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ハカセと学ぶ、気候変動や環境のこと #004 アパレル編

前回の連載では、「なぜ温暖化は止まらないのか?」という問いに対して、最大の原因とされている畜産業について取り上げました。今回は、第二位の原因とされている「服」のお話です。

今、これを読みながら服を着ていない人はいないと思います。いや、、いてもいいんですが、長くなるので服は着て読んでくださいね。笑

この10年ほどで、安くて着心地がよく、デザインも優れた服がファストファッションとして大量に出回るようになり、私たちは手軽にファッションを楽しむことができるようになりました。ユニクロを筆頭に、ファストファッションを利用しない人はなかなかいないと思います。

まずはいくつか質問を出すので、ちょっと考えてみてください。

・あなたは、一度買った服を捨てるまでに何回着ますか?

・あなたは、1年間にどのくらいの服を捨てていますか?

・では世界で1年間に捨てられている服は、どのくらいあると思いますか?

それぞれ、どんな答えだったでしょうか。

僕も自分にこの問いを問いかけてみました。
最近の僕はおしゃれすぎて、普段着るものは数着しか持っておらず、下着やTシャツや短パンは破れてても履くくらいになってきていて、数十回は着てるかな?とか、本当に着れなくなったものだけ捨ててる、という感じでした。しかし、若気の至りでモテようとしていた頃に買った服はたいして回数着てなくてずっとクロゼットに残っていたりして、、この後に書く内容を思い浮かべながら罪悪感を感じたりもしています。。

実は、ファッションを通じて排出される温室効果ガスは全体の 2-8 % もあると言われ(国連環境計画UNEP)、その他の環境負荷も、実は相当に大きなものがあります。

そもそも、私たちが着ている服は、どこでどうやって作られているのでしょうか?

衣服にまつわる環境負荷

当たり前ですが、服となる繊維は世界のどこかでの原料の生産/採取から始まります。最近の服はそもそも原料が化石燃料であることも多いですが、そうでなければ例えば綿花の栽培に大量の水や肥料が使われています。そうした糸の原料が紡績、染色、裁断、縫製を経て製品となります。これらの全ての過程に電気が使われていますし、全ての過程の間に輸送があり、そこでは化石燃料の使用があります。そうしてできた製品がさらに流通、販売されて消費者に渡ります。利用の部分では洗濯によるマイクロプラスチックの排出、廃棄する際にも埋め立てでなく燃やすこともしばしば。このように多くの環境負荷があります(エレンマッカーサー財団)。

服にまつわる環境負荷の図、by エレンマッカーサー財団

下に掲載した Pictet Asset Management の報告によると、例えば水の使用量は持続可能な限界量をはるかに超えているとのこと(mega)。

ファッション業界は、人間が安全に活動できる限界値であるプラネタリーバウンダリーのうち、水と二酸化炭素について限界値を超えているとされる

また、こちらのグリーンピースの報告書によると、化学薬品の使用、有害化学物質の流出による河川の汚染なども深刻です。

服の製造にまつわる環境負荷の図、by グリーンピース

よくないことは、環境への負荷だけではありません。
なんと、人にも。

衣服にまつわる社会的な負荷

2013年には、今ではその業界で有名となっている ラナプラザの事故 がありました。この事故は、2013年4月24日にバングラデシュのダッカ近郊で発生したものです。世界的なアパレルブランドの下請け工場が入居する8階建ての「ラナプラザビル」が崩壊。死者1,127人、行方不明者500人、負傷者2500人という多大な犠牲者を出したものです。

実はラナプラザは、劣悪なその労働環境について、賃金の低さや徹夜で働かせたりなど以前から問題が指摘されていました。そもそも5階建て→8階建てへ、違法に建て増しされ、建物にヒビが入るなど危険性が指摘されていたにもかかわらず操業を続け、大きな犠牲を出したものです。

ここで問題なのは、それが氷山の一角だったということ。バングラデシュ全体で、より小規模な火災や事故は多数あり、そこには人件費の安さを売りに国策として世界の縫製工場となる政策を進めてきたという背景があります。人件費の安さの影には、例えばある人は同じ服の袖をつくるだけの作業を何年もさせられ、労働が単純だからスキルも一定以上上がらないし給料も上がらない。そんな労働形態がありました。だから安く作れるわけです。

