生まれてからその日までのあまりのちっぽけさに悲しくなったりした。夜空を見るのは、これが二回目だった。  最初に見たのは父と弟とキャンプに行って、バーベキューをした後だった。ウインナーがとにかくおいしくて、私の気分は絶好調で、勢い弟と鬼ごっこした。父も一緒だったかもしれない

          【ショートショート】小さかったとき

          【ショートショート】起きたら

          ひどい夢だった。王子様も魔法も出てこない、退屈な夢だった。上司の瀬戸さんに「プレゼン資料どう?」と聞かれて、でもそんなの作れって言われた覚えなくて、「え、何のことでしょう?」って言おうとした途端に風景がガラッと変わり、私は崖から突き落とされていた。ああ、落ちる、落ちる。下には海も陸もなくて、私はただただ真っ逆さま。風が強くて四肢が持っていかれそうになり、頭もどっかへ飛んでしまうんじゃないかと思った時、目が覚めた。  カラフルな世界だった。少なくとも寝室ではなかった。グミみた

          【ショートショート】起きたら

          【ショートショート】おはよう

          あつくても外に行きたいけど、外に行くとあついからお家にいなさいってお母さんに言われました。なつ休みにおじいちゃんに会いに行くこともできないし、さいあくです。しゅんは北海どうに行くって言ってました。なつに北海どうに行くのはかしこいです。お母さんに、北海どうに行こうって言ったら、そんなお金はないって言われました。でもそんなことはないと思います。  今日は花火大会でした。花火大会はお家から見れました。地面には人がたくさんいて、大変そうでした。でもぼくはお家からだから、すずしいかと

          【ショートショート】おはよう

          【ショートショート】唇の色

          私たちが結婚したのは、8年前のこの場所でした。その頃は彼も美しくて、私も同じくらい美しかった。お互いに歳を重ねる事を知らないで、純粋だったのです。誓いのキスをする時など、彼の唇の鮮やかさに見惚れて私は、一度彼から顔を背けてしまった程で、でもそんな私を、彼はとても素直に愛してくれていました。  それからどれだけ時間が経っても、彼は綺麗なままで、私が歳を重ねるにつれて彼の純粋さは際立ち、私はますます彼を愛してゆきました。でも、どういう訳か、彼と私との距離は離れていって、どうすれ

          【ショートショート】唇の色

          【ショートショート】潮風

          男たちのいない港町で、果物屋は身の狭い思いをしていた。苦しい経済情勢の中で、町の女性が果物を買うのは、彼女がこの町の一員だからに他ならなかった。でもそんな綺麗な助け合いがいつまでも続くとは、彼女は思っていなかった。みんなが陰で文句を言っているのを、彼女は知っていた。  売れ残ったキウイがゴロゴロと音を立てて崩れた。整理してもゴミ箱に捨てても、同じようなものだった。彼女は1つ手に取って、そのザラザラとした表面を撫でた。人肌恋しかった。  甘い、甘いキウイだった。皮の中は宝石

          【ショートショート】潮風

          【ショートショート】私の宝箱

          森が弟を奪ってから7年が経った。家族でここに来るのは私だけだった。重く沈む感情を抱きながらも、こうして森の中を歩けてしまうのは、私が両親や姉ほどは弟の死を悲しんでいないからかもしれない。そんな罪の意識が、私の歩速を速めた。  弟は昆虫が大好きな少年だった。中学生になっても虫に夢中で、勉強なんか碌にしていなかった。友達を作る気もなくて、家で飼っていた名前も知らない虫を、学校も行かずに眺めていた。土日には朝早くから森や山に足を運んでいた。夜になっても帰ってこなかった。  その

          【ショートショート】私の宝箱

          【ショートショート】ぽちぇと好きな人がいう

          「ぽちぇ」と彼女が言ったのを聞いたのは僕だけだった。カエルの解剖実習で、僕と彼女が隣の席だった。神経を辿っていく難しいところで、みんなが集中していた。でもそんな大事な時に彼女がそんな声を発したものだから、僕はつい彼女を見てしまった。神経は、見失ってしまった。  綺麗な人だった。彼女の事が好きだった。彼女はこちらを見もせずにカエルの神経を探し続けていたけれど、その小さな顔は赤らんでいた。危なっかしいくらい、分かりやすい人だった。そして奇跡みたいに、素直な人だった。彼女の存在に、

          【ショートショート】ぽちぇと好きな人がいう

          【小説】追いかけましょうかね

          えっと、何で走ってるんでしたっけね。刑事さん。僕はこれでもそれなりに収入があるんです。いや、お金持ちって訳じゃありません。年収は平均以下ですよ。でも僕は3,000円の為にこんなに走りたくはないんです。  え、あんな人を野に放ったままでいいのか? まあ刑事さんはそう思うべきでしょうけれど、僕はそんな正義感の強い人間じゃないんです。ちょっとくらい良いじゃないですか。そりゃ毎日毎日、お金を盗られちゃ、僕も嫌になるでしょうけど、別に一回くらい許しますよ。それより僕には、走る方がよっ

          【小説】追いかけましょうかね

          小説の中の恋の香り(短編小説)

          五月が大好きだ。桜は散ってしまったけれど、暖かく、爽やかで、お散歩にはうってつけの季節だから。それに、小説の中の恋の香りが、至る所で私の鼻から脳に届く。だから私は、この街をひたすらに歩きながら、この街のどこにもいないであろう運命の人に思いを馳せて、そう、ただ祈りながら、意図もなく街を歩く。  私に恋を教えたのは、たった一つの小説で、その作品はあまりに深く私の心に浸食したから、タイトルなんかもちろん言えないんだけれど、でもその作品の題材は高校野球だった事くらいは、言ってもいい

          小説の中の恋の香り(短編小説)

          【小説】地震かと思ったら心臓が動いているだけだった

          イラストを描いていた。自己表現なんかじゃない。ただのイラストだ。それでも、適当に描いていた筈の人物が、いつの間にか彼女に似てくる。今日の昼に会った彼女。付き合ってなんかいない。友達ですら、ないだろう。なのに、僕は、そう。彼女の事ばかり考えている。だからイラストにも描いてしまったのだ。あまりにも分かりやすい自分の事が、僕は嫌いだ。  絵を描き出したのは、小学生の時だった。あの時、大きな地震があって、今思えばかなりぼんやりとしていた僕は、小学校のグラウンドみたいに現実がぬかるん

          【小説】地震かと思ったら心臓が動いているだけだった