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ハカセと学ぶ、気候変動や環境のこと #002 どのくらいヤバいのか

前回の記事はこちら。

いまの気候変動は、どのくらいヤバいのか

さて、いまの気候変動がどのくらいヤバいのか?について。

すでに世界各地で大きな被害が出ている、というのは前回の記事や日頃のニュース、体感としても多くの方が感じていらっしゃるのではないでしょうか。

でもそれがどれほどのことなのか、なかなかピンとこないという方も多いはず。ということで、現代が歴史の中でみるとどのくらい異常なのか?ということについて少し見てみます。

こちらは、2021 年 8 月に出されたIPCCの報告書を気象庁が日本語訳したものから抜粋した図です。

IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)

IPCCというのは、国連環境計画と世界気象機関により設立された国際組織で、2007 年にはノーベル平和賞も受賞しています。
科学的な研究成果の整理をふまえ、私たちの社会がこれにどう対処すべきかを考え提案してくれています。1990 年以来数年おきに報告書が公表されてきていて、6 回目になる報告書が昨年から作業部会ごとに順次公表されています。9 月には統合版が公表される予定です。

昨年公表された科学的な事実に関する報告書は 230 人以上の研究者たちが 66 カ国から集まり作成されたもので、14000 本以上の論文を精査した結果として報告されています。14000 本って、、気が遠くなりますね。

地球史スケールでみる現在の異常さ~過去 10 万年で最も温暖な時期が現在である

そのIPCCの報告書の日本語訳を抜粋してきたのが上の図です。左は過去 2000 年間の気温変化を表した図です。1850-1900 年を基準として、気温がどう変わったかを示しています。右端が 2020 年。最近の 170 年間で気温が上昇した、というのがわかると思います。「温暖化は 2000 年以上前例のないもの」とも書かれていますね。

NASAからは 2021 年までの 8 年間が観測史上最も暑い 8 年間だったことも報告されています

また、IPCCCの図の左端には「過去 10 万年間で最も温暖だった数世紀」の気温幅が示されていますが、現在の世界はそれを超えています。過去8年間だけでなく、過去 10 万年でも最も温暖な時期が現在であるということです。

このグラフだけをみると、たまたま温暖化したのでは?と言いたい方もいるでしょうが、今回の報告書では『人間の影響が大気、海洋、陸域を温暖化させたことは疑う余地がない』ということがこれまでの科学の集大成として断言されています。以前は「その可能性が非常に高い」という言い方がされていたのですが、慎重な科学者たちの集団でさえいよいよ間違いないと断言できるほどの証拠が集まったということです。

ちなみに、最近でも懐疑論のコラムを目にしますが、自分でデータをとって論文を書いて、これまで積み上げられてきた他の事実との整合性をきちんと立証して…という科学のプロセスに則っておらず、内容はそれっぽくても個人ブログと変わらない質のものが多いです。その内容が本当に正しいのであれば論文を書いて学会で発表して戦えばいいのに、それをできない理由があるのでしょう。

さて、図に話をもどします。右の図は人間の影響があった場合(つまり実際の観測値)と、なかった場合(シミュレーション) での比較です。私たちの影響がなければこんなに暑くはなっていなかっただろうということが想定されています。

科学者たちが世界中からいろんな手法で過去の気候を反映するデータを集め、それをもとに気候システムのこことここには(日射とか海流とかどこが気温が上がるとか下がるとか…)こういう因果関係があるのでは?というモデルをつくり、観測データとの整合性を何度も何度も確認しながらモデルを正確にしてゆきました。

その温暖化のいちばんの原因となっているのが二酸化炭素。それがいまどのくらい大気に溜まってきているのか、スクリプス海洋研究所のサイトでほぼリアルタイムのデータがみられます。ハワイ島の山頂で 1958 年から測定し続けているものすごいデータです。

これをみると、ずっと右肩上がりで濃度が上がり続けているのがわかると思います。
グラフに毎年”山”があるのは、北半球は 5月-9月 頃が夏なので植物が伸び、二酸化炭素を吸収してくれているから。枝や葉に変えて生系が吸収してくれる以上に私たちが排出しているので、どんどん大気中に溜まり続けている、というのが今の状態です。

