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<日本灯台紀行 旅日誌>2021年度版

<日本灯台紀行 旅日誌>紀伊半島編#1

#1 一日目 2021-3-20
プロローグ~出発

2021年3月20日土曜日。午後9時。今いる場所は、新名神鈴鹿パーキングエリア。これから車中泊。外は土砂降り。なんで、こういうことになったのだろう。少し説明しておこう。

紀伊半島灯台巡りの実行を本気で考え始めたのは、3月に入ってからだった。当初は、新幹線・電車・レンタカーの旅を考えていた。何しろ、紀伊の国は遠い。500~600キロある。だが、依然として、年初からのコロナ感染による<緊急事態宣言>が解除されない。それに、寒いしな~。

とはいえ、月一回の灯台旅を心づもりしているのに、前回の旅からは、すでにまる3か月以上たっている。多少、うずうずしている。名古屋までの新幹線の時刻表や運賃、それに近鉄電車の鳥羽へのルート、駅近くのレンタカーやホテルなどをネットで調べた。調べているうちに、実際の行程が、まざまざと目に浮かんできた。と、なんだか、電車旅がめんどくさくなってきた。

やはり、自分の車で行くのがいい。荷物もたくさん持っていけるし、何しろ自由度が全然違う。500キロだろが600キロだろうが、途中で一泊すればいいわけで、ケチな話、その宿代を考えても、レンタカーを借りるよりは安くあがる。それに、車で行くなら<コロナ感染>のリスクも下がる。

車で行くのが一番いいのだけれども、何しろ距離が、と運転体力に関して弱気になっていたのだ。それに、運転時間が長くなれば、その分事故の可能性も増えるわけで、万が一のことも考えられないこともない。いや、これは、ちょっと思っただけだ。

ごちゃごちゃ考えていても、埒が明かない。快に流れる有機体の傾向に身をゆだねよう。紀伊半島の旅、今回も車で行こう、ということに相成った。

決断した後は早かった。すぐに、実際の行程を詳細に検討しだした。これまでの高速走行の経験から、まあ、1日400キロくらいが限度だろう。一時間に60キロ移動するつもりで走るなら、高速運転もさほどきつくはない。つまり、1日8時間運転して、480キロ進めるわけだ。今回の場合<津>がそのあたりだ。いや正確に言えば、<津>までは400キロだ。

<津>で一泊して、次の日に200キロ移動する。このうち半分は一般道で、検索によれば、約4時間かかる。ということは4時間半とみればいい。ちょうど昼頃、通り道の<梶取岬灯台>に寄る。この灯台は目的地の30キロ手前、那智勝浦辺りにある。ネット画像で見る限り、ロケーションがよい。ここで、2時間ほど寄り道をしたとしても、紀伊半島の先端、潮岬灯台には、日没前の3時か4時頃までには到達できるだろう。何しろ、お目当ての<潮岬灯台>は夕日がきれい、らしいのだ。

ところで、今回の旅の計画は、天候の問題などもあり、二転三転、いや四転五転している。その経過は、もういいだろう。思い出して何の得になる!決定事項となった最終計画だけ書き記そう。

21日・日曜日は雨、この日に400キロ走って<津>まで移動、ホテルに泊まる。次の日から二日間は晴れそうなので、紀伊半島の東側?を200キロ南下、和歌山県へ移動。<串本>駅付近のビジネスホテルに三泊して、<潮岬灯台><樫野埼灯台>の撮影。25日の木曜日、午前中は雨予想。この間に、200キロ北上して、三重県伊勢志摩方面へ移動。<鵜方>駅付近のビジネスホテルに三泊。<大王埼灯台><安乗灯台><麦埼灯台>の撮影。最終日は500キロ走って、自宅に戻る。

