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<日本灯台紀行 旅日誌>2021年度版

<日本灯台紀行 旅日誌>男鹿半島編

#9 三日目(1) 2021年7月16日

入道埼灯台撮影7

鵜ノ崎海岸 観光

男鹿市船川港 観光

男鹿半島旅、三日目の朝は、<6:30 起きる>。夜中に物音で起こされることもなく、ゆっくり寝られた方だ。洗面、着替え、出発の支度など、七時半前に完了した。そのあと、部屋を出て二階の大広間へ朝食を食べに行った。

大広間に入った途端、またかび臭かった。見回すと、五、六組の泊り客がいて、すでに食べ始めていた。<ソーシャルデスタンス>をかなりとって、それぞれの場所に、背丈ほどの間仕切りが一枚たてられている。ま、<蜜>という感じではない。

席に着くと、すぐに、坊主頭の高校生くらいの男の子がご飯とみそ汁を持ってきた。きちっと、紺の作務衣のようなものを着ている。てっきり、今朝も<ゆりやん>が給仕に出てくるものと思っていたので、ちょっと肩すかしをくらわされた感じだ。

彼に、<ゆりやん>はどうしたの?なんてことは、聞けるはずもない。ま、いい。朝食のおかずは、十分すぎた。だが、昨日と似たりよったりだ。もっとも、<うまい>とか<まずい>とかはどうでもいい。エネルギー補給ということで、超特急で完食した。

お茶をすすって、そのあと、すぐに大広間を出た。と、横の調理場から、例の、坊主の高校生が姿を現した。客慣れしない感じではあるが、丁寧に<ありがとうございました>と少し頭を下げた。<ゆりやん>と同じように、この<坊主>にも好感が持てた。<ごちそうさま>と少し大きな声で応えた。

部屋に戻った。ひと息入れて、排便を試みた。ほんの少し出た。だが、それ以上の努力はしなかった。前回の旅では、無理な排便で肛門に負担をかけ<痔>を悪化させてしまったのだ。<排便時間を短くする>、これが<痔>の予防に役立つ。<T肛門病院>の、強面の、感じの悪い先生のアドバイスだ。

部屋を出る時、忘れ物がないか、もう一度室内を見回した。大丈夫だ。下に下りて、受付で支払いを済ませた。二泊二食付きで¥23300。安いとも高いとも思わなかった。玄関口には、昨日同様、軽登山靴が、きちんと置かれていた。そばに、女将の父親と思しき老人がいて、丁寧に<ありがとうございました>といわれた。女将の声も後ろから聞こえた。

さて、行くとするか。三日目の朝も、雲一つない晴天だった。朝から陽射しが強くて、暑い。帰りの新幹線は、秋田駅発16:00だから、Nレンタカーには、遅くとも15:00までに入ればいい。まだ、朝の八時だ。入道埼灯台へ向かった。念のために、もう一回撮っておこうというわけだ。

入道埼灯台の駐車場には、一、二台、車が止まっていた。車から出て、広場に入った。東からの陽を受けて、灯台の白が目に眩しい。朝っぱらから、くらくらする暑さだ。とたんに、やる気がなくなった。この明かりの状態は昨日も撮ってるしな、と<やる気のなさ>を正当化した。しかも、われながら驚いたことには、すでに、帰宅モードになっていることだ。

これは、最終日は帰宅日、というこれまでの灯台旅の習慣を引きずっているだけだ。と思い直して、遊歩道を歩きながら、撮りだした。だが、目の前に広がる光景が、目にというか、頭に入ってこない。昨日、一昨日と、あれほど感動的に見えた風景が、しらっちゃけて見える。しかも、極端に暑くて、不快だ。

今写真のラッシュを見ると、この時は二十分ほどで車に戻っている。昨日見つけた、よさげな構図だけを、ちょこちょこっと撮っただけだ。すでに戦意喪失、撮影モードには戻れなかった。

まだ朝の九時前だ。帰りの新幹線は午後の四時。それまでの間、どうする?頭の中で予定を立てた。ま、寄ってみたいところは、来るときに見た、海の中に突き出た防波堤の先端にある灯台だ。あれは、どこなのだろう?ナビで調べてみた。男鹿市の船川漁港の辺りだ。ぶらぶら行ってみるか。完全に観光気分になっていた。

