時代劇レヴュー㊺:天地人(2009年)

タイトル:天地人

放送時期:2009年1月~11月(全四十七話)

放送局など:NHK

主演(役名):妻夫木聡(直江兼続)

原作:火坂雅志

脚本:小松江里子


NHKの所謂「大河ドラマ」の第四十八作で、戦国時代末期から江戸時代初期にかけての上杉家の執政・直江兼続の生涯を描いた作品である。

大河ドラマはもとより、直江兼続を主人公にした映像作品としてはおそらく初のもので、従来歴史ファンの間では人気が高くとも、一般には知られていなかった兼続の知名度を一気に高めた作品であり、視聴率も安定して高い人気作品であった。

が、そうしたこととは裏腹に、作品自体の出来は極めて悪く、とりわけ歴史ドラマとしてはまったくの駄作と切り捨てて差し支えないだろう(ファンの方、ごめんなさい)。

そう断ずる理由はいくつかあるが、まず不満な点として挙げたいのは、直江兼続、あるいは戦国時代末期の上杉家と言う題材をほとんど活かせていないと言うことである。

本作はびっくりするほど、戦国時代のドラマとしてのオリジナリティがない。

と言うのも、それなりの存在意義を持って登場する上杉家内の人物が兼続と主君の上杉景勝を除くとほとんどおらず(せいぜい兼続の実弟である大国実頼くらいか)、斎藤朝信や千坂景親など家老クラスの功臣・重臣が、序盤に登場するごく数人を除けば全くと言って良いほど登場せず(登場してもほとんど存在感がないかモブキャラ的扱いで、中盤以降は上杉家の家臣団が景勝の側近達だけになってしまっていた)、兼続と並んで秀吉から高い評価を受けていた色部長真や、後半の見せ場と言うべき慶長出羽合戦において活躍する本庄繁長や水原親憲なども登場しない(あくまでも私の主観であるが、水原親憲などは兼続とコントラストをなすキャラクタとして登場させたら面白かったと思うのであるが)。

その他にも、新発田重家の乱が全く無視されていたり、上条政繁や藤田信吉の出奔事件なども登場しなかった(このあたりは、本作と言うよりも火坂雅志の原作自体に問題がある部分もあるらしいが)。

さらに言えば、兼続の幼少時から話を起こしているが決して丹念に描いているわけではなく、特に上杉家が秀吉に臣属するまでの話は変な省略が顕著で、前半の山場である「御館の乱」についても、乱に至るまでの背景が説明不足のまま話が進んでしまっており、当時の越後内部の複雑な情勢と言うものが非常に見えにくい作りになっていた(そもそも「御館」が出てくるのに、その主である上杉憲政が名前すら登場しないのには首をかしげる所である)。

確かに上杉家の武将達は、いづれも一般的にはマイナーな人物ばかりであり、むやみに武将を登場させて視聴者を混乱させまいとする配慮なのかも知れないが、同じようにマイナーな題材であった「毛利元就」(1997年の大河ドラマ、「時代劇レヴュー㊴」参照)でも、最低限の数の毛利家の武将は登場しており(それでもだいぶ端折られてはいたが)、本作はまるで兼続一人が上杉家を動かしていたような印象を与えてしまい、いささかフェアでない気もする。

反面、豊臣政権に関わる人物はそれなりに登場しており、何となくバランスが悪いと言うか、これでは直江兼続や上杉家を別の人物に入れ替えても成り立ってしまう(例えば、蒲生氏郷とか小早川隆景とか)ような印象があり、先に「オリジナリティがない」と評した所以である。

要するに、単に信長・秀吉・家康の物語に兼続を混ぜているだけであり、長谷堂城の戦いすらろくに描かず、却って関ヶ原本戦の描写に力を入れて描いている(たとえ石田三成と兼続を友人設定にしたせいだとしても)あたりは、個人的には素材がもったいない印象を強く受けた。

後、細かい点であるが(そして本作に限らず近年の他の大河ドラマにも見られるが)、兼続は最後まで前髪をつけている(ドラマや映画で登場する佐々木小次郎みたいな「髪型」)のは、どうにも気持ち悪かった(笑)。

もう一つの理由は、これも近年の大河ドラマに共通する通弊であるが、解釈に現代的視点を持ち込み過ぎの感があった。

兼続がやたら平和主義者であったり、そもそも兼続が兜の前立に用いた「愛」の文字を「LOVE&PEACE」の意味で解しているあたりはもう笑うしかない(「愛」は上杉謙信の「毘」と同じく仏神を表現したもので、「愛染明王」の説もあるが、おそらく「愛宕権現」を表現しているのであろう)。

敢えて酷評をすれば、歴史に理解のない(と言うか「敬意」のない)脚本家やスタッフが大河ドラマを作ると、かくも悲惨な作品が出来ると言う見本のような作品である。

(俳優の演技を除けば)これほどほめる所のない作品も珍しいが、一つくらいは酷評のレヴューがあっても良いだろうと思って敢えて不毛な議論をした次第である。

一つだけ、個人的に思う本作の意義を挙げれば、大河ドラマとは何か、歴史ドラマとは何か、さらに大袈裟に言えば、歴史を題材にした映像作品を作る意味とは何なのかを考えさせられる作品である。


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