見出し画像

<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

日本灯台紀行 旅日誌

第13次灯台旅 清水編

2022年9月25.26日

#3 一日目 2022-9-25(日)

清水港三保防波堤北灯台撮影 2

一時間ほどたって、十二時過ぎになっていた。依然として快晴。日差しが強くて暑い。さてと、午後の撮影だ。今度は、カメラ二台に、三脚も持った。どのみち、距離がありすぎるので、望遠での撮影がメインだ。ということは、カンカン照りの波打ち際に行かなくとも、少し離れるが、一段と高くなっている駐車スペースからでもいい。

風景に対して、なんというか、左右移動ではなくて、前後移動だから、写真の構図は、さほど変わらない。いや、厳密にいえば、同じ構図の風景でも、望遠になるほど、圧縮度があるから、見た目は変わってくる。しかし、いまの場合、実風景とレンズとの画角差が小さいから、その差異は問題にならないだろう。被写体にできうる限り近づく、という撮影流儀を、小理屈を並べてあっさり反故にして、これは横着ではなない、と開き直った。

ほぼベストポジション、手持ちで、重い望遠カメラで撮った。しかし、こことて炎天下、すぐに暑くなってきた。駐車スペースが切れたところ、背後に木々が生い茂っていて、砂浜に続く段々が少しだけ日陰になっている。のろのろと移動して、よっこらしょと腰かけた。自然とため息が出た。一息ついて、三脚に望遠カメラを装着した。少し右に移動したのだから、構図的には、灯台と防波堤が、やや中央に移動する。ま、これも、考えようによっては、いい構図だ。それにしても、ここ数年で、撮影体力が極端に衰えてしまったようだ。

段々に腰かけて、しばらくは、楽な態勢で写真を撮っていた。依然として、富士山の八合目より下は、巨大な雲海に覆われたままだ。したがって、黒っぽい三角の富士が、雲の上の青空に突き出ている光景に変化はない。少し休憩して元気が回復したので、立ち上がり、日陰の下で、今度は、手持ちで撮り始めた。

すると、横から、貧相な小男が声をかけてきた。すごいカメラですね~、何ミリくらいあるんですか?これは、400mmですけど、重くてね。自分も、昔、写真やってて、フィルムの時代に、300mmのをもってまして、いや~いいですね~。風体はホームレス仕様だが、笑顔がいい。二、三分立ち話をした。

おそらくは、自分と同年配だろう、小男は、胸のポケットから、たばこを取り出して、ごめんねと言って、火をつけた。そのあとも、こちらのカメラをさりげなく見て、何回も、いいですね~とつぶやいた。これはあきらかに、往年の自分を懐古しているのだろう。しかしそのうち、こちらの様子を察してか、邪魔してごめんね、とこれまた何回も言いながら離れていった。終始にこにこしていて、礼儀をわきまえている。小男の後姿を眼で追いながら、風体で人間を判断している自分を恥じた。

さてと、少し動いてみようか。いくらベストポジションとはいえ、ほかの構図も探すべきだろう。だいいち、前回来た時には、海の中に浮かぶ防波堤を横から撮っている。あの位置取りはどこだったのか、と思いながら日陰を出た。少し右に行くと、木立が切れて、こじんまりした駐車スペースになっている。車が二、三台止まっていて、なにやら、猫が、いっぱいいるぞ。

そういえば、さっきの日陰でも、ニャンコが毛づくろいをしていた。耳がV字カットされてないから、野良猫たちだな。釣り人達が、エサをあげているのだろうか、いや、そういえば、さっき、猫エサを茂みに撒いていたおじさんがいた。おいで、おいでしてみたが、野良猫たちはシカとして、寄ってこない。とはいえ、人間とは、なんとも不思議な距離感を保っている。

さらに奥にも、駐車スペースがあるようだが、ここからではよく見えない。砂浜に続くタイルの段々はここで終わり、海沿いに柵のついた遊歩道が続いている。両脇草ぼうぼうの入り口には、自転車止めのような鉄柵がある。その前に、なぜか、おおきなコンクリの直方体が二つ、すこし間をあけて置いてある。あとで思ったことだが、あれはきっと、砂浜への車の侵入を阻止する障害物だったのだろう。

