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ハカセと学ぶ、気候変動や環境のこと #008 DRAWDOWN

 気候変動のことから始まったこの連載では、気候変動の原因となっている産業や私たちの暮らしのあり方、というところから始まり、社会問題や経済とのつながりなどについても書いてきました。

第一回 温暖化がいまどのくらいヤバいのか
第二回 地球史スケールでみてどのくらいヤバいのか
第三回 ヤバくなった原因その1 畜産業の環境負荷
第四回 ヤバくなった原因その2 アパレル業界の環境負荷
第五回 スマートフォンの環境的・社会的負荷
第六回 プラスチックと私たち 前編
第七回 プラスチックと私たち 後編

 今回から、また話題を気候変動に戻して進めます。
 みなさんは、こちらの本をご存知でしょうか?

 温暖化に対して、一体自分たちは何から始めたらいいんだろう?何が効くんだろう?と思ってらっしゃる方も多いと思います。そのヒントの一部がこれまでの連載だったのですが、こちらの書籍では、何をやったらどれくらい温室効果ガスを減らせるのか、そしてそれにいくら費用がかかり、いくら節約できるのか、を網羅的に示してくれています。こちらのデータは全て、ピアレビュー(同業の研究者に査読してもらうこと)を経て全ての指摘に応えた論文のものを選んでいます。つまり信頼性が高いということです。

 僕がこの本の英語版に出会ったのが2020年の3月なのですが、これは…!!と嬉しくなりました。

 その理由としてちょっと振り返りますが、僕は鹿児島に引っ越してくるまでの10年以上にわたり、地質学を通じて地球の歴史や仕組みについて学び、南極観測隊としても現場に身を置き研究をしてきました。ここまでの連載でもお伝えしたように、この数十万年の地球の「当たり前」を逸脱した現状には危機感を覚えてきました。

 しかし、残念ながらそのことは一般の方々には充分と言えるほど知られてはいないし、気候危機を引き起こしたこれまで通りの生活や社会の活動は大勢として続いています。それは「何をしたら気候変動を止められるのか、それがどのくらい効くのか」が、定量的に示されていなかったから、ということが原因の一つにあったようにも思います。

 そんなわけで、この本は大きな希望です。この本のランキングを頼りに、自分たちが何に取り組めばいいのか、優先順位をもって判断できるからです。政府や国連レベルのアクションもあれば、個人や家庭でできるものもある。これは希望だ!!と嬉しくなったわけです。

 2020年時点では日本語版が出版されていませんでしたが、いち早くこれを多くの方に広めたい!!と思いました。そこで、自分なりのまとめを作ることにしました。それが、この連載にも時々登場していたこういうやつ↓です。

何回か見かけませんでした?

 せっかく頑張って作ったのに日本語版の出版とともにお蔵入りになってしまって勿体無いので、簡単な解説とともにこちらに順番に公開しておきたいと思います。COP27がちょうど開催中でもあるし、もっと詳しく読みたくなった方はぜひ書籍を買って読んでね!ということで。この場を借りて人目に触れる形にしたいと思います。
 では、「温暖化を止めるために効くランキング」一位から改めて、書いてゆきます。

第一位 冷媒の管理

第一位 冷媒の管理

 え?冷媒って?という感じですよね。とても意外なことに、温暖化を止めるために真っ先に減らすべき物質は二酸化炭素ではなかったのです!

 冷蔵庫やクーラーにはもともとフロンガスという物質が使われていました。「フロンガス」って聞いたことありますよね?オゾン層を破壊する、という話のアレです。そう、オゾン層を破壊してしまうので、使用が規制されるようになり、現在は代替フロンもとよばれる「ハイドロフルオロカーボン(HFC)」というものが使われるようになりました(現在はオゾンホールは回復し始めているとのこと)。

 ですが、この代替フロンが、実はなかなかの曲者だったのです。
こちらをご覧ください。

環境省 算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧 より
この資料、マニアには面白いかも。

 こちらは、いろんな気体の「地球温暖化係数」を示した表です。僕もここまで細かく詳しくは知らなかったのですが、種類はかなりいろいろあるんですね。

 ここで注目していただきたいのは右端の列です。
 二酸化炭素 1
 メタン 25
とか、書いてありますよね。これはメタンは二酸化炭素の25倍、地球を温暖化させる能力があるということです。牛のゲップの中のメタンが温暖化に効いているという話がありましたが、そんなわけなのです…。

 という前提で、上の表の中部~下の方を見てみてください。モノによっては二酸化炭素の10,000倍の温室効果のあるものも確認できます。このように、代替フロンはすごく強い温室効果ガスなので、クーラーやエアコンなど廃棄するときは確実に回収しましょうね、ということです。

第二位 陸上風力発電

第二位 陸上風力発電

 洋上風力発電は第22位です。風力発電は、既に石炭火力よりは安くて早く作れてクリーンになってきているようです。もちろん風が吹く場所を選ぶ必要があるので、どこにでも設置できるというわけではありません。ずっと安定的に発電を続けられるわけでもありません。騒音や景観、生態系への影響などあるので、そこはよくよく配慮する必要があります。

 山の稜線にどどーんと風車が並んでるの、好きじゃないのですが、PCもスマホもタブレットも…という電気使いまくりながらの生活でありながら(もちろん浪費しないようには心がけていますが)原子力も火力もイヤ。というのは虫が良すぎる感じもしますね。今のところ環境負荷ゼロで暮らせない以上は、温室効果ガスを出して世界中で被害を受けるよりは、局所的な景観や環境の悪影響を我慢するしかないのでしょうかね。。

 アメリカの西部やイギリスの沖の洋上風力発電は壮観です。


第三位 フードロスの削減

第三位 フードロスの削減

 第三位がフードロス。フードロスをしないように気を付ける、ということは毎日3食を通じて実行できることです。現状、作られた食品の 3分の1 もが捨てられていて、一方で8億人もの人が飢餓に苦しんでいるとのこと。結局 3分の1 も捨てるなら、エネルギーも労働力も農地も使わなくていいじゃん!という話ですよね。

 フードロスは、僕たちが「形のいいものを買う」から食べられるのに形の悪いものが畑に残されるし、「今日食べるのになるべく新しいものを買う」から、少し古くなっただけのものが食べられるのに捨てられてしまうことになります。結構些細なことですが。

 農水省によると、フードロスの量としては日本人は毎日お茶碗一杯分を捨てているとのこと。

それにしてもフードロス対策のこのゆるキャラ?味わい深いのん…


第四位 植物中心の食事

第四位 植物中心の食事

 排出源として最大と言われるのがお肉です。
第3回目の連載に詳しく書いているので、ぜひそちらご参照ください。


第五位 熱帯雨林の再生

第五位 熱帯雨林の再生

 熱帯雨林は二酸化炭素の大きな吸収源として働いてくれていましたが、森林伐採が広がりすぎて二酸化炭素を排出する側に回りつつある、という報告がされています。

第六位以降はまた次回から。お楽しみに!


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