<9:00 入道埼出発>。灯台を後にした。と、少し走って、ふと気まぐれで、車を路肩に止めた。右手の緑の断崖、小山の上に、お地蔵さんなのか、海難供養碑なのか、小さな石の物体が見える。この物体は、昨日、ここを通った時に気づいていた。いや正確に言えば、一昨日、広場から目にしていた。付近に駐車スペースがないので、素通りしたのだ。

断崖沿いの道は片側一車線で、路駐すると、やや通行の邪魔になる。が、車なんて通っていない。それに小ぶりなレンタカーだ。大丈夫だろう。車の外に出た。ちょっと、様子を見てくるだけだ。それでも、いちおう、ハザードランプをつけておいた。

道路から、草に覆われた断崖際へ踏み出そうとした。が、なにか、道らしきものがある。そろそろと辿って行くと、なるほど、小山の縁を回っている道だ。はは~ん、海難碑?にお参りするための道だな。さらに行くと、はるか彼方に、白黒の灯台が見えた。左側には、断崖と岩場、それに海が見えた。

昨日見た、灯台の中に貼ってあった写真の構図に、極めて近い。なるほど、この辺りから狙ったのか。比喩でなく、腰高の草むらをかき分けて、断崖際まで行った。間違いない、ここだ。カメラを構えた。ただし、灯台と断崖やその下の岩場や海とが、離れすぎているので、構図的なバランスが悪い。ま、<灯台のある風景>ということなら、許容できるが。

白黒の灯台は、風景の中の点景になっていた。見ようによっては、それでも存在感がある。しかし、自分の撮りたい灯台写真ではない。もう少しましな位置取りはないものかと、さらに、断崖際の草むらを歩き回った。暑かった。それに、ヘビとかクモとか虫とか、何となく気持ち悪い。撮影モードに入っていれば、さほど気にならないが、すでに気持ちは切れていた。ま、じっくり撮るのは次回だな、と思いながら足早に引き上げた。果たして<次回>はあるのか、いやはや、なんとも答えようがない。

鵜ノ崎海岸 観光

車に戻った。のんびり行くか。四、五十キロのスピードで、断崖際の道を走った。前にも後ろにも、車の影すらない。男鹿半島の<秘境感>を楽しみながら、<塩瀬埼灯台>を通り過ぎ、平場に下りてきた。海岸沿いの道を、さらに行くと、道路際に整備された駐車場があった。海水浴場の駐車場のようで、トイレやシャワーもある。車もかなり止まっている。小一時間走ってきたので、トイレ休憩だ。

ここは、男鹿半島の首根っこにある<鵜ノ崎海岸>らしい。案内板には、<日本渚百選>とか<日本奇石百選>とか<鬼の洗濯板・小豆岩>とかある。狭い砂浜には、家族連れの海水浴客が何組かいて、泳ぐというよりは水遊びしている。遠浅らしく、彼方向こうの方にも、人影が見える。

この海岸の風景は、たしかに珍しい。遠浅の海に、石ころをばらまいたような感じだ。これらの石というか岩は、海底の地層が隆起したもので、干潮になると、水面に顔を出す。その波打つ地層が<鬼の洗濯板>と呼ばれている。さらに、一抱えもある大きな<丸い岩>が点在していて、これは<小豆石>というらしい。たしかに、いま、撮った写真を拡大してみると、遠浅の海の中に、巨大な饅頭のような岩が、いくつか見える。

まったくの観光気分になっていた。初めて見る、<鬼の洗濯板>を気分良く写真におさめた。さらに、ナビによれば、すぐ後ろに<鵜ノ崎灯台>があるらしい。振り返って見ると、こんもりした小高い丘になっている。だが、それらしいものは見当たらない。ナビをさらに拡大してみると、灯台へ行く道がある。ま、いってみるか。

<鬼の洗濯板>を後にして、<鵜ノ崎灯台>を探しに行った。海岸沿いの道から、狭い道に入った。ゆっくり走りながら、この辺りだろうと、窓越しに左側のこんもりした林を見上げた。樹木の間から、赤白の灯台の胴体がちらっと見えた。あそこか。とはいえ、車を止める場所がない。狭い道なので路駐はできない。そのまま、うかうか走っていくと、道はさらに細くなり、このまま行くと、行き止まりの可能性が高い。

