空港近くの浸水__7_

世界史のまとめ×SDGs 【ツバル訪問編】目標⑬気候変動に具体的な対策を:1979年~現在

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。

 今回は目標⑬「気候変動に具体的な対策を」について、実際に気候変動に直面する国をご紹介することで、世界史の大きな流れを交えながら考えていきたいと思います。

* * *

温暖化の影響を受け「沈む沈む」といわれている島国には、モルディブキリバスなどがあります。


今回ご紹介するのはツバルという島国です。


はるか昔、アフリカを出てユーラシア大陸の東に到達した人類は、台湾あたりから船に乗ってさらに南へと移動していきました。いまから5~6万年前のことです。

彼らは東南アジアからさらに船で南太平洋へと漕ぎ出し、熱帯の島国に適応したラピタ文化という文化を花開かせました。

その後、日本でいう奈良時代頃(”世界史のなかの”日本史のまとめ 600年~800年)から平安時代にかけてさらに遠くへ広がっていく過程で、現在につながるポリネシア文化を発展させていきます。

このへんの様子を描いたのが、ディズニー映画の『モアナと伝説の海』です。
現代を舞台としているわけではないんですね。
ちなみにテーマソングを歌うバンドはツバル、トラケウ、ニュージーランドなどのポリネシア人たちのグループです(普段はあまり脚光を浴びないツバル人たちが、そのことを自慢げに話していました)。

ポリネシア人は人類の中でもっとも広い範囲に同じような文化を保ちながら広がった集団といわれることもあり、その範囲はイースター島、ニュージーランド、それからハワイにまで及びます

ポリネシア人の見かけがどこかアジア系を思わせるのも、このようなルーツがあるからか。


さて、そんなツバルにヨーロッパ人がやってきたのは16世紀のこと。アメリカに進出したスペイン人が、太平洋探検に乗り出したのです(⇒1500年~1650年の世界史のまとめ×SDGs)。

しかし熱帯の気候とココナツしかない不毛なサンゴ礁島が、ながらくヨーロッパ人の魅力を引くことはありませんでした。

19世紀後半になると、周辺のフィジーなどでお金もうけできる植物(注:サトウキビやビャクダン)の栽培や資源(注:グアノなど)の獲得が始まると、欧米諸国による太平洋への進出が俄然強まります(⇒1870年~1920年の世界史のまとめ×SDGs)。

最終的にツバルに目をつけたのはイギリスでした。

イギリスによってエリス諸島と”命名”され、1892年には北方のギルバート諸島(注:現在のキリバス)とひとくくりにされる形で支配されることになります(初めは保護領、第一次世界大戦中に植民地として)。

