【書評】 フードテック最前線はこんなにアツアツだった 『クリーンミート 培養肉が世界を変える』
ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。213冊目。
以前に書いた読書メモで、採卵用に飼育される鶏が、想像を絶する悪環境に居て、とても可哀想な境遇であると知り、特に日本では厳しい状況だと知ってしまい、それ以来、卵を買う時は「平飼い」と明記したものや、平米あたりの飼育数が明記されており、かつそれが適切な範囲にあるとわかる製品しか買えなくなってしまった、という話を書いた。
あれを書いたあと、割と賛同してくれているというか、以前から同じ理由で卵が買えなくなったという方や、そもそも食用の肉を生産する現状に嫌気がさし、菜食メインにシフトした人など、色々なかたから、賛同の声をかけられた。
私は、菜食主義者になるまでには至っていない。確かに、人間が家畜にしていることは酷い事だし、ろくでもないと思うのだけど、それにもまして肉を食べることが大好きだ。肉がない人生があるなんて想像すらできないような人間だ。矛盾なのかな、でも、肉は美味しいのだ。
この本の著者であるポール・シャピロは、私のような欲に弱い軟弱者ではなく、動物愛護の精神からヴィーガンとなった方だ。
この方が、人工的に培養された肉について、世界中で、研究やビジネスどのような現状になっているのか紹介してくれているのが本書となる。
人工的に培養された肉というのは、生きた動物から肉をいただくのではなく、動物から採取した肉の細胞を培養し、育て、それを頂くというものだ。試験管ミートとか、培養肉とか、いろいろと呼ばれていたようだが、現在は書名にもなっている「クリーンミート」の呼び名で落ち着いているようだ。
この本、とにかく面白かった。
本書を読むとわかるのだが、畜産のは動物愛護な視点以外にも、沢山の問題点をかかえている。一番大きいのは、環境への影響となる。
よく、温暖化の槍玉に上がるのが、化石燃料をつかって行われる運輸なのだけど、実は、これと同じくらい温室効果ガスを出しているのが畜産だ。
想像に難くないが、動物を食肉に加工するまでには、猛烈な量の資源が使われている。
よく、牛のゲップが地球上に大量のメタンガスを吐き出しており、それが地球温暖化の原因になっている、なんて話もあったりするが、とにかく破壊的なのは、餌となる飼料の生産だ。
みんな大嫌いな遺伝子組み換え大豆は、そのほとんどが畜産に利用されている。遺伝子組み換え植物と、大量の化学肥料、膨大な量の水。
いくら頑張ってプリウスに乗っていても、その足で肉を食べに行っているなら本末転倒なのだ。
本書では、そんな畜産の問題を解決するものとして、人工的に作られた肉「クリーンミート」を紹介している。
たまに、ニュースになったりはしていたので、動きがあることは知っていたけど、想像以上にこの分野の研究が進んでいて驚いた。投資も研究も盛んで、現在では、小さな肉片ではあるけど、100ドル程度のコストまで下がっているようだ。数年前にニュースになった培養肉で作ったハンバーグが1個33万ドルだった時代に比べると、随分とこなれてきた。
大きな塊の肉を安定的に作る方法が確立され、その方法で生産する工場がたてば、あっというまに価格は現在の肉と同じかそれ以下の水準になるだろう。
もしかしたら、10年も待たずに、スーパーで人工的に作られた「クリーンミート」を買うような時代が来ているのかもしれない。
いやぁ、すごいな、この業界エキサイティングだよ。
私は、この流れは絶対に必要だと思っている。なんなら、動物の屠殺の現状を知った時から、いつか生きた動物から肉を頂く時代に終わりが来たら良いのにとも思っていた。それは、現在もある植物由来のフェイクミートの技術革新でも良いし、昆虫食の発展でも良いし、細胞の培養で肉だけを作るという方法でも、なんでも良いと思っていた。マウスの背中に人間の耳が生えている写真を見たときも、豚に人間の臓器を作らせて移植に使うという研究の話を聞いた時も、この術をつかって牛肉や豚肉、鶏肉の代替になる肉を生産したら良いのにと思っていた。ずっと思っていて、生きているうちに、人工肉にシフトできる時代を待ち望んでいたし、一刻も早く味見がしたいと思っていた。
実は、そんな時代は割と近くまで来ていたのだ。
楽しみでならない。
このクリーンミートを普及するための活動ってのがあるのなら是非積極的に手伝ってみたいものです。
あと、早く食べてみたい。
「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。