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memo: 致死的なウイルスにも負けず、長寿で生き抜くわざがある(動物のはなし)

パンデミックとなってからというもの、科学の有名な雑誌がすべて新型コロナに関する論文を公開してくれている。それだけではなく、話を伺う科学者の方々の中には、自分の仕事を今はおいてでも、新型コロナの実験を始めたと仰っている方にも出会う。世界中の研究者が日進月歩で進むコロナウイルスのデータをサイトにアップし続けてくれている。世界中の研究者が協力して、データ共有して、なんとかこの事態を打開しようと努力し続けてくれている。そういうのを見るにつけ、人間って捨てたもんじゃないよね、と思うし、できることをいち早く見つけ、そして実現・実行する姿に頭が下がる。

致死的なウイルスを接種しても、ものともしない"やつ"がいる

そんな日々のなかで、個人的にとても面白い論文を読んだ。こういう前振りで始まったのに申し訳ないのですが、コウモリの話です。

世界におよそ1200種類ほどいるコウモリの共通項を探っているのだが、読めば読むほどコウモリのすごさに驚くばかりなのである。

何よりコウモリは数々の致死的なウイルスの宿主(つまり感染される対象)でありながら、全く平気なのである。ものともしない。あのエボラ出血熱やマールブルグ、ニパなど悪名高きウイルスの宿主としてコウモリは君臨している。実験的に接種しても彼らは平気らしい。症状の出ない感染をはたす。今回の新型コロナさえもコウモリとセンザンコウ、さらに未知の宿主Xとの間で誕生したのではないかと考えられている。なにものだ、コウモリ。

想定外に長寿! どこまで健康なのかと驚くばかり

さらにコウモリは長寿なのである。ふつう哺乳類の大きさと寿命には正の相関がある。小さなネズミは早く寿命を迎えるし、大きなゾウは長生きする。その直線を外れて、コウモリは長生きする。そんなことできるのは、あのハダカデバネズミだけかと思っていたので、これは目から鱗だった。

どうしてそんなに健康なんだ、コウモリ! なぜウイルスに耐性をもち、長寿でいられるのか?

なぜウイルスに耐性をもち、長寿でいられるのか?

論文はその秘密を探っていて、じつはコウモリの免疫機能にあるようだと語っている。コウモリの免疫機能は新型コロナのようなRNAウイルスに対するインターフェロンの応答に優れている。まるで呪文のような言葉の羅列だ。ウイルスは、自分で増える方法をもっていないので、ヒトなどの宿主の細胞がもつRNAやDNAが増えるしくみを拝借して自分自身を増やす。ウイルスが感染して、ヒトの細胞で増えるわけだが、感染したときにやられた側の細胞が出すのがインターフェロンという警告物質だ。たとえば、感染しちまったよ、ということを周囲の仲間の細胞にお伝えする物質だ。

インターフェロンにもいろんな種類があり、感染しちまった細胞をウイルスもろとも死んでくれるようにする司令を発動したり、ウイルスの複製を阻害したりする働きをもつものもある。そういった数あるインターフェロンのなかでも、コウモリがもつインターフェロンは、RNAウイルス、つまりコロナウイルスとか、エボラとかマールブルグとか、あの辺のウイルスはみんなそうなんだけど、そそういうRNAウイルスに対するインターフェロンの応答が強いそうだ。

で、ここからがさらに面白いんだけど(私だけか?)、炎症に向かわせる免疫反応はめっぽう弱いそうだ。ウイルス退治には、炎症反応を使って対抗する手段もあるのだが、そちら側の免疫反応はいたってコウモリは弱い。論文ではもちろん、細かくTNFαがとか、STINGシグナル伝達が弱められて、とかちゃんと書かれている。炎症性の免疫反応弱いのに、勝てるんだ!

