続・時代劇レヴュー⑨:風林火山(1992年)

タイトル:風林火山 武田の軍師・山本勘助の愛と野望

放送時期:1992年12月31日

放送局など:日本テレビ

主演(役名):里見浩太朗(山本勘助/高坂昌信)

原作:井上靖

脚本:杉山義法


井上靖の代表作の一つで、今なお評価の高い歴史小説である『風林火山』は、その人気もあって過去に何度も映画やテレビドラマ化されている。

その中の一つで、個人的に最も映像化作品の中で好きなのが日本テレビの1992年版「風林火山」である。

本作は日本テレビが毎年年末に放送していた「年末時代劇スペシャル」の第八弾であり、大晦日に放送された最後の作品である。

また、それまで第一弾からずっと漢字三文字のみのタイトルであったが(「忠臣蔵」「白虎隊」など)、本作は初めて四文字タイトルでまたサヴタイトルもついている。

ソフト化に際して二部構成になり、「野望篇」「愛憎篇」とそれぞれにはタイトルがつけられたが、放送時は一挙に放送され、また装いを改めて五時間編成となった前年の「源義経」よりも、さらに時間が短縮されて四時間の放送枠であった。

本作で主演を務めた里見浩太朗は、若い頃に井上靖の原作を読んで感銘を受け、いつか山本勘助を演じたいと思っていたと言うことで、それだけに同シリーズの他の作品に勝るとも劣らない熱演であるが、勘助は容貌魁偉の設定であるため、二枚目時代劇スターの里見のイメージに合わせた役も用意する意図か、後半で登場する武田家一の美貌の武将・高坂弾正忠昌信(=春日虎綱)を二役で演じている(高坂が美男子なのは史実を反映したもので、杉山の創作ではないが、井上靖の原作では風采の上がらない男として描かれている)。

井上靖の原作は歴史小説のみならず、「純愛小説」としての側面も持っており、その点もこの小説が人気の高い理由であると私は思っているのであるが、本作でも勘助とヒロイン・由布姫(所謂「諏訪御前」)のロマンスは物語の重要な要素となっており、かつ原作だと「憧れ」くらいの描写だった勘助の由布姫に対する感情が、本作では明確な「思慕」になっている(作中では、勘助がかなりはっきりと由布姫に対する慕情を表現する描写が何度か登場し、いづれも冷静に見ると結構露骨な表現なのであるが、里見浩太朗が演じているせいでそんなにいやらしく見えない 笑)。

また他にも、所々で原作と異なっている描き方をしており、杉山義法の脚本の方がより史実寄りになっているが(原作はかなり史実とは異なる描写が多い)、そうでありながらも根幹の部分は原作の雰囲気を反映しており、うまいこと原作のエッセンスを抜き出してドラマにしている。

杉山はかなり原作を読み込んで脚本を作っていることがうかがえ、管見の限り『風林火山』の映像化としては最も良質であると思われる(なお、これは前年の『源義経』でも見られたが、本作の台詞の中には、杉山が脚本を担当した1969年の大河ドラマ「天と地と」の台詞からの流用が見られる)。

ただ、不自然な史実との相違もわずかながらあり、例えば原作とも史実とも反して、由布姫の死が永禄二年になっているが、前後のエピソードの都合で由布姫の死期をずらさなければならないような所も見た限りではないのであるが、何か事情があるのだろうか(後、何故か諏訪頼重が「頼茂」と言う表記になっている)。

また、諏訪頼重が信玄に謀殺されたり、上田原の戦いと戸石崩れの順番が逆になっていたり、甘利虎泰が戸石崩れで戦死したり、信玄の出家のタイミングが史実より早かったりするが、これは原作がそうなっているためである(なお、上田原の戦いと戸石崩れの順番や、甘利虎泰が戸石で戦死するのは、井上靖が元ネタにした『甲陽軍鑑』がそうなっているためである)。

主演の里見浩太朗以外のキャストに言及すれば、由布姫役の古手川祐子は、気性の激しい美女と言う役どころが見事にはまっており、歴代由布姫の中で最も原作のイメージに近いと思う。

また、三条夫人役の池上季実子も適役で、過去に淀殿や築山殿など、権高い女性を自家薬籠中の物にして来た池上の演技が光っている。

副主人公とも言うべき武田信玄役の舘ひろしも(本作では原作には信玄が父・信虎を追放するくだりなどが描かれるなど、武田家内部の描写が原作以上になされている)、独特の屈折したキャラクターで信玄を好演しており、信玄のライヴァル・上杉謙信(作中では長尾景虎→上杉政虎)役の高嶋政宏も、登場シーンは少ないながら存在感のある謙信であったように思う。

シリーズ最末期の作品で何かと規模は縮小しているものの、ドラマそのものはシリーズ中でも屈指のハイクオリティであり、是非とも視聴をおすすめしたい一作である。

なお、本作はVHS、DVDともにリリースされており、現在も視聴が容易である。


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