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ハカセと学ぶ、気候変動や環境のこと #003 畜産業の環境負荷

前回の連載では、現在がいかに差し迫った状況であるかということをお伝えしました。今回は、『そうなることが分かっていたにもかかわらず、なぜそんなに差し迫った状況に陥ってしまっているのか』ということです。

それは、私たちの日常に直結しています。
この後の連載でいくつかご紹介してゆきたいと思いますが、その主要なものの一つが、鹿児島が日本一を誇っている「牛」です。畜産業から排出される温室効果ガスは人間全体の 14.5 %で(計算の仕方によっては 50 % とも)、最大の原因となっています。

こちらは、国連の世界食糧農業機関FAOから発表された2013年の報告書です。この中に、いくつか興味深いデータがあるのでご紹介します。

まずは下の図。「お肉1キロを生産するのに、何キロの温室効果ガスを排出しているか」というグラフです。青文字を僕が書き加えています。
家畜の生産の仕方によって、多く排出するものからそうでないものまで分布は様々あります。右の凡例にあるように、それぞれのグラフの縦棒の範囲に90%が含まれ、青の四角に50%が含まれ、その中の横線が平均値を示しています。

種別の温室効果ガス排出強度

これで牛と豚を比べて見ると、牛が平均 290 、豚が 50 くらいです。あくまで平均で見た時にですが、同じ重さの肉を食べる時に牛の方が約 6 倍も温室効果ガスを出している、ということです。言い換えると、牛 1 食 200 g を食べると、豚 6 食 1200 g 分にほぼ相当する温室効果ガスを出す、ということでもあります。

では、何がそんなに温室効果をもたらしているのか?ということです。それを示す図がこちら。

サプライチェーン全体で見た時の排出割合

この図の中でいちばん大きな割合を占めるのが 39.1 % の「ゲップ」です。牛は食べ物を消化する過程で、胃の中で発酵が進みメタン(CH4)を発生させます。それがゲップとして出てくる。これが全体の中で特に大きい。
同時に、緑系の色で塗られている部分(化学肥料、有機質肥料、飼料米、飼料、大豆、放牧地)が、牛そのものというより「育てるため」の排出で、合わせると 46.7 %で大きな割合を占めることになります。

とくに海外の大規模生産地では、大量に化石燃料を使用し、大量に肥料を使い育てています。例えばここ。これは Dairy なので牛乳のための農場だと思いますが、乾燥地帯の中でそこだけ水をやって畑に作物を育て、大量の牛を集約的に育てています。

google map で旅して見つけました。笑

放牧地や大豆の生産による森林破壊も深刻です。特にブラジルで、CO2を吸収してくれるはずの熱帯雨林が破壊され、大豆や牛肉の生産に当てられています。
以下、枝廣さんの文章からの抜粋です。

-ブラジルでは熱帯雨林が破壊され、大豆や牛肉が生産されている。2019年、ブラジルで生産された大豆の7割は中国に輸出されている。中国で食用油の原料として搾油された後に残る大豆かすは飼料として中国国内での消費や日本などへの輸出に向けられている。
(中略。ブラジルの大豆をめぐる情勢はこちら
それでは、世界中のこの 2 億 5,000 万トンの大豆はどこに行くのだろう? その1割程度は豆腐、肉の代用品、醤油等の形で食料として直接消費される。圧搾されて主要な食用油となるものがほぼ2割、残りの、つまり収穫した約7割は最後は大豆ミールとなり、家畜や家禽の餌に供される。
(中略)
世界中で収穫された大豆の大部分は、牛乳、卵、チーズ、鶏肉、ハム、牛肉、アイスクリームのような製品に姿を変え、最終的に冷蔵庫の中に納まっている。
(中略)
今アマゾンは、ブラジルの食肉牛を増やそうとしている大豆生産者と牧畜業者双方によって熱帯雨林の伐採が進んでいる。牧畜業者が開墾し、数年間放牧に使っていた土地を大豆生産者が買い取ることも多い。土地を手放した牧畜業者はアマゾンの熱帯雨林をさらに奥深くへと分け入って行く。

イーズ未来共創フォーラム「大豆の需要拡大、アマゾンの熱帯雨林を脅かす」より

そんなこんなで、牛肉の生産にかかる諸々によって温室効果ガスが出まくっている、ということです。こうやって世界中からかき集められた飼料で育てられた牛肉を、冷凍して日本まで運んでくる。それが国産の牛肉より安くで売られている、というのはやはり圧倒的に不自然なことです。その安さが、化石燃料の使用によって支えられているわけです。怖い。

枝廣さんの文章は 10 年以上前のものですが、今も変わらず森林は切り開かれ続け、状況は悪化しています。涙。

森林が放牧地や畑に変わることは、そこに生きていたたくさんの野生動物の命や住処を奪うことを意味します。先住民の方々の住処も奪いますそこまでして僕たちは安い牛肉を食べたいのでしょうか??

