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今ではなく、未来を描くデザイン

こんにちは。
あいも変わらず、昼間は仕事をこなし、
夜は大学院生活を続けております。

自分の研究活動も少しずつではありますが、前進しております。

さて、今回は、
大学院の授業である
クリエイティブリーダーシップ特論第2回目のゲストとして、

ニューヨーク在住のデザインディレクター・岩渕 正樹さん

にお越し頂きました。
(2021/4/19 CL特論第二回目)

今回はスペキュラティブ・デザインに関するお話をお聞きしまして、
自分なりのまとめをしてみました。

ユーザー中心デザインの限界?

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スペキュラティブ・デザインを理解する上では、ユーザー中心デザインとの比較すると分かりやすいです。
ユーザー中心デザインが扱うのは、"今現在"のユーザーに関する解くべき課題・問題があり、その解決を目的としたデザインとされています。

ユーザー中心デザインといえば、デザイン思考で有名なIDEOのティム・ブラウンが有名ですが、人々が生活の中で何を欲し、何を必要とするか、何を好み、何を嫌うのかについて徹底的な観察・理解の必要性を説いています。

その一方で、ユーザー中心デザイン・デザイン思考に対するオルタナティブとして、真正面からぶつかったのが、ロベルト・ベルガンティでした。

ベルガンティの書籍である「突破するデザイン」から、以下抜粋。

"これまで多くの企業が、イノベーションの参考書に書かれたグッドプラクティスを実践し続けてきた。ブレインストーミングを行い、ユーザーを観察し、他者からの大量のアイデアに接してきた。そうやって既存製品を改良する能力を高めてきた。しかし、いまだ熾烈な競争の中でビッグチャンスをつかむのに苦戦している。(中略)問題は、彼らがアイデアを逃していることではない。彼らはアイデアの多さに圧倒されているのである。"
"現在のイノベーションの主流な方法では、アイデアに埋もれてしまう。どれだけたくさんのアイデアを持ったところで、ビジネスと顧客にとって取るに足らない価値を増やすだけである多くのアイデアを区別できなくなり、モノゴトが曖昧になることで、価値を破壊してしまうことになる。" 
"モノゴトの価値は、どの方向性がより意味を持つかというビジョンから生まれる。多くのアイデアは必要とせず、意味のあるビジョンが1つあれば良い。(中略)意味のあるモノゴトをつくりだすには、近年のイノベーションの議論において人気の、外部から多くのアイデアを得る方法論とはまったく反対の原理を持つプロセスを必要とする。それには「批判精神」と「自分自身から始めること」が必要だ。"

(以上、「突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる」第1章より引用)

これまでイノベーションを起こすための常套手段であったデザイン思考やユーザー中心デザインからは、確かに多くのアイデアを生むことは出来たが、外部から得られる多くのアイデアからはイノベーションを生みづらくなっており、ベルガンティは内発的に生み出すモノゴトの意味と、その意味生成における他者からの批判・スパーリングのの重要性を説いています。

そして、モノの機能よりも、人々がモノを利用するための新しい理由・意味の提案が重要であると言っています。

また、今回取り上げているスペキュラティブ・デザインの提唱者であるダン&レイビーは次のように話しています。

“今日の夢とは何なのか? この疑問に答えるのは難しい。今や、夢は希望に成り下がってしまったように思える。人類が絶滅しないようにという希望。食べ物に困ることがないようにという希望。この小さな惑星で全員が暮らしていける余地があるようにという希望。そこにはもはやビジョンなどない。 誰もこの地球を修復し、生き残る術を知らない。あるのは淡い希望だけだ。”
『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。: 未来を思索するためにデザインができること』 第1章 ラディカル・デザインを超えて? 冒頭より引用

現状の身近な課題解決は淡い希望であり、少し改善すれば手に届くような思考に留まってしまっており、それは夢とは言えないと。

「今、ここ」という現実に表面化している問題・課題の解決のためのデザインではなく、「今ではなく、ここではない」未来における潜在化されていない問題とは何か?それを思索的にデザインすることの重要性を、ダン&レイビーは唱えています。

スペキュラティブ・デザインって何?

