見出し画像

【書評】 医療からも教育からも見放され『ケーキの切れない非行少年たち』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。46冊目。

児童精神科医である筆者は、多くの非行に走る少年少女たちを診ていくなかで、知能障害までは行かないが通常の生活に支障をきたしてしまうレベルの「境界知能」の人々が多くいることに気が付く。

そういった少年少女たちは、学校のクラスの下から5名程度の割合で居るそうで、読み書きや計算が出来ないまま放置される。その状況に本人達は「困る」のだが、それを適切に見つけてもらえず、必要な教育も支援も受けられないまま、社会へ放り出され、虐げられ、そのうちの一部は犯罪行為に走っていく。

少年院に入る若者達には、認知力が低く「ケーキを等分に切る」ということが出来ない子が大勢居る。書籍のタイトルにもなっているが、紙に書いた円をケーキだと説明し、これを3人で分けるならどのように切るのかと書かせたとき、メルセデスのマークのような線が引けない。

彼らの多くは、認知能力が低いために他者への共感能力が低く、反省するという概念が理解できない。葛藤するということすら出来ない。

こういった「境界知能」に居て、学校や社会から弾かれ非行に走る子供達を減らすために必要な事、それは「困っている」子供を見つけ、適切に対応するこだと著者はいう。

少年院で更生に励む彼らの、自分を変えようと思った時の声に、少し胸を打たれる。

”先生から注意されている他の子をみると、自分も昔はああだったのだと思った。どうして注意されるかわかった”

更生に向かう姿の素晴らしさってのはあるが、それよりもなによりも胸を打つのは、最初から適切な支援があり、それを受けられる機会があれば、彼らは犯罪なんて犯さなかったのだと思えるからだ。

多少は素行の悪さとかで周りの人に迷惑をかけるようなことはあるかもしれないが、人を殺めたり、小さな子供への性犯罪を繰り返したりと、他人の人生を取り返しのつかないレベルで影響を与えてしまうことなんてなかったのかもしれない。自分が、自分の家族が被害者だとしたら、こんな白々しい手記なんてとおもうかもしれない。何故最初から他人に対する共感を持って生きていく事が出来なかったのかと強く思うのだと思う。でも、それは私たちが築き上げてきた社会の責任だ。私たちは、彼らの小さな「困った」を放置してこなかったか。

もし可能であるならば、非行少年達には、自分の力で過大な欲を抑え、幸福を手に入れるチャンスが与えられる環境にいて欲しい。そのための支援が受けられるような社会であってほしい。そういったことを考えるきっかけになる1冊だと感じた。

この本の問題提起がキッカケになり、問題行動を起こす少年少女たちが、適切な検査、治療が受けられる社会が訪れたら良いなと思う。

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,575件

#読書感想文

189,568件

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。