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ハイリゲンシュタットの思い出


ハイリゲンシュタットのベートーヴェン


凛々しすぎるお姿。
数々の名言を残しているベートーヴェン。

「真に称賛できる人物とは、逆境に直面したときに、自分の生き方を貫ける人間なのだ。」 「苦悩を突き抜ければ、歓喜に至る」

子供のころから いつもベートーヴェンが傍にいるようで
私にとってベートーヴェンの音楽は生きる力の源です。
協奏曲を聴きながらピアノパートを自分で弾く・・
それが小学生の頃の遊びでした。
ピアノと遊ぶ・・それが一番楽しかった。

今日は敬愛するベートーヴェンのお誕生日なので
思い出の写真とともにベートーヴェンを巡る旅を・・・


ベートーヴェンの散歩道

ハイリゲンシュタットには、ベートーヴェンが散歩していた小径があります。
散歩道の脇には小さな小川が流れていて
この小径を歩いていると、 小鳥のさえずりと小川のせせらぎ・・
風と葉が織りなすハーモニー・・・
のどかで、時を忘れてしまいます。

「散歩をしながら交響曲第6番田園の2楽章「小川のほとりの情景」が生まれたのだよ」 とベートーヴェン本人が語っていました。

ベートーヴェンは散歩に出かけると何日も帰らなかったり、 ボロボロの衣服から浮浪者に間違われて警察に保護されたり、
逸話は尽きず、 自然界と宇宙と交信していたのかもしれない・・と想像してしまいます。


カーレンベルクの丘

さらに葡萄畑が広がるカーレンベルクの丘へ・・

山頂からの眺め


さらにその上へ・・
聴こえてくる音はどんどん広がり、頂上からウィーンを望むと、
息を呑むような絶景が広がり、時間が止まったかと思うほどで、
あらゆるものが響きとなって、まるで交響曲のようです。
空気はひんやりしていて、人気がなく静かで、
感動のあまり思わず涙がポロリ・・・


ベートーヴェンのお家

ベートーヴェンは引っ越し魔で、
ハイリゲンシュタットにも住んでいた家がいくつかあります。
今でもベートーヴェンが住んでいた家に
人が暮らしているところも・・
たとえ不便でも、一度でいいからその空間で暮らしてみたい。

ベートーヴェンのピアノ

観光シーズンを終えたベートーヴェンのお家は他に人はおらず
「ピアノを弾かせて頂いてもいいですか?」・・と聞くと
「もちろん」と、拍子抜けするくらいの快諾で、
驚きと嬉しさと舞い上がる気持ちを抑えつつ
存分にベートーヴェンと対話させていただきました。

エリーゼのためにを初めに、
ソナタ悲愴の2楽章、ソナタ田園、さらにソナタ30番・・・
ベートーヴェンの気持ちになりたいと思って
ピアノに耳を当てて月光を弾いてみたり・・
調子にのって次々と弾いてしまいました。

今のピアノよりも小さく、箱のように四角い。
調整されていないこともあるかもしれませんが、
鍵盤も、音も、全てが繊細で儚く、
愛おしく慈しむように触れないと壊れてしまいそうでした。
音は調整されていなくても、思いを馳せるというのは、
なんとも心地よく
ベートーヴェンが触れていた鍵盤、
数々の名曲を生んだピアノに触れるという経験は、
生涯忘れることができない思い出です。


ベートーヴェンハウスの近所の風景
夕暮れのバラ

暮れ時のバラの向こうに教会が見えます。
この教会の鐘の音はベートーヴェンも聴いていました。
でも・・ある日・・
いつも聴こえるはずの鐘の音が、
まったく聴こえないと気づいたベートーヴェンは絶望し遺書を書きます。それが有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」です。

絶望の先に聴こえたもの・・
芸術がベートヴェンを引き止めました。
そこから怒涛のごとく数々の名曲が生まれます。
「傑作の森」といわれる時期です。


アルサー教会
教会内


最後に・・
ベートーヴェンの葬儀が行われたアルサー教会(三位一体教会)