ではもう少し長い目線で見てみます。1700 年から現在。
1957 年以前は、氷床コア(南極の氷を円柱状に掘り抜いてきたもの)に閉じ込められた昔の空気を取り出して分析した値です。1850 年頃、産業革命によって化石燃料が使われ始めたころから少しずつ二酸化炭素が増え、最近とくに急加速している、というのがよくわかると思います。

余談ですが南極観測隊の氷床コア掘りのチームが描かれているのがこちらの映画です。


さらに長い目で。

こちらは 1 万年間です。ずっと 260-270 くらいの値だったところから、最近いかに急激に増えたか、ということがわかると思います。現在は 420 くらいの値になっていますね。

最後に、こちらは80万年。

地球の公転軌道、地軸の傾きの変化といった天体レベルの原因によるリズム(氷期-間氷期サイクル)での周期的な変動はこれまでもあったのですが、それから明らかに逸脱するところに現在はいます

こちらは、Jeremy Shakunという研究者のサイトからお借りしてきた少し古いデータですが、過去 80 万年間の南極の二酸化炭素(青:上と全く同じグラフ)と気温(赤)はすごくきれいに、同じように変化してきたという事実があります。

「気温と二酸化炭素がパラレルに変化してきたから、二酸化炭素が一気に増えた今、気温も一気に上がる」というほど気候の仕組みは単純ではありませんが、こうして増えすぎてしまった温室効果ガスが今の気候システムにひきおこしている異常は、地球史スケールでみてもオオゴトになってきてしまっている、ということです。
やばいですね。

「1.5度」という数字の意味

 温暖化防止の国際的な枠組みであるパリ協定では、『産業革命前と比較した世界の平均気温の上昇幅を「2 度未満」に抑える。加えて平均気温上昇幅「1.5 度未満」を目指す』としています。1.5 度と 2 度ってたったの 0.5 度の違いですが、気温が 1.5 度上昇すれば、例えばサンゴは 7-9 割が死んでしまい、2 度上昇すれば絶滅する恐れがある、ということらしいんです。

 他にも、1.5 度と 2 度でおこる災害の規模がけっこう変わるということなどいろいろあるのですが、じつはもっと本質的な差がそこにはありそうだということが言われています。

 温暖化の幅が 2 度を超えてしまうと、温暖化が温暖化を呼ぶドミノ倒しのスイッチが入ってしまう可能性がある、ということがこちらの論文で紹介されています。
そうなってしまうと、温室効果ガスの排出を止めても手遅れで、2100 年に 4-5 度の温暖化、海面も 1 m以上上昇、のようなことになってしまうと言われています。そんな世界は「ホットハウスアース(灼熱地球)」とも言われています。

1.5 度だとたぶん大丈夫。だけど 2 度だとブレーキが効かなくなるかもしれない。その分かれ道が 1.5 度と 2 度のわずか 0.5 度の間にありそうだということです。1.5 度に抑える重要性が伝わってきたでしょうか。

現在私たちは、少なくともあと 7-8 年で 1.5 度を越えてしまいそうなペースで温室効果ガスを排出し続けています。こちらのアニメーションがわかりやすいかな。


いま、各所で脱炭素のための動きが行われ始めていますが、まだまだ不十分

このまま排出を続けた場合、どんなことが起こるのでしょうか?

海面水位の上昇、砂漠化、森林火災、水不足、農水産業への被害、極端な気象、何百万人もの人が移住を余儀なくされる、病気や感染症のリスクの増大、戦争、紛争のリスクの増大など(気候危機)。どれも起こってほしくないことばかりです。

温室効果ガスがこんな結果を生む、ということは以前からわかっていましたが、それでもなかなか止まらずにいます。それは一体なぜなのでしょうか?
それは、私たちの暮らしと直結しているからです。

2100 年、私たちの子供や孫がおじいちゃんおばあちゃんになってくる頃、ホットハウスアースにならないために、次回、さらに学んでゆきましょう。

#003 畜産業編はこちら



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