岩渕さんのお話を要約すると、
スペキュラティブ・デザインとは以下の通りです。

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岩渕さんの解説としては、

"今ある技術が進展していったらこんな世界になるだろうという現在の延長で形作られる未来だけでなくもっとこんなオルタナティブな社会もありうるのではないかとか、今ある技術が現在と全く違う価値観を拓く可能性はないのだろうかなど、現在の延長線ではない、飛躍した未来をデザインにより可視化し、どれが我々の目指すべき未来なのかを議論するデザイン領域"

ということで、やはり現在の問題・課題を扱う商業的なユーザー中心デザインとは異なるスタンスで、現在の延長線としての未来ではなく、先進的なテクノロジーの発展を前提とした場合、ありうる未来とは何か?について思索し、それを形作り、触れた人たちの議論のきっかけとするためのデザインというように理解しました。

これは様々なメディアや本でも語られていることですが、

現代社会においては多くのモノで溢れ、既にユーザーの欲求の多くは
満たされている中で、あの手この手で、ニーズを作り出し、
消費活動を促しており、そのことが不必要に環境への負荷を
かけていることに対する警鐘を訴える論調も多いかと思います。

そういった一部批判の目にさらされているデザイン姿勢とは異なるのが、
このスペキュラティブ・デザインなのだなぁと思いました。

人間中心デザインの中心的人物である、
ドナルド・ノーマンは、「誰のためのデザイン?」と問題提起しましたが、

スペキュラティブ・デザインは

未来における人間やそれを取り巻く環境のためのデザイン

とも言えるのかもしれません。

スペキュラティブ・デザインの変遷

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そんなスペキュラティブ・デザインが唱えられたのは1999年ということで、既に世に出てから20年という年月が経っています。

その期間においても、スペキュラティブ・デザインのアプローチも変化を見せており、当該デザインの当初はテックドリブンな未来発想であったものが、2010年半ばにはテクノロジーに加え、生活・倫理・社会・政治といった多面的な観点から未来を想像し、表現するという風に変わっていったそうです。

スペキュラティブ・デザインの次 -Designed Realities-

そして、2021年現在ですが、
イギリスのデザインスクールであるRCAで教鞭を取っていた
ダン&レイビーは、2016年からNYのパーソンズ美術大学に移籍し、
スペキュラティブ・デザインの発展系ともいえる
「Designed Realities」の概念を提唱しています。

岩渕さんのお話をもとに、
その特徴をまとめると以下のようになります。

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元々、ダン&レイビーがRCAでスペキュラティブ・デザインを教えていた時には、彼らの出自がプロダクトデザインであることや、教えていた学科がRCAのデザイン・インタラクションという特徴もあり、テクノロジーをベースとした未来の構想であったのが、パーソンズに来てからは人文学系・社会学系等の教養も含めた超学際的なアプローチに変わってきているとのことです。

様々な知見やバックグラウンドを持った学生が、多元的な視点からあり得る将来に対して構想するというプロセスは面白いですし、それを単に語るのではなく、プロトタイピングを行い可視化させたものを並べることを重視しているという点では、世界でも有数のアートスクールであるパーソンズらしいなと思いました。

最後に

今回お話を聞いて思うのは、現在表面化している問題・課題の解決としてのデザイン自体はこれからも主流ではあるのでしょうが、30年後、50年後における社会がどうなり得るのかについて考えることについての関心が、ここ近年急激に高まってきているように思います。

特に環境分野に対する危機意識の高まりに応じて、SDGsやサーキュラー・エコノミーといった論点が出てきているように思います。

もちろんそう言った現状の文脈・背景を頭には入れつつも、その延長戦としての未来を描くのではなく、よりホリスティックな視点で、例えば、民族、宗教、ジェンダー、労働、経済...挙げるとキリがないのですが、いろいろな要素を加味した上で、どんな世界であるだろうか、そして、その時代における課題は何かについて考え、今を見つめると言った癖をつける必要があるように思いました。

そして、
大事なのは悲観的に未来を嘆くのではなく、その時にどう生きたいかを考えることが重要で、あくまでもポジティブな夢を描き、その夢を人に伝える力を磨くことが必要

ということを、今回学びました。

そういったアウトプットを実行に移していきたい。

ということで、今回は以上です。
引き続きよろしくお願いします。

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