適当なところでUターンした。ほとんど展望のない灯台で、しかも、到達することが容易でない。それに駐車できないのだから、とあっさり諦め、海岸沿いの道に戻った。左折して、次なる目的地、というか時間調整場所、男鹿市の船川防波堤灯台へと向かった。

男鹿市船川港 観光

午前十時ころに<鵜ノ崎海岸>を後にして、男鹿市に入った。市街地を、ナビに従い走っていくと、海が見えた。さらに行くと、埋め立て地のような、だだっ広い所だ。大きな病院があり、周辺が公園になっている。行き止まりまで行くと、駐車場があった。カンカン照りなので、松の枝で、ちょっと日陰になっているところに車を止めた。

外に出た。信じられないような暑さだ!駐車場のすぐ目の前には防潮堤があった。さらにその先に短い突堤があり、真新しい赤い灯台(船川東防波堤灯台)が立っている。高さは、そうだな、背丈の二倍くらいかな。ただし、円筒形をしていて、頭に何か、電子機器がついている感じだ。目指していた灯台とは違うが、ここまでせっかく来たんだ、写真を撮りながら、そばまで行った。

新型?の赤い灯台の根本に立って、海を眺めた。目指している灯台は、はるか彼方、海の中に、横一文字に突き出た突堤の先に見える。突堤の付け根には、巨大風車が一基建っている。視線をさらに右に移動すると、何やら、倉庫のような資材置き場のような、雑然とした港湾施設といった感じになっていて、赤白の煙突が四本ほど見える。まあまあ、好きな風景だ。

赤白の煙突をポイントにして、海景というか、港の風景を何枚か写真に撮った。そして、ふと思いついて、ポーチにくっ付けている<コンデジ>を引っ張り出し、最大望遠800ミリで、いま目で見た場所を確認した。なるほど、巨大風車の辺りが、緑の芝生になっている。あそこまでは、入り込めるかもしれない。さらに、港湾施設に目を転じると、岸壁に材木などが野積みされている。船が出入りしている感じだが、船は見えない。要するに、防潮堤沿いにぐるっと左に回り込めば、目指している灯台に近づけるわけだ。

車に戻って、一応、ナビで確認してみた。いま目で見た、横一文字の突堤の先に、なぜか灯台のアイコンがない。が、手前の岸壁に灯台アイコンがあった。それを指で軽く押して、到着場所に指定した。

カンカン照りの駐車場を出た。ナビの指示に従い、うねうねと走って、広い岸壁に入り込んだ。たしかに、岸壁の先端には灯台があった。しかし、これも、目指していた灯台ではない。さらに近づいていくと、この灯台(船川南平沢防波堤灯台)は、先ほど見た新型?の赤い灯台と瓜二つだ。しかも、あろうことか!灯台の真ん前に車が止まっていて、そばで若い奴が二人、釣りをしている。

よくあることだ。なぜか、釣り人は、先端部にある灯台の根本を好む。荷物を置くのに便利だからか、少しでも沖の方が釣れるのか、灯台が日陰、風よけになるからか、ま、どうでもいいことだ。とにかく、奴らと二十メートルくらいの距離をとって、防潮堤の前に車を止めた。

外に出て、あらためて回りを見ると、けっこう車が止まっている。釣り人が、防潮堤の上や、その下の波消しブロックの上で釣りをしている。赤い灯台はといえば、真ん前に黒い車が止まっているのだから、まるっきり絵にならない。ので、証拠写真?を一枚だけ撮って、防潮堤沿いぶらぶら歩きながら、右手の海を見た。

海と陸地の間に、防潮堤と波消しブロックが、ずうっと続いている。背景には、山並みがあり、鮮やかな緑の斜面などが、手に取るように見える。そして、超巨大な雲が、その上に乗っかっている。まさに、真夏の光景だ。