波打ち際では、若い釣り人が二人、大きな声で騒いでいた。<シマアジ>が釣れたようで、釣り上げた方も、その友達も、興奮している。駐車スペースには、スポーツタイプの青い車が置いてあり、初心者マークが、前後に一枚ずつ、律儀に張ってある。もう一台、スポーツタイプのモスグリーンっぽい軽自動車が止まっていて、こちらは、フロントガラスなどに、純正の?日除けシェードをきっちり張っている。まだ新車のようだ。

炎天下、しかも、腰かける所もないので、大きな直方体のコンクリに寄りかかりながら、灯台と富士を撮っていた。案の定、構図的には、灯台が、さらに左側に移動して、小さくなり、バランスが悪い。と、すぐ横を、やや仏頂面した、釣り竿を手にした若い男が通り過ぎていった。ちらっと見ると、全身黒づくめの釣り人仕様だ。そういえば、ちょっと前にも、どこからともなくあらわれて、波打ち際の方へ行った奴だ。さらに横目で見ていると、モスグリーンの軽に乗り込み、駐車スペースで回転して、行ってしまった。不機嫌そうな若者の表情が印象に残った。カネは持っているのだろうが、波打ち際で興奮している二人組みたいに、奴も友達が欲しいのではないかと、ちらっと思った。

たしかまだ二時過ぎだったと思う。さらに右方向へ移動して、違った角度から、富士と灯台を撮れないこともない。ただし、それには、炎天下の中、また砂浜を歩かねばならない。あるいは、遊歩道を歩きながら撮るという手もある。だが、どちらも、思った瞬間に却下した。暑すぎるのだ。

となれば、構図的にはよろしくないが、海岸縁を左方向へ移動してみよう。駐車スペースの背後には木々が生い茂っていて、多少日陰になっているのだ。その日陰づたいに歩こう。途中、車に寄って、ペットボトルの水で給水した。ところが、左方向も、じきに駐車スペースが切れてしまい、そのあとは、炎天下、海岸沿いの広めの遊歩道を歩くことになってしまった。まいった。とはいえ、ここまで来た以上、左端までは行こう。

遊歩道が大きく左カーブするところに、狭い砂浜があり、波打ち際に波消しブロックが敷き詰められていた。その先端に、背丈ほどのロケットのような物体が立っている。灯台の役目をしている、いわば<灯台ロボット>だ。やや斜めになった、波消しブロックの上を歩いて近づき、スナップした。来た、という記念だ。とはいえ、登山靴を履いてこなかったので、足元が危うい。滑りそうになってしまった。くわばら、くわばら。

ところで、この場所、すなわち<真崎海岸>の左端では、もはや、富士と灯台を一つ画面におさめることはできない。いや、むろん、広角で撮れば一緒に写るが、<富士と灯台>という写真的な主題からは外れしまう。

そのかわり、まったくの予想外だが、ここは、海の中に浮かぶ赤灯台(清水港外防波堤南灯台)と富士山が、綺麗に一つ画面におさまる場所だった。この赤灯台は、いままで撮っていた白灯台(清水港三保防波堤北灯台)のペア灯台で、清水港に入る船舶が、この間を通って行くようだ。写真的には、富士が右上にあり、小さいながらも、左下の赤灯台が対岸の緑の山を背景にして、海の中にちょこんと立っている。色彩的にもきれいだし、点景以上の存在感がある。このささやかな発見で、やや元気が回復した。

辺りはいまだ十分に明るかったが、太陽は西に傾き始めていた。とはいえ、西日が富士山を染めるだろう、という期待は、どうやら裏切られそうだ。というのも、依然として、ぶ厚い雲が富士山の八合目までかかっていたし、その勢いが、西の空にも及んでいる。それに、陽が沈む方向と、富士山が離れすぎている。これでは、西日が富士山にうまく反射しないのではないか。

右手をみた。海の中に白灯台が小さく見えた。多少、西日を受けているような気もするが、全体的な雰囲気は、なんだか、黒っぽい。茜色に染まる富士山と白灯台。これは、まあ、今回は無理だろう。対岸の備蓄タンクやキリン(コンテナクレーン)をスナップしながら、ぶらぶら、車に戻った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?