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この体にいくつもの人生があるとしたら


2023.4.11

アーティゾン美術館でダムタイプの展示。新橋から歩きで行く。まるで夏の日差し。展示はおもしろかった。世界のいたるところの生活音が地球儀みたいに配置された装置から流れ、それを何周もしながら渡り歩いていると世界旅行へでたみたいで楽しくなった。その真ん中には暗い部屋があり、1850年代の地理の教科書から引用されたいくつもの問いが音や光や言葉のインスタレーションで投げかけられる。

虎ノ門のTENZOという菜食店で遅い昼ご飯。大豆ミートの丼を注文。ちいさな店内に、先客もあとから来たお客さんも英語圏ではない海外からの旅人。店の人の接客がかゆいところに手が届きすぎる丁寧さ。海外からきた彼らからしたらこういうサービスはかなり驚きだろうなあと思いながら胡椒が効いた大豆ミートを口にほおる。

神谷町で打ち合わせのち南千住のチャリツモへ。手土産を買いそびれてしまいどうしようと思っていると、19時前なのにまだ開いている昭和レトロなパン屋さんが。ポエシーという名前。のぞくと昔ながらの素朴なパンが色々。ふっくらした美味しそうなスイスロールがありこれはよさそうと2本購入。袋をもらわなかったのでふわふわの生地を圧でつぶさないよう手のひらにそっと乗せて、夜の下町を歩く。

数年ぶりのチャリツモ事務所にて、五月の奄美撮影の話をしつつ、手巻き寿司をごちそうになる。地球一おかっぱとしゃもじの似合う下町っ子うーちゃん、今日も抜群にかわいい。あんなきれいな子はそうそういない。どれくらいきれいかって、こちらが自分のなかにある純粋なものだけで反応してやりとりが成立するくらいにきれい。ぼりーさんと誕生日の話で盛り上がる。今日いた大人4人、全員の誕生日が0から2までの数字だけで、そういうことで「おおー」と興奮するぼりーさんと私。0は未知だが1と2はとにかくとても好きな数字なのだ。日にちは皆20、21、22日。おおー。

その流れで前世の話に。ぼりーさんは大正時代のアンティーク着物作家だったり、江戸時代に本当はエンタメの世界で生きたかった武士。ふなかわさんは第二次大戦中の特攻隊とか。私も一度だけある生のときのことを見える人に言われたことがあるが、それを思い出すとやりきれない気持ちになるのでほぼだれにも言ったことがない。けれど今日久々にそのことを思い出して、今回の人生というのは決して私ひとりの人生なんかではないだろうと改めて思う。前世の業など解消されて今世を生きている人もいるだろうし、私の場合は他生からの縁は深いような気がする。でもそれを悲しいことにしてしまう必要はどこにもないから、できるだけ健やかに、労いながら、あるいは弔いながら、私なりに祈りをささげながら、それでも私は私で今世を目いっぱい生きたい。


2023.4.12

風がつよすぎる。遅くなってしまった確定申告をパートナーに手伝ってもらいつつ終わらせる。昼は冷蔵庫にある野菜あれもこれもサラダ、ますの塩焼き、さつまいものグリル。午後に鍼灸とカウンセリング。思い出したくないことを思い出しながら話したり、二日間寝不足なのもあって頭がぎんぎん痛かったが、鍼灸で邪気のようなものがすうっと出た。鍼灸の帰り道は視界がいち段階ひらける。世界が明るく見える。ほんとうに。寄り道せず帰ろうと思ったが、たらば書房で本を四冊買う。いい本ばかりで絞るのに時間がかかる。バスで帰宅。黄砂なのか空一面が茶色がかった黄色に染まっていた。



2023.4.13

朝ふとんの中でハン・ガンの「すべての、白いものたちの」を読み終える。新しくやらせてもらう予定の連載記事テーマをようやく思いつき、勢いで書き始める。昼食後KIBIYAベーカリーまで予約していたライ麦百%パンを取りに行く。かなやで柿右衛門農園のミニトマトやレタスを買う。長すぎる長ネギはふたつに切ってもらう。前髪が伸びて重たくなってきたので思い立って美容室に電話し、髪を切る。ぎりぎりまでパーマをかけようか悩んだが、あの強烈な薬剤の匂いとそれが頭皮に沁みてきたときの不気味な冷たさを思いだして挫折。やっぱり私、もう二度とパーマかけられないと思う。ハイライトなら頭皮に沁みないらしいので今度やってみたい。前髪を少し短くし、真ん中分けから横分けになった。

まだ真ん中分けのとき


2023.4.16

佐藤微子さんの展示を平塚のOdierへ観に行く。作品について佐藤さんが詳しく説明してくれてとても面白かった。平塚港の食堂でかんぱちのあら煮定食。朝を抜いていたのでお腹ぺこぺこ。伊東に向かう。車内で急激に眠くなる。気流の先生の治療へ。行くと元気をもらえる。自分の持っている力に気づかせてくれる。そういうところがほんものの医者で治療者さんだって思う。

漁港で釣り中の父とパートナーに合流。パートナーは初めての海釣り。小指くらいのサイズの魚を釣ってた。とても小さかった。針がのどをだいぶ痛めてしまったみたいでバケツに放っても動かない。それでもしばらくしたらバタバタ動き回って、そのあとぱたりと動かなくなった。あの最後の動きは、なんだったのだろう。死んだ後も筋肉の何かでああいうことがあるのか、それとも命のなくなる前のほんとうの最後の力でああいうふうに泳いだのか。母が夕食に作ってくれたマグロの酢豚が美味しかった。温泉に入りふらふらで寝る。

Odierで皆さんと



2023.4.17

雨戸を締め切った部屋で寝たからか温泉効果か、起きたら10時半。朝ごはんを食べて八幡宮来宮神社、赤沢海岸で父の釣りスポット開拓。カフェを2軒はしご。See the forestは前にも一度来た。「ビギン・アゲイン」という名のハーブティーを注文。パートナーは「ユリイカ」。壺中天の本と珈琲はずっと行ってみたかった。伊豆高原の別荘地にある。アートの本がずらり。オーナーさんや居合わせた皆さんが気さくな人たちだった。一碧湖を一周歩く。夕陽が沈む。だぼだぼのスウェットの中をひんやりした風が通り抜ける。

一碧湖






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