第二次世界大戦中に太平洋へと日本が支配エリアを拡大したときには、アメリカはツバルに飛行場を建設。
それを補修したものが現在の(唯一の)国際空港です。

基本的に立ち入り自由です。


で、イギリスが世界中にあった植民地支配をやめていく波に乗って住民投票を実施。北方のキリバスと離れる形で、1978年にツバルとして独立にこぎつけたわけです。

* * *

では向かいましょう。

日本→上海→フィジー→ツバルというルートで向かいました。フィジー航空は癒やされます。


いちばん大きな島フナフティはサンゴ礁が「輪っか」状に残ってできた島です。

ドーナツ状の陸地には一本道が走っています。主な移動手段はカブです。

海まで15秒。海抜は高くて4メートルです。

伝統的なやり方ではココナッツの殻を燃料にします。

よく燃えます。

食生活も変化していて、街のスーパーで米や冷凍肉、乾燥食材といった輸入品が手に入ります。

環礁の内側に守られた浅瀬(ラグーン)はとってもキレイです。

…といいたいところですが、ところによっては生活排水が流れ込んで富栄養化し、サンゴに海藻がからむようになっています。



ナマコも多いです。

ゴミのポイ捨てに対する意識が低いのが現状です。

根っこがあらわになった木

近年、大型のサイクロンの直撃を受ける例も増え、海岸の砂が削られ別の場所に移動する事態がすすんでいます。

魚につけるのは…

人気調味料の醤油は「キッコーマン」と呼ばれています。内海で穫れるカツオは食べ放題状態です。

パンダナスで編んだゴザを敷きます。腰巻き(スル)が正装です

首都には周辺の島ごとの集会場があって、催し物が開かれます。全人口は1万人弱ですから、全員が何かしらの縁でつながっています。


島の北のほうには船員学校があって、卒業後に外国船に乗り込むことが限られた就職口のひとつとなっています。向こうに見えるのは韓国の漁船です。

時間がゆっくり流れます

日差しの強い日中はパソコンやテレビをしながらダラダラし、涼しくなる夜遅くまで活動するのがツバルライフ。

治安はとても良い

これは主にお年寄りがハマっている賭け事(ビンゴ)です。時計はすでに深夜1時を回っていますが真剣そのものです。


さて、政府庁舎(といっても市役所のような建物がいくつか並ぶだけですが…)の近くには中国系などのスーパーマーケットがいくつか点在しています。

ここ数十年で、食生活はガラっと変わりました。ニュージーランドから輸入された缶詰が並んでいます

これは冷凍鶏肉。輸送中の冷却に不備があり、おなかを下すこともまれにあるようです


得てして「おいしくて安いもの」は脂っこく糖分も多いので、健康問題は深刻です。島に病院はありますが、さらにしっかりとした医療を受けるにはフィジーに行くしかありません。

ゴミを埋め立て…というか積み重ねているところ

輸入品が増えれば、ゴミの処理も問題となります。処理施設などありませんから、島の北部にある処分場にはゴミがたまる一方です。


この建物はなんだろう…と入ってみたところ。

10数年前にシンガポールから学者(ウラマー)がやって来たのが始まりで、現在は10人ほどのムスリムがいるそうです。

献金で運営されている教会

しかしツバル人の多くが信仰するのはキリスト教です。いくつかのキリスト教のグループが活動していますが、隣国のサモアに本部を置くEKT(Ekalesia Kelisiano Tuvalu)が多数派です。

ツバルに限らず、太平洋の島々は18世紀末以降、イギリスをはじめとするヨーロッパの国々に征服されていきました。そのときに探検者とともに島にやって来たのが、キリスト教の聖職者だったのです。

教会はコミュニティの憩いの場となっています。


これは空港でおこなわれている国民的スポーツ。バレーボールのようにボールをつなぎます。飛行機が来る回数が少なすぎるので、空港は ”セントラルパーク”状態となっています。

その横に水が。

大潮と満潮が重なると、こんなふうに地面の下から水が滲み出てしまうのです。

ツバルが沈んでいる!

…と、写真を切り取るとついつい思ってしまいそうですが、これは「第二次大戦中、アメリカ軍の飛行場建設の際に土砂を掘り起こしてできたくぼみ(ボローピット)からの湧水」が原因と考えられています。

しかし、集落によっては深刻な浸水に悩まされているところもあります。

もともと周辺の島々に住んでいた人たちが、電気や物資の豊富な首都に移住し、今までは済まなかったような低地に家を建てるようになったことも関係しています。

急増するサイクロンによる高潮の影響も無視できません。

伝統的に栽培されていたタロイモ畑が、塩によってダメになってしまうからです。

カニカマとマヨネーズ

となると、ますます加工食品の消費が増え、生活排水による汚染で周辺の海が汚くなり、海に住む「有孔虫」という小さな生物が減る。

本来ならば「有孔虫」の死骸は海岸に流れ着いて降り積もって「星の砂」とも呼ばれる砂となり、島の地面を形作ります。

しかしそれが減少するとなると、ますますツバルの国土は侵食されてしまうことになるわけです。

いったん定着した食生活を変えるのも難しい

* * *

というわけで、現時点では「水没の危機」について、差し迫った直接的危機はまだないというのが本当のところです。

しかしサイクロンの被害は続いていますし、複合的な要因から人々の暮らしは悪化しかねません。

ツバルの人の中には「労働移民」としてニュージーランドに移住し、島に残る家族に送金している人たちもいます。むろん島にはさしたる産業はなく政府で働く人がほとんどで、海外からの援助に頼るほかありません。なかには国外にいる親戚をたよりに、子どもによりよい教育を受けさせようとする人もいます。