弱い免疫応答がコウモリに長寿をもたらす

さらにこうした弱められた免疫系のはたらきが、じつはコウモリの長寿にも関係していると紹介されている。コウモリのなかで抑えられた免疫系が、結果、炎症を起こしにくくしているという。確かに通常、ヒトは齢を重ねると老化細胞なんかが身体のなかに蓄積して、それが弱い炎症反応をおこすことは知られている。肥満でも弱い炎症がおこる。慢性炎症といって、それは個体の老化やガンなどの病気を引き起こす。

コウモリは、なんと歳を取ることで増えてくる慢性炎症に関連する遺伝子の活動を回避する術(すべ)をもっている。さらに、このしくみがウイルスに強いというメカニズムによるものだという。ウイルスからコウモリを保護するしくみの多くが、長寿化にもつながっている。え、ホントに? すごい、スゴすぎるコウモリ! 老化せずに、致死的なウイルスにも負けないって良いことづくめに思える(他に何か犠牲にしているものがあるのかな?)。

他にもコウモリが老化しないしくみも説明されていて、びっくりするばかりである。腸内細菌が歳取っても変わらないとか、ミトコンドリアがすごいとか、オートファジーがすごい話とか、すべて興味深いが、これを説明するとなると、長くなるのでやめとこうかな。1個だけ説明すると、腸内細菌の細菌構成(どんな細菌がどのくらいいるか)は歳を重ねるごとに変化するそうだ。しかしコウモリは変わらない。炎症が起こらないから細菌構成が変わらないのか、細菌構成が変わらないから炎症が起きにくいのかはまだわからないそうだ。老化現象を考えるときには、とても面白い話だ。

たかだか100年足らずでコウモリになった私たち。

論文を読んでいて印象的だったことが他に2つある。一つは今回、新型コロナに関して、コウモリから学べることとして書かれていた。それは、免疫機能を活性化させてウイルスと真っ向勝負で闘うことではなく、ウイルスとの共存には炎症を制御することが大事なのではないかということ。

新型コロナで重症化の原因とも言えるサイトカインストームはまさに行き過ぎた炎症状態だ。炎症をどうコントロールできるかが、治療の鍵となる。

もう一つは、まず前提を知らねばならぬのだが、人間とコウモリは、今やよく似た生活習慣で暮らしているということ。社会性をもち、多くが密集して暮らし、そして飛び回る。多くのコウモリがまさに三密で暮らしていて、そして飛び回る。ヒトもそうだ。そして飛行機や電車で動き回っている。このことを指摘した論文は他にもあった。

コウモリは6000万年くらいをかけて、ウイルスと共存するシステムを手に入れてきたのに対し、ヒトがこういう生活を楽しんできたのはたかだか100年にも満たないと論文では述べられてる。だから、ウイルスと長く共存してきたコウモリから学べることはたくさんあるという。たとえば、新型コロナの薬理介入を行うとき、また加齢に伴う病気を遅らせることにも、コウモリの科学が役に立つ日がくるかもしれない。

IMG_2742のコピー

p.s. そんなわけで世界中の論文が見られる。インターネットにさえつながれば、家を出なくてもほとんど仕事ができる。zoomで取材もできるし。(そんなわけで)×2、ほぼほぼ引きこもりの生活をしている。引きこもり始めの2週間目くらいかな、すごく辛かった。その後は辛さを噛みしめる時間もないくらい怒濤のように忙しかった。今は辛さの山場も超えて、この方がかえって精神的に楽かもしれないとさえ、思い始めている。むしろ人間的な生活なのではないか疑惑。

辛くなったあたりから、外に出たときは花を買い、机に飾るようにした。心が折れそうになったときに、花の香りをかいだり、触れたりすると癒された。香りよりも、生きものに触れる感覚にすごく助けられた。ちょっとヒンヤリして、でも優しい。幼い頃、道ばたのシロツメクサを集めて編んだり、カラスノエンドウの花束を作った記憶があたたかいのかな?  体性感覚が情動を生み出すという話は、またいづれ、ね。



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