幻影小説
頭痛に続いてひどい眩暈がした。冷めた気持ちでかんかん照りの太陽の下、アスファルトの上を歩いていた。最悪な気分だった。目を開けると、前髪が入って痛い。それでも周囲を見渡すと、ドアを開け放っている家を見つけた。エアコンの吐き出す空気が欲しかった。
色が殺すように私に向いた。これは夢ではない。私の夢はもっと単純で暗い。住人はいなかったが、空気は冷たかった。風が心地よく吹いていた。勿論、人工的な風だ。ちょうど風の届く位置に、ソファがあった。私はそれに寝転がった。ずっとここにいたら寒くて風邪を引いてしまうだろう。でも、暑いよりましだ。
段々と頭痛が増してきた。自分の頭痛に自分でイラつく。馬鹿馬鹿しい。うんざりだ。メロドラマが見たくなったが、残念ながらテレビはなかった。現代的な住人らしい。中指を立てた。
テレビの代わりにソファと反対側にあったのは、白いピアノだった。そのピアノはやけに脚が短くて、私には弾けそうになかった。それでも無理に中腰になって、鍵盤に手を触れる。トロイメライが流れてくる。横にいる少年が弾いているものだった。
「どこからきたの」
「これは俺の鍵盤だ」
威圧的で不貞腐れている少年の手には、いくつもの引っ掻き傷があった。ピアノの脚はぎこちなく切断されていた。曲はすぐに終わった。元が短い曲だから、当然のことだった。私は礼儀としての拍手をした。そんなに上手ではなかった。少年はきちっとスーツまで着ているのに。
本心が伝わってしまったのか、少年は怒ったように去ってしまった。窓から飛び去るその姿に、私は嫉妬した。ここには何もない。楽しいものは何一つ。頭痛はいよいよひどくなる。眩暈がして、倒れ込んだ先にあった鍵盤は、少年のそれよりもひどい音を立てて私の神経を逆立てた。
ファ#ソソ#ラミファソラシド!
※サムネイルの画像は、Canvaの画像生成AIであるTexttoImageを使用して作成しました。
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