カメラを構えた。ポイントは、何と言っても、もくもくした巨大な雲だ。と、画面下に豆粒ほどの赤い灯台が見えた。あれは、先ほど根元まで行った新型?灯台(船川東防波堤灯台)なのか?レンズを望遠側にして、確かめた。短い突堤の背後には、樹木の影が見える。あの下に車を止めたんだ。移動距離が短い割には、はるか彼方だったので、すぐにはピンと来なかった。それに、布置的なものもある。はじめは陸側の至近距離から、今は海側のはるか彼方から見ているのだ。

とにかく、目の前には、赤い灯台が点景となった、広大かつ雄大な空間が広がっていた。真夏の雲と山と海だ。少し慎重にシャッターを押した。三、四枚撮ったと思う。今日で夏休みが終わってしまう。ちょっと甘酸っぱい気持ちになった。だが、すぐに、ここが男鹿半島で、自分が爺だということを思い出した。幼い感傷が、気恥ずかしかった。

移動。広い岸壁を後にした。ナビには、先端に灯台アイコンのない突堤を指示した。すぐに、そのあたりに着いた。だが、道の先には、守衛所付きの門があり、これ以上進めない。少し手前の路肩に車を止めて、よくよく見た。どうやら、門から向こうは会社だな。ということは、目指している灯台は、企業の敷地内にあるのか?

守衛に、灯台を撮らせてくださいと言ってみることもできる。ただし、<ノー>といわれる可能性が強い。その筋の紹介状でも持っていれば、話は別だろう。だが、どこの馬の骨ともわからない人間をシャットアウトするために、守衛所があるのだ。もっとも、ぜひとも撮りたい灯台なら、そのくらいの手間は惜しまない。だが、違うだろう。観光気分の時間調整的な撮影だ。駄目とわかっていて、守衛に頭を下げる必要はない。

Uターンした。まだ十二時前だ。さっき目にした<道の駅>で休憩だ。しかしね~、そもそも<灯台>というのは、海上保安庁とか、要するに国が管理しているものなのではないか?一企業の敷地内にあるのはおかしい。あの時は、会社が<海保>から灯台の管理を委託されているのかもしれない、あるいは、<私設>灯台なのかもしれないと思った。

だがそうじゃない。今、地図で確認すると、この場所は<石油備蓄基地>だった。民間企業の施設とは言え、半公共的な重要な施設だ。一方、灯台は、やはり<海保>が管理しているのだろう。<海保>の職員は、守衛に身分証を見せて<石油備蓄基地>の中を通り抜け、灯台の点検管理に向かうのだ。おそらく、そうなのだろう。

道の駅に着いた。駐車場は、ほぼ満車に近い。え~と、日陰はないよな。カンカン照りの駐車場だ。エアコン全開の車内にいるより、施設の中の方が涼しいだろう。そう思って、入口に向かった。施設(物品売り場)の一角に、観光案内所のような、休憩室のようなものがある。中に入った。意外に人がいる。どちらかというと<蜜>な状態だ。それに、ホームレスっぽいオヤジが、床に倒れ込んで寝ている。暑い時には、誰しもが考えることだ。地元の人間も観光客も、涼しい所に退避しているのだ。

座る場所もないので、すぐに出た。時計を見たのだろう、まだ十二時前だった。レンタカーの返却は二時だから、ここを十二時に出れば、十分だ。時間調整だな。物品売り場へ入った。ここも、意外に人が多い。<おみやげ>はすでに買っているから、別にほしい物もない。が、時間調整だ、店内をぶらぶら見て回った。

ほぼ、普通のスーパーと変わりない。とはいえ、多少、観光客にとっては珍しい、地元の物産なども陳列されている。なにか、手に取ってみたような気がするが、忘れてしまった。ただ、鮮魚コーナーの魚介類は新鮮で安かった。大きなカニが千円とか、山盛りの刺身が五百円とか、それに、何と言っても、ケースの中に並べられている魚たちが、色鮮やかできらきらしていた。種類も豊富で、みな、目が真っ黒だった。

今朝、その辺の海で捕れた魚たちだろう。秋田県男鹿半島の首根っこに居るんだ。遠くへ来ていることを実感した。だが、店内が盛況のせいか、<最果て感>はなかった。そう、首都圏の人間が<秋田県男鹿半島>に<最果て感>を感じるのは、やはり、一種の偏見なのだ。

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