時代劇レヴュー㊻:平清盛(1992年)、附・平清盛(2012年)

タイトル:平清盛

放送時期:1992年1月1日

放送局など:TBS

主演(役名):松平健(平清盛)

脚本:高田宏治、松本功


平清盛はなかなか毀誉褒貶の激しい人物であるが、彼を肯定的に評価する場合は、だいたい日宋貿易に着目して先進的政治家として捉えたがる傾向があるような印象を受ける。

これが妥当なのかどうかは別として(私個人としては、こうした「貿易立国」「海洋国家」建設だったりを夢見た先進的政治家の清盛像に、何となくうさんくささを感じるのであるが)、歴史学・文学・映像の分野を問わず、近年は特にこうした清盛像が増えているような気がする。

創作の世界においてそうした先進的政治家・清盛像の嚆矢となったのは、おそらく吉川英治の大作『新・平家物語』であろう。

さて、今回取り上げる「平清盛」は、『新・平家』の清盛像をさらに拡大再生産したような作品である。

本作は、かつてが毎年元日に放送していた「新春大型時代劇」の第六弾で、若き日の清盛の動向から保元、平治の乱での活躍と言った前半生が物語の中心になっており、そのため太政大臣になって栄華を極めて以降の展開は駆け足で進み、お馴染みの入道スタイルの清盛は、末尾でほんの少ししか登場しない(と言うより、本作では鹿ヶ谷事件の際に出家したと言う設定になっており、史実よりも出家の時期が遅い)。

若い頃に海賊討伐を行ったこと(このエピソード自体は史実をベースにしている)がきっかけで海外貿易に着目するに至ったと言う設定で、貿易による富国を視野に入れた福原への遷都が、全編を通じての主題みたいになっている。

清盛が主人公であるため、古典『平家物語』でお馴染みの暴君ぶりを伝える描写はほとんどなく(と言うよりも、平治の乱以降清盛の登場シーンが極端に少なくなり、公卿達反平家派の人間から清盛の悪評が語られた後で、ようやく鹿ヶ谷事件に際して清盛が登場し、後白河法皇に福原遷都の真意を伝えると言うストーリー演出になっている)、先見的政治家としての面が強調されているのであるが、清盛主人公のドラマがそれ以前に少ないだけに、この手の時代劇での清盛の描き方としては珍しい。

ある面においては、2005年の大河ドラマ「義経」(「時代劇レヴュー㊳」参照)で異様に美化されていた清盛や、後述する2012年の大河ドラマ「平清盛」での清盛像の先駆的事例とも言える(ただ、1992年時点ではまだ目新しかったかも知れないが、現在では逆に海洋国家建設を目指した先見的政治家と言う描き方が、清盛のステレオタイプみたいになってしまっているが)。

後は、美福門院(演・十朱幸代)が清盛の庇護者の役回りであり、重要人物として登場するのも他にない特徴である。

このシリーズに共通するものであるが、所々で史実と異なる部分も多く、例えば源義朝(演・夏八木勲)が戦死したり、藤原頼長(演・神山繁)が清盛に直接討ち取らてしまったり。

とは言え、このシリーズにしては比較的軽度(?)の史実無視であり(死に方の違いはともかく、上記頼長や義朝が乱の結果として死ぬと言う意味合いには変わりない)、例えば同シリーズの「太閤記」や「源義経」から比べるとだいぶマイルドになっている。

個人的に目立って気になったのは、清盛の父・忠盛(演・丹波哲郎)が保元の乱の後に死ぬのと(その割にナレーションでは「仁平三年」の出来事とされている)、近衛天皇が死んで後白河天皇が即位するのがやはり保元の乱の後になっていると言うこの二点くらいであろうか。

キャスティングは、主演の松平健を含め今ひとつなのであるが(無名時代の渡部篤郎が平重盛役で出演しており、今見ると目を引く)、高橋英樹の人を食った後白河法皇役が意外にも似合っていた。

後、役所広司のナレーションが、そう言う演出の指示かも知れないが、妙に抑揚のない調子でいささか聞き取りにくい。


NHKの所謂「大河ドラマ」の2012年放送作品の「平清盛」も、また「海の男」清盛の視点が強く出ている作品で、全くの偶然であるが、TBSの清盛と同じく「マツケン」(そっちは表記は「松ケン」であるが)の通称を持つ松山ケンイチが清盛役を務めた。

この大河ドラマの「清盛」は、放送開始当初からとかく評判が悪く、一部のファンの間で人気を博したものの視聴率はまったく振るわなかった。

実は、私はこの作品を部分的にしか見ていないので、詳しい評価は控えるが、ただ脚本を担当した藤本有紀の趣味なのか、それとも制作サイドの趣味なのか、異様に一昔前の少年向け格闘漫画チック(あくまで私のイメージであるが)なストーリーが気になった。

清盛が決められたレールの上を歩くのは嫌と言わんばかりに、父の忠盛の生き方にやたらと反発したり、海賊の棟梁だったり義朝だったりと拳で殴り合って決着をつける的な展開があったり、政争を繰り返す中で迷走気味だった清盛が、源頼朝の挙兵を聞いて俄にわくわくし出して武将の心を取り戻す展開だったり、全体的に妙に陳腐な印象を受けた(ただ、後白河法皇の今様狂いでギャンブラーな面を強調したキャラクタは面白かったと思う)。

中でも一番解せなかったのは、平家を滅ぼした当人であるはずの頼朝が、清盛を自分に先行する人物として敬意に似た感情を抱いていると言う設定であろうか。


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