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【書評】 ページを手繰る手が止まらない 『火車』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。146冊目。

多分だけど、宮部みゆきの作品を読むのは初めてです。

天邪鬼になって流行作家を避けていたという訳ではなく。単にどれから読んで良いのか見当がつかなったのです。だって、作品が沢山あるのですもの。

それに、作品が沢山出ている流行作家だし、あとでまとめて読んでしまえば良いかなと。だから、東野圭吾も同じ理由で(たぶん)読んでいない。

だってですよ、今読まないと、この先、一生本屋で出会わないのでは? という著者、書籍って多いのですよ。そういったものを、逃すものかという気持ちで買っているので、自然と流行作家さんは後回しになりがち。

今回、なぜ本作を手に取ったのか、それは、本作が参加している読書会(美味しいごはんと美味しいお酒を楽しみながら感想を言い合う会)の課題図書になったのです。

『火車』(宮部みゆき)

ということで読みました。文庫で700ページ弱の大ボリュームですが、読み出したら勢いが止まらなくて、1日で読み切ってしまった。

一度読み始めたらグイグイですよ。グイグイ。

話のテンポも良いし、読みやすい。途中で戻って確認して、みたいな必要もなく、サクサクと読める構成と書き方でグイグイですよ。グイグイ。

いやぁ、面白かった。

しかし、本作、どうやって紹介したらよいのかな。ミステリーなので、あらすじを書いちゃうと、そのままネタバレになるし……

話の始まりは、休職中の警察官である本間俊介の元に、亡くなった妻のいとこの息子が訪れるところから始まります。かなり遠縁。

うだつの上がらない求職中の警察官ということで本間に目をつけたその遠縁の男は、彼の婚約者「関根彰子」が失踪してしまったので行方を捜してほしいと本間に依頼する。曰く「関根彰子」が多重債務による自己破産を経験していたことを知り、そのことを「関根彰子」に追求したところ、翌日、失踪してしまったというのだ。

しかも、痕跡も残さず、綺麗さっぱり消えてしまった。

本間は、様々な協力者の力を借り、彰子が失踪した謎に迫ろうとするのだが、調べれば調べるほど出てくる不可解な事実が明らかになっていく。

ということで、これ以上は、あまり突っ込んで書けない。

ここから先が超面白いのだけど、書けない。

ミステリーだものね。

ミステリーの書評って、どうやって書いているのかしら。プロの方が書いたものも含め、書評はあまり読まないようにしているのだけど、どうやって紹介したらよいものか。

本作は、ある失踪女性を探す物語なのだけど、同時に、かつて日本で問題になった消費者金融の闇と、それに翻弄され続ける関根彰子と呼ばれる女の人生を明らかにしていく物語でもある。

経済的な困窮は、それを追い立てるものが他人の人生を顧みないことから、目も覆わんばかりの惨状となりがちだ。近代の日本では、構造上の問題から消費者金融の問題が放置されていた期間が長くあり、多重債務に苦しむ者を数多く作り出した。

『火車』の物語の中で、破産を扱うベテラン弁護士が、多重債務者をさして「人間的に欠陥があるからそうなるのだ」と断罪し自己責任として処理する世の中の現状を示しつつ、果たして本当にそうなのかと問うている場面がある。

弁護士は強く主張する。これは無尽蔵に金を貸し続ける金融事業者が次々と現れる構造上の問題であり、法外な利息を生む法定金利の問題であり、多重債務を水際で防ぐ手立ての無い行政上の不手際であると。そして、最も強く主張するのは、それらをしっかりと教えてこなかった教育の問題であると。

世の中には自己責任論がはばをきかせているが、構造や仕組み、そして教育の徹底をしないかぎり、誰しもが多重債務者になるリスクを抱えている事を知らなくてはならない。

CM等で盛んにキャッシングせよと宣伝されているが、融資の際に説明されていた返済金額では、金利の返済にほとんどきえてしまい元本が減らない。そんな不十分な説明で負った借金は、雪だるまのように増えていき、やがて返済のための借金が始まる。そうなると、完済することは非常に難しい。やがて本人の収入では到底返しきれない状況とまり、手遅れとなってしまう。

「ご利用は計画的に」と書けば免責なのか? そうではないのだ。

ということで面白い作品なのだけど、終わり方はアレで良いのか。

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