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夫婦別姓は「男女平等」なのか?

厳密には「姓」や「氏」「苗字」のニュアンスは異なりますが、本文では同じ物として扱います。

*今日は「夫婦別姓」が本当に男女平等か否かについて解説したいと思います。

近年、「男女平等」の観点から日本でも法的に夫婦別姓を認めるよう呼びかける人を見かけます。中には「夫婦同姓は差別だ!」と訴える人も見かけます。私は、これは雑な話ではないかと思います。

「夫婦同姓が差別」と訴えている人が言わんとしていることは、「夫婦で同じ苗字にしなくてはいけないのは、片方の苗字を差別している」「夫婦で同じ苗字にするにあたりどちらかの苗字を選択できるが、実際は女性が男性の苗字に合わせなくてはいけない、だから女性差別だ」主にこのようなことではないでしょうか?ゆっくり見ていきましょう。

まず、「女性が男性の苗字に合わせなくてはいけないのは女性差別」という考え方は、キリスト教圏で生まれた考え方です。キリスト教圏は父系社会であり、女性は結婚したら夫と同じ苗字になります。今の日本における苗字の習慣もこれに近いものがあります。現代の欧米先進国では男女平等の考え方が広まりつつありますが、元来キリスト教圏では男性の力が強く、結果として女性の権利を求める活動やフェミニスト運動が盛んになりました。日本では夫婦別姓についてもその一環として取り上げられています。                 *日本は父系社会でも母系社会でもなく「双系社会」という話もありますが、今回は割愛します。
しかし、夫婦別姓だからといって「男女平等」とは限らない側面があります。日本のすぐ隣の国々でそのような例を見ることができます。
中国(主に漢民族)、韓国、台湾(やはり主に漢民族)では伝統的に夫婦別姓です。習近平の奥さんの苗字も「習」ではありません。中国、韓国、台湾が伝統的に夫婦別姓なのは「男女が平等」だからではなく、あくまでも結婚した女性は嫁ぎ先の家に入れない、もっと踏み込んだことを言うとお墓にも入れないという考え方だからです。女性は死んだ後も嫁ぎ先の家の墓でなく、実家の墓に入ります。かつては同じ苗字の人とは結婚することができませんでした。ちなみに、これらの国や地域もキリスト教圏と同じく父系社会です。大きな違いは、女性を家に入れるか、夫婦別姓かです。子供は父親の方の苗字を受け継ぎます。

また、夫婦別姓が法的に可能である国でも、ロシア人などスラヴ系の人の中には「〇〇の息子/娘」を表す「父称」を名前と苗字の間に入れる民族も存在します。ロシア国内における公的文書において、日本では「氏名」を記載する部分に「氏名父称」を正式な名前として記載します。            

「父称」も父系社会の名残です。ロシアはかつてソ連という国でした。ソ連では共産主義イデオロギーの元、女性の「解放運動」が行われていました。それにも関わらず、父称の伝統は残りました。ロシア人は、目上の人を呼ぶ時に「名前+父称」で呼びます。生活習慣に馴染んでいたため簡単に無くせなかったのでしょう。「父称」については以前書いた下のリンクの記事をご覧下さい。↓

https://note.com/sekiseiinko25/n/n1c8139a1a968

更に、スラヴ系の「父称」とも関連しますが、世界には苗字の代わりに父親の名前を苗字の代わりにする民族も存在します。

私は、これらの習慣を取り上げて、どの習慣が最も良い、と言うつもりはありません。現代的な価値観からすると「男女平等」といえないようなことでも、どの民族も自分達なりにそれぞれに合ったやり方を導き出してきたのだと思います。苗字が存在しない民族などごく例外的な場合を除き、結婚した夫婦とその子供の苗字は何らかの方法で決めなくてはなりません。そして、ほとんどの人は結婚や出産時に習慣的に苗字を選択しているにしかすぎませんし、法律上選択せざるを得ません。その過程は「差別」と批判されて然るべきことなのでしょうか?特に、別姓が導入されたとして、それでも夫婦同姓を選択した夫婦は片方がもう片方に無理矢理改姓を迫る、片方の苗字を差別していると言えるのでしょうか?仮に「男女平等」にするべきと夫婦同姓の民族が別姓を認めれば、子供の苗字を法的にどう決定するか考えなくてはならなくなります。法的には可能になっても、子供の苗字を巡って父方と母方の親戚同士で諍いが起きるかもしれません。この子は父の苗字、この子は母の苗字、と名付けられることを、子供達自身が良く思わないかもしれません。夫婦別姓の民族が同姓を認めれば、どちらの苗字にするかやはり揉めるかもしれません。ロシア人が「父称」を無くせば、目上の人を呼ぶ時はどのように呼べば良いのでしょう?何かを変える時には、変えたらどのような問題点が起きるか、それを解決するにはどうしたらよいか、ということまで考えなくてはなりません。


また、「平等」を徹底しようとするあまり、言葉尻を捉えて追及することが平等をもたらすとは限りません。重箱の隅を突くことをしているうちに、本当に大切なことを見失ってしまうように感じます。

そして最後に、性差が関わる習慣は近年「男女平等でない」と批判されがちですが、こだわりがない、決められない、どうしたら良いか分からない時に道を提示してくれる良さもあります。日本人女性の中には結婚後に男性側の苗字に合わせる人が多いですが、特にこだわりがないので習慣上そうしてるにすぎない人も沢山います。「ジェンダー」と批判されるようなことって本当に全部悪いことなのでしょうか?本人達が自分達の意思で選択した結果であれば、問題視する必要はないと思います。これから結婚する人に「あなたが私の苗字に合わせてくれないのは女性を差別しているからだ」という考えを抱くのもなんか違うんじゃないかな、と思います。そこまでこだわりがあるのであれば、苗字を合わせてくれる人と結婚するのがいいのでは、とも思います。

参考

『入門 「女性天皇」と「女系天皇」はどう違うのか 今さら人に聞けない天皇・皇室の基礎知識』
竹田恒泰・谷田川惣