ナチスだけでなく、共産主義も批判されている欧州

 近年の日本の言論界では、「全体主義」とナチスを結びつけた発言が多く見られます。しかし、同じく全体主義的な体制だったソ連の問題点については、それほど言及されることがありません。

 ナチスドイツによる惨禍を経験した欧州では、2000年代以降、ナチスだけでなく、ソ連などの共産主義体制への批判が活発になってきています。

 2005年には欧州議会が、ナチス・ドイツの犠牲者と、第二次世界大戦のソ連による抑圧の犠牲者に追悼を捧げる決議を採択しました。2006年には、欧州評議会の議員会議が、中東欧を支配した全体主義的共産主義体制の犯罪を国際的に非難するべきであるという決定を採択しました。2009年には、OSCE議員会議で「分断された欧州の再統合」に関する決定が採択され、ナチズムとスターリン体制が批判されました。

 近年も、ナチスと共産主義を批判する取り組みが行われています。2019年には、欧州議会が「欧州の未来に向けた重要な欧州の記憶」という決議の中で、ナチスと共産主義体制を批判しました。↓以下参照

 欧州で共産主義に対する批判が盛んになったのはなぜでしょう?きっかけは、共産主義体制下で苦しんできたバルト三国やポーランドが2004年にEUとNATOに加盟したことでした。対戦後のソ連による占領の実態を知らない西欧では、ソ連による抑圧の実態がそれほど知られていなかったのです。大戦後は特に、ソ連が連合国ということもあり、負の側面について批判しにくかったという背景もあります。

 日本では、「全体主義」と言うとナチスがイメージされがちですが、ソ連などの共産主義体制による全体主義の実態についても知られて欲しいと思います。日本人も、北方領土問題やシベリア抑留、ソ連兵による女性に対する性暴力という形で巻き込まれているので、尚更です。近年では、ロシアが日本の「戦争犯罪」を追及しようとソ連時代の歴史認識問題をふっかけてくるようになってますしね。↓以下参照


参考文献

立石洋子「スターリン時代の記憶 ソ連解体後ロシアの歴史認識論争」慶應義塾大学出版会、2020

*以下の記事もご覧ください。