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フィリピンの貧困を考える_スラムツアーに参加してみて

どうも!
セイタです!!
北京大学修士課程で社会学を学んでいます。


2023年の8月にフィリピンのマニラ近郊にあるケソンシティに位置するEnglish Breakthrough(以下EB)という語学学校にてIELTSのスコアリングのために1か月語学留学を行いました。この記事でフィリピンの格差や貧困について書いていきます。



この記事の対象者は
・フィリピン旅行を検討している人
・貧困問題や格差に興味がある人
・スラムツアーに参加してみたい人

となります。


以下の記事が概略になります。



私はフィリピン滞在中にスラムツアーに参加しました。
このスラムツアーに参加した理由としては、フィリピンにてフィールドワークしたことのある友人が「マニラで唯一の後悔はスラムツアーに参加しなかったこと」と言っていたことです。その言葉を聞き、スラムツアーに興味が湧き、参加することにしました。


なお、このスラムツアーは青汁王子こと三崎優太氏も参加しています。


スラムツアーの詳細については次の記事で書かせていただきますので、この記事ではそのようなフィリピンの貧困や格差をよりマクロな視点から俯瞰していきます。





フィリピンの貧困や格差に関するマクロデータ

ここでは、簡単にフィリピンの貧困問題に関する数字を見ていきたいと思います。


一人当たりGDP

まず、最も包括的な数字として一人当たりGDPを紹介させていただきます。この指標を選