見出し画像

ロシアの祝日「対独戦勝記念日」とは?

前回の記事で書いたように、ロシアには、5月9日に「対独戦勝記念日」という祝日があります。現地では一般的に「勝利の日」と呼ばれています。ロシアがソ連だった頃、第二次世界大戦においてドイツに勝利したことを祝う日です。数年前のモスクワ留学中にこの「対独戦勝記念日」の祝い方を私も目にしましたが、「敗戦国」に生まれた私にとってはカルチャーショックな出来事の連続でした。

1.戦争関係のイベントなのに、そこまで暗くない
日本で戦争関連のイベントというと、暗くしんみりとして悲しい雰囲気の物が思い出されます。これは、日本が第二次世界大戦で負けたことと無関係ではないでしょう。一方、ロシアの対独戦勝記念日はそこまで悲しいものではありません。戦争に勝利したことを祝うイベントですから。街中で軍歌が流れ、町の中心部では大統領が労いの言葉をかけて戦勝記念パレードが行われ、多くの人々が戦争を生きた家族のことを思って街を歩きます。

2.「不滅の連隊」
ロシアや旧ソ連諸国では、各地で、自分の家族の中で戦争に参加した人達の写真をプラカードにして掲げ、軍歌の流れる街中を練り歩く「不滅の連隊」というイベントが行われます。
よく流れている軍歌には、日本でもお馴染みの「カチューシャ」や「鶴」「青いプラトーク」そして、ロシア人にとっては対独戦勝記念日に欠かせない曲、「聖なる戦い」「スラヴ娘の別れ」があります。
ちなみに、「不滅の連隊」にはロシア国籍の人だけでなく、外国人も参加できます。参加する前には、ロシアではお決まりの荷物検査を受けることになります。確かに、これだけ人が多ければテロも起きそうです。ロシアとかソ連をよく思っていない人も紛れ込んでいる可能性もありますしね…

3.ロシア人の戦争観
ロシア人は、ソ連が第二次世界大戦に勝利したことで欧州をファシズム(ドイツ、そして日本のことです)から解放した、と考えています。現地の大学で私にロシア語を教えてくれたおっとり目のおばあちゃん先生ですらそう考えています。まあその先生はソ連時代は共産党員でしたし、国立大学の先生ですし、色々と事情があるのかもしれません。それを差し引いても「解放」という言葉の意味には注意が必要です。というのは、ソ連はドイツを倒すのと並行してバルト三国やポーランドなどの欧州の一部を支配し、その過程でドイツのことを笑えないような酷いこともしているからです。「解放」の名の下に近隣諸国を侵略するのは共産主義国によくあることです。中国も「チベットを解放する」という名目でチベットを侵略しています。まあ勝てば官軍なので敗戦国の日本とは異なりますし、日本ほど自由に自国の負の側面について語れないという背景もあるでしょう。
一方で、勝ち負けに関係なく死者を悼む大切さについてロシア人の先生達は繰り返し説いていましたし、家族や祖国のために命をかけて戦った人達に対する敬意を強く感じました。ロシアでは、退役軍人は社会的に尊敬されているだけでなく、(他にも同様の国は沢山ありますが)社会的なサービスを多く享受しています。今でも対独戦勝記念日には、勲章を胸に沢山つけた老人が胸を張って歩いています。前も書きましたが、ソ連では女性軍人も多かったので、勲章をつけて歩いていたおばあちゃんもいました。

4.ロシアでは赤旗やカマトンカチがタブーではない
ロシアに行く前の私は、ソ連の暗い歴史から、ロシアではソ連の国旗にも使われていた共産主義のシンボルである赤旗やカマトンカチがタブーであると勝手に考えていました。しかし、いざロシアに降り立ってみると、カマトンカチのモチーフを数多く見ました。特にソ連時代から首都であったモスクワでは、駅や大学の建物にカマトンカチのモチーフが今でもよく使われていました。そして、一番カマトンカチを目にすることが多いのが対独戦勝記念日でした。みんなカマトンカチのマークがついた旗などを掲げてお祝いするのです。一番驚いたのは、子供用の学習用ノートにもカマトンカチのついたデザインの物があったことです。どちらかと言えば、カマトンカチや赤旗がタブーなのはポーランドやバルト三国でした。私はロシアの他にも東ヨーロッパ諸国を旅行しましたが、ポーランドやバルト三国には、私が見た限りでは共産趣味的なお土産がありませんでした。逆にチェコやハンガリーにはあったんですけどね…

5.対独戦勝記念日は必ず晴れる
ロシア人の先生が、対独戦勝記念日は絶対晴れる、と言っていた時は驚きました。そんなことが可能なのかと。詳しいことはよく分かりませんが、何らかの特別な方法で良い天気にしているようです。しかし、それでも限界はあるようです。私が留学した次の年は曇りでした。

戦争は勝ち負けに関わらず悲しいものとはいえ、戦勝国と敗戦国とではやはり状況が異なりますね…

写真は、数年前にモスクワの戦勝記念公園で撮りました。

画像1