植民地支配と独立後の過程で、首都の人々の暮らしはすっかり電気・石油・輸入資源に頼るものへと変貌しました。
しかし、小さなさんご礁島のキャパは微々たるもの。広い土地を持つ国よりもハッキリとした形で、「現代的な暮らし」のもたらすツケが現れます。

これまでツバルの首相は国際会議で「温暖化」を筆頭に、先進国の支援や具体的な行動を起こすよう呼びかけてきました。noteのドメインである「.mu」がやはりサンゴ礁の島国であるモーリシャスが収入源としているように、ツバルは「.tv」を収入源とし、その収益を元手に国連加盟を実現させました


温室効果ガス排出大国のアメリカ合衆国などを国際司法裁判所に訴えると表明するなど”過激”な姿勢も注目をあつめています。
しかし、気候変動をはじめとする絡み合ったいくつもの課題が、ツバル一国による力をはるかに超えていることは確かです。

最近では中東でさかんに実用化されている「砂をポンプでくみあげて人工島をつくるやり方」のような埋め立て技術を導入する案も持ち上がっています。

ツバルというスケールの小さな島で起きていることが、地球全体で進行している大きな問題の”縮図”のように思えたのでした。

                           問題⑭につづく

(参考1)ツバルを知るために

ツバルを支援するNPO代表 遠藤秀一氏による共著です。複合的な要因によるものであることが豊富な図版とともに丁寧に紹介されています。

複数の関係者への取材に基づき丁寧に描いたドキュメントです。日本でよくみられる「ツバルが沈むというのは」という主張の元ネタである「オーストラリア国立潮位研究所(NTF)のデータ」の信ぴょう性にも一石を投じています。

また、数少ないツバルの研究者として東京経済大学 准教授の小林誠さんをご紹介しておきます。

参考2) Patrick Barkham'Going down', The Guardian, 2002

While Tuvaluans debate issues of faith, scientists in the region continue to argue over whether Tuvalu is yet experiencing rising sea levels. The National Tidal Facility (NTF), based at Flinders University in Adelaide, recently published figures from its tide gauge on Tuvalu that recorded no rise in average tide levels since record-keeping began in 1993. The findings were used by the Australian government in November last year to justify its rejection of Tuvalu's request that it admit a small number of islanders every year as "environmental refugees". (To add insult to injury, the Australians later informally asked Tuvalu whether it could find room on its 10 square miles for boat people refused entry into Australia. Tuvalu politely turned down the request.)

Perched on the prow of a small wooden boat, Hilia Vavae, director of Tuvalu's meteorological office, heads across the lagoon, eventually spotting a forlorn sandy dome. It is all that is left of Tepuka Savilivili, the islet that vanished after the 1997 storms. Today there is nothing living left on the few metres of sand, only several odd flip-flops and a rusty tin. Further south is Vasuaafua, an island of nine coconut palms clinging to a scrap of sand. Vavae points to a small sand cliff: "Erosion," she grimaces. Two years ago, the island was buttressed by several hundred yards of beach.

Vavae's meteorological office is huddled next to the airstrip on Funafuti. This is where research meets the reality of climate change. Vavae has a picture on her wall from the highest tide last year, in which she and her staff are standing on their office doorstep, up to their ankles in water. She quietly explains that NTF's scientists have misrepresented their data. "Their analysis of their information is correct, but it is inappropriate," she says. "You need to look at the extremes - examining average sea levels doesn't reflect the impacts that the small island states are facing." It only takes one high tide to permanently wash away fragile soil or kill the precious vegetation that holds small islands together. Tuvalu's highest tide gets higher, its low tides lower, and so NTF's "average" stays the same. There is another, less well publicised tide gauge on Tuvalu - also focusing on tidal averages - run by the University of Hawaii's sea level centre, covering a much longer period, from 1976 to 2000. It has recorded a 2.2cm rise per decade in average sea levels.




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