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【書評】 今回の芥川賞受賞作品はクセがすごい 『破局』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。380冊目。

芥川賞受賞作品。先月の中旬(2020年7月)に決定した。今回は二作が受賞。

今日読んだのは、遠野遥の『破局』。

他者への共感を欠いた大学生の男性が主人公。彼は、どこかSF作品に出てくる人口知能のよう。常識的な成人男性ならばこうするはずだ、といった常識や、父親からすりこまれた行動規範に従い行動することで社会生活を営むことが出来ている。

彼を取り巻く人間たちもまた何処かいびつに見える。皆が何かに寄りかかっていて、それがコミュニケーションだったり、権力やキャリアだったり、セックスだったり。

話の流れとしては、何でもそつなくこなし、キャンパスライフを謳歌するサイコパス気質の主人公が、自らのアドバンテージとしていた事柄のすべてに打ち負かされていく、それを指して「破局」だよということらしい。

なんてことのない話なのだけど、主人公の男性による一人称の語りが作品に独特の力を与えているというか、作品を独特なものにしている。例えば、登場する女性達にはまるっきりリアリティが無いのだけど、それは主人公を通して女性をみているからだと納得してみると、そのリアリティの薄さが却ってリアリティを増す結果になる。

物語の後半、タイトルの通り「破局」に向かう展開が始まるのだけど、「破局」というほど大げさな出来事があるわけではない、しかし、他者から与えられた正義に頼りそれを守る事で生きてきた主人公にとっては、これ以上考えられないほどの破局であったのかもしれない。

小説として面白いかと問われると、少し微妙。だけど、この著者の作品は読み続けてみたいと思わせる魅力があった。

noteを書いたあと、インタビュー記事などを読んでみたのだけど、主人公と作者はそっくりな印象。クセがすごい。

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