1827年3月29日2万人近くの市民が参列したと言われ、本当に偉大な作曲家だったことが伺われます。
シューベルトも泣きながら棺を担ぎ
「僕が死んだら、ベートーヴェンの隣に埋葬して欲しい」と言い翌年亡くなったシューベルトは、要望通り尊敬するベートーヴェンの隣に埋葬されました。

ウィーンには、作曲家が住んでいた家がたくさん残されています。旗はその目印です。街の中を歩いていると「あ、ここも!」と何の特別感もなく現れ今もここに生きているかのようで、日常と歴史に残る作曲家が共存している感じがします。
日本もクラシック音楽が、かまえず日常に、当たり前のように、
共存できるといいな・・と密かに思いをつのらせています。

ハイリゲンシュタットの「シューベルトの菩提樹」

この旅は
「ベートーヴェン音楽散歩・・音楽之友社」を手に巡りました。本は少し古いですが・・情報はシンプルで、ベートーヴェンの生きた痕跡を歴史とともに、自分の足で、自分のペースで巡ることができました。地図は手書きを思わせるようなもので、古地図感覚でベートーヴェンを巡る旅が更に楽しくなります。

旅には観光シーズンが終わり、紅葉した葉が絶え間なく舞い落ちる11月中旬〜下旬がお勧めです。静かで世界観に浸れます。
雪が舞ったら更に幻想的です。

・・・・・

伝記の中で知られるベートーヴェンは、ほんの一部です。
ベートーヴェンにはたくさんの逸話があります。
ハイリゲンシュタットの遺書と並んで有名なのは
不滅の恋人への手紙です。
まっすぐで、正直で、人間的で、愛に溢れた生き方・・
そんな一面が垣間見える、とても面白く読める本を、ほんの少し紹介します。(岩波文庫のベートーヴェンの手紙やベートーヴェン音楽ノート、ロマン・ロラン著などは、ベートーヴェンが好き、クラシックを勉強している人には、必読と思いますが、ここでは親しみやすい本を)

青木やよい著から
「ベートーヴェンの生涯」「ゲーテとベートーヴェン」
「不滅の恋人」「不滅の恋人の探求」「不滅の恋人の謎を解く」

本が発売された頃、どれもワクワクしながら想像を膨らませて夢中なり一気に読みました。
ゲーテと会うまでの経緯、ゲーテとの決別、それでも互いに尊敬し合っていたゲーテとベートーヴェン・・
断腸の思いで別れた恋人、恋人への愛から人類愛へ(第九)・・
ピアノソナタの最後の3作品は、本を読んだあと弾くと
恋人像が浮び、ベートーヴェンの心の内と悲しみに涙が止まりません。読んだ人は、読み終えた後、ベートーヴェンと恋に落ちるかもしれない・・

「クルト パーレン著 「音楽家の恋文」

ベートーヴェンの不滅の恋人への手紙だけでなく
数多くの作曲家の恋文が読めます。
作曲家たちは音楽に向ける情熱と同様に愛する人への愛も熱く語っていて、人間味溢れ、性格も垣間見れて、とてもおもしろいです。
曲がどのようにして生まれたのか、作風は性格(愛し方)に似ているのかな・・とも。
自分自身で作曲家を感じ取ることができる貴重な体験ができます。

藤田俊之著「ベートーヴェンが読んだ本」

手に取るには躊躇するような表紙ですが・・内容はとても真面目です。ゲーテ、シラー、シェークスピア、カント、ルソー・・・
ベートーヴェンがどのような本を読み、どのような人物に興味を持ち交流を持っていたのか、ベートーヴェンが世界への愛、宇宙へと
見つめていた先の大きさに、またとても博学であったことに感慨深く、ここから更に興味が湧いて探求への道が増えていきそうです。