先進国と途上国の格差、貧困、ジェンダー問題、搾取、、構造的な大きな大きな問題の一部が表面化したものがラナプラザの事故だったということだし、あれほどの事故にはならなくても、劣悪な労働環境や環境、健康への被害は各地で起きているもので、そのような被害に支えられて私たちが好むファストファッションがある。そういうものが含まれた安さを、私たちが享受している、ということでもあります。

ここでやっと、冒頭の3つ目の質問「では世界で1年間に捨てられている服は、どのくらいあると思いますか?」への答えです。これだけ環境負荷や社会的負荷をかけて犠牲を払って作った服のなんと 73 % 、年間 10 億着が捨てられている、とのことなのです(エレンマッカーサー財団)…!!

ちょっと、、これは、、と僕もよみながら凹んでしまいました。

さらに、ファストファッションの影響で中堅規模のブランドが軒並み衰退している、という事実もあります。もともと、それぞれのブランドが1-2年かけて新たな服を企画しデザインし、製造、販売してきました。しかしファストファッションがその最新のデザインをものの数ヶ月で模倣し、類似の製品を販売する。顧客のついているハイブランドには影響ありませんが中小ブランドの場合、安さに負けてしまいます。ファストファッションに価格で対抗しようとすると、まともなデザイン費用が払えなくなってしまい、デザイナーを外注するしかなくなる。そうすると次のデザイナーが育たない。ブランドとしての質が低下し、売り上げが上がらず、倒産する企業も増えているとのこと(大量廃棄社会より)。

ファッション業界のあれこれを取材した本。おすすめ

実はハイブランドも、昨年のモデルなど売れ残りを大量に廃棄していたことが報じられています。

このような、さまざまな弊害を出しながらもファッション業界の売り上げは増えており、先述のグリーンピースの報告書によると「15年前と比べると、購入する衣料品の点数は一人当たり平均して60%増えた一方、手元に置いておく期間はおよそ半分になっている」とのこと。こうやって大量の温室効果ガスが排出され、温暖化の一因になっているようです。

では、私たちは一体どうしたらいいのでしょうか。

ファッション業界の新たな動き

さすがにこれではいかんということで、環境負荷の少ない生産方法をとるブランドも増えてきています。

環境に優しい衣類を、というブランドの筆頭はpatagoniaです。服を売る企業の宣伝として”Don’t buy this jacket” この服を買うな、という広告を出したのは鮮烈でした。

Don't buy this jacket の広告

売り上げの1%を環境活動に寄付する 1% for the planet の運動や、環境活動の団体に少額の寄付をする制度、環境活動をする団体に安くで販売する制度などもあります。

ファッション業界では捨てられた漁網やペットボトルを再生して「アップサイクル」として服に変える動きや(ECOALFなど:それはそれで新たなマイクロプラスチックの原因にもなっています。資源の新規掘り出しをしない、という意味ではいいのですが、、難しい。涙)、徹底した透明化を図るブランド(EVERLANEなど)、動物性の素材を使わない企業(ステラマッカートニーなど)、キノコからレザーの代替品を作る企業も出てきたりしています。

EVERLANEの8300円のタンクトップの製造にかかるコスト明示

こういった企業の製品を意識的に選択してゆくことが、少しでも環境や社会への負荷を減らしてゆくことにつながりそうですね。

エレンマッカーサー財団ではこんなことが紹介されています。

環境負荷を下げるための取り組み
  1. 問題のある原料、マイクロファイバーを排出する素材は使わない。

  2. 衣類の有効利用を増やす。

  3. リサイクルをもっともっと進化させる。

  4. 資源の有効活用と、再生可能エネルギーの導入。

前回のお肉のお話もそうでしたが、私たちが手軽に楽しめることの裏には必ず何か環境や社会への負荷が潜んでいる、ということが見えてきました。結局は、なるべく自然なものを、必要なだけ買い、あるものを大切に着る、という単純なことなのかもしれません。

筋トレで全てが解決する

着るもので飾るのももちろん必要なことですが、自分の内面を磨いて内側から溢れる美しさで魅せたり、筋トレして身体を引き締めて美しくあることもいいかもしれませんね。その方が難易度高い分かっこいいと思う。みなさん、筋トレをしましょう。筋トレ

次回は、今多くの方が手に持って見つめているもの、スマホについて書いてみたいと思います。こちらからどうぞ。

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