続・時代劇レヴュー㉕:忠臣蔵(1990年)

タイトル:忠臣蔵

放送時期:1990年12月26日

放送局など:TBS

主演(役名):ビートたけし(大石内蔵助)

脚本:池端俊策


「忠臣蔵」ほど繰り返し映画・ドラマの題材に取り上げられてきたものもないだろうが、数が多いだけに解釈も千差万別である。

私自身は「忠臣蔵」の魅力と言うのは、やはり「原点」というべき浪士達の忠義にあると思うのだが、では、討入りに際しての浪士達の心理が、全く芝居と同じかと言われたら甚だ疑問である。

もちろん本当の所は当人達にしかわからないだろうが、この1990年の年末に放送された長編時代劇「忠臣蔵」は、数ある「忠臣蔵」の中でも一番、赤穂浪士は本当はこんな感じだったのではないかと思える作品である。

本作は、討入りに加わらず「不義士」の汚名を被って零落した、元赤穂藩家老の大野九郎兵衛のもとを、「仮名手本忠臣蔵」を見て赤穂浪士贔屓になった若い儒学者が訪ねる所から始まる。

大石内蔵助がどんな人物なのかを教えて欲しいと言う儒者に対して、大野九郎兵衛が自分の知っている事件の一部始終を話すと言う形式で物語は進む。

本作で描かれる内蔵助は、門閥に生まれたゆえに家老にはなっているが、実際には何の目立った才覚もなく、絵を描くのが好きなだけの平凡な趣味人で、お家の一大事に動転して狼狽する小心な人物である。

大野はそうした大石が道を誤らないよう、お家再興運動に専念させようとするが、結局大石は仇討ち急進派に引きずられていくうちに、仕方なく討入りせざるを得なくなってしまう。

この小心者で情けないけれど人間臭い大石を、ビートたけしが演じていて見事にはまっている。

作中で一番常識人ながら、打つ手打つ手が裏目に出てしまう大野を演じる緒形拳もまた良い味を出している。

他の浪士、中でも特に堀部安兵衛は、忠義のためではなく自分が脚光を浴びて「再就職」するための手段として討入りを推進し、大石と堀部のコントラストも面白いが、堀部の描き方は、案外浪士達の「動機」と言うのはそんな所だったのではないかと思わせる説得力があった(堀部は最後まで楽天的で、討入りが終わって引き上げる際にも、これでバラ色の未来が待っていると言う感じで得意げに振る舞い、ひょっとしたら自分達はただでは済まないのではないかと思い始める大石とは、ここでも好対照になっている)。

終始騒がしい堀部を演じるのは陣内孝則で、これまた非常にうまく合っていて、本作では一番好きなキャラクタかも知れない。

大石と堀部双方を焚きつけて、淀んだ幕府の政道に活を入れようとしているのは西田敏行演じる細井広沢で、ある意味では彼が討入りの「黒幕」になっている(もちろん、具体的な何かをするわけではないのだが)。

このように本作はかなり斬新な描き方をしており、それで破綻がほとんどないのは見事であり、流石の池端俊策の脚本には唸るしかない。

「忠臣蔵」の新解釈と言うと、とかく謀略や陰謀になりがちであるが、こう言う解釈もあるのだと思わせてくれる傑作で、個人的には正統派ならば1985年放送の日テレ版「忠臣蔵」(「時代劇レヴュー①」参照)、変わり種のなら本作と、この二作が「忠臣蔵」作品の双璧だと思う。

他に、本作が他の作品と異なる点としては、浅野内匠頭と吉良上野介がほとんど登場しない所であるが(吉良に至っては台詞も全くない)、にもかかわらず内匠頭役は三田村邦彦、吉良役は東千代之介と著名俳優を起用しているのがまた贅沢である。

ちなみに、登場シーンこそわずかであるが、三田村邦彦の内匠頭は、個人的には歴代の内匠頭役の中で一二を争うくらいぴったりだと思う。

なお、本作は2020年5月現在、ソフト化についてはVHSのみで、DVD化が切望される作品である(不思議と「忠臣蔵」は出来の良い作品に限ってDVD化されていないものが多い)。


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