残念なことは、実はこれだけではありません。こちらの論文では、人為的な気候変動による 2007 年からの干ばつが、シリア内戦を引き起こした要因のひとつになっていたことを指摘しています。
からくりはこうです。

・人為的な気候変動により、深刻な干ばつが2-3倍起こりやすい状態が作られていた
・2007-2010年、シリアで観測史上最悪の干ばつが起こった
・農民の仕事がなくなり150万人が都市部へ流入
・政情が不安定化し、内戦のひとつの引き金になった
ということのようです。

内戦まで引き起こしてしまった気候変動の一番大きな原因になっているのが、畜産だということなのです…。まさか、そこまでだとは。

そんなわけで、牛を始めとした肉食を減らそうという動きが、国連以下、世界中で始まっています。

こちらは、書籍DRAWDOWN(温暖化を止めるのに「効く」方策を上位からランキングしたもの)の一節を僕がまとめたものですが、その第四位に「肉食を減らす」ことがランクインしています。

先進国は肉の食べ過ぎによって心臓病など健康に影響が出ている人が多く、それが医療費も圧迫しています。自分の健康を害して環境にも悪い、というのはさすがにカッコ悪いなあ、と思ってしまいます。

とはいえ肉って、美味いですよね。僕も好きだし、↑こんなことを書きながら肉食を完全にやめるまでには…至っていません(減らしてはいます!)。減らそうというその判断を後押しした理由に、その方が健康にも精神にもいいという実証が多くあり、実はトップアスリートの中にも肉食をやめた人たちが多数いる」ということがあります。
僕にとってはけっこう衝撃的でした。

そんな世界の流れの中にあって「黒毛和牛日本一」を謳う鹿児島。国策でもありますが、「翔べ和牛」として世界に輸出してゆこうという記事が昨日の南日本新聞に掲載されていましたね。ううむ。

そう。お肉って美味しいし、それを通じて儲かった方がいいとみんなが思っている。だから肉食は増えてきたし、環境負荷も増えてきた、ということなんです。だからここまで止まらずに温暖化が悪化してしまっているというわけです。

今後、気候変動が激化するにつれ、最大の排出源である畜産業の立場は悪くなってくることは確実です。さあ、鹿児島、どうする?ということで、考えてみたことがあります。

短絡的ですが、それはいち早く「環境負荷の低い牛、豚、鶏」を育て、鹿児島のブランドにしてゆくこと。僕もそうですが、環境が気になるからお肉を減らす、という人は海外ではかなり増えてきているようです。そんな人も実はお肉が食べたい。でも、環境に悪くない(むしろ環境再生型の)育て方をされているものであれば大手をふって食べられる!そんな需要が必ず増えてくるでしょう。

実際に「環境負荷の低い牛の育て方」も研究され、実用化されています。その一つが「森林放牧」。いわゆる「牧場」ではなく、果樹もあるような森に牛を放ち、生態系としていろんな植物や生き物がいる状態をつくる、というもののようです。日本でも岡山や隠岐などで実践されています。

DRAWDOANの内容を大岩根がまとめたもの。その2

「牛に海藻をたべさせる」のも、ゲップの中のメタンを減らし牛を健康にするのにいい効果があるとのことです。

従来通りの環境負荷の高い育て方をし、自分達もそれを食べ続けていれば、気象災害という形でツケを払わされることになるでしょう。それは農家さんたちの農場の直接の被害も、都市部に住む僕たちのインフラが破壊されたりということも含みます。今は美味しくて儲かっていいのかもしれませんが、将来的にみんなにとっての不幸を呼び込む行動でもあります。

あと数年以内に気候変動に十分な対策を取らないと、灼熱地球にまっしぐら、という現在、なんとかいち早く行動に移したいものです。

今回の連載では、「なぜ温暖化は止まらないのか?」という問いに対して、その最大の原因とされている畜産業について取り上げました。次回は第二位の原因とされている「服」のおはなしです。

#004 アパレル編はこちら


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