出発の前々日の金曜日には、すべての手配を済ませ、念入りな現地マップシュミレーションも終了。むろん、車への荷物の積み込みも完了していた。

出発前日の、土曜日になった。雨はまだ降っていないが、いまにも降り出しそうな空模様。昨日来から、なんとなく胸騒ぎがしていて、出発日の天候を、しょっちゅうスマホで確認していた。実を言うと、御殿場付近からの箱根の山越えが気になっていたのだ。三時間降水量が16mmくらいあり、かなり多い。雨の日に出発する、というのも気が重いが、高速道路で強い雨風に出っくわすのは、もっと嫌だ。以前、若い頃に暴風雨の中、東名を名古屋から東京まで走った経験がある。あれはかなりきつかった!

時刻は、午後の一時半だった。このまま、ぐずぐずしていてもしようがない。決断した。出発を一日前倒しして、雨の降らないうちに箱根の山を越えてしまおう。宿は、いまからでは予約できるはずもないので、これから、走れるだけ走って、高速のパーキングで車中泊だ。天候的には、暑くもなく、それほど寒いということもないだろう。

幸いなことに、と言うべきか、旅の用意はすべて完了していた。あとは着替えだけだ。何と言うか、せっかちというか、小心というか、当初の計画をあっさり反故にして、前日の午後二時に出発してしまった。このへんは、かなり気ままで、多少小気味よかった。

五、六時間、曇り空の中、高速を走った。東名から伊勢湾岸道に入るあたりで、雨がパラパラ降ってきた。同時に暗くなってきたが、夜間運転が目に眩しいこともなかった。ふと、二十年ほど前の、眼発作を思い出した。あの時は、車のヘッドライトが異様に眩しくて、夜間運転など、まったく不可能だった。失明の危機を脱して、今こうして、自在に車を運転できる自分が、不可思議であり、奇跡のようだと、内心ニヤリとした。

・・・というわけで、これから、土砂降りの鈴鹿パーキングで車中泊をしようというわけだ。おもえば、この車で車中泊をしたことは、一度もない。いわば初体験だが、食事、洗面、就寝、排尿などのシュミレーションは、ちゃんとしている。問題はない。と思ったが、歯磨きの際に、ちょっとした齟齬を感じた。コップを持参するのを忘れたのだ。ま、今日のところは、歯磨き粉は使わずに、歯ブラシを水にぬらし、口の中でごしごしして、その後は、飲み込んでしまった。汚いと思えば汚いが、ま、臨機応変、そんなこともできるんだ。

その後は、まだ眠くなかったので、ちょっと長いメモ書きをした。30分ほどして、それにも飽きて、21時15分、耳栓をして消燈。しかし、23時半ころ、車の野太いエンジン音に驚かされて、目が覚めた。もっとも、おしっこタイムでもあり、おしっこ缶にイチモツの先っちょを差し入れて、粗相の無いように排尿した。この行為も、なんだか滑稽で面白いとさえ思えてきた。

350mmのオシッコ缶は、この時のために、4、5本、持参している。問題ないと思っていたが、あにはからんや、1時間おきくらいの排尿で、朝になるまでには、すべての缶がいっぱいになってしまった。夜間頻尿なのだろうが、ガキの頃から、おしっこは近いほうだったから、この時は、ほとんど意に介さなかった。それよりも、一晩で出した、おしっこの量に、やや驚いた。こんなに水分を取った覚えはないよな、と。

あと、例の、野太いエンジン音が、一晩中、やはり、1時間おきくらいに聞こえてきた。しかも、なぜか、駐車場内で、かなりの時間アイドリングをしている。その振動音が不快で、寝付けない。そのうちには、爆音を轟かせて、遠ざかっていくが、少しすると、またやって来る。同じようなことが、4、5回あったような気がするが、あれは、幻聴だったのか?いや、そうではないだろう。何しろ、ここは<鈴鹿>だ。その種のスポーツカーが集まってくる場所だったのかもしれない。車中泊地の選択をまちがったな。翌朝、寝不足の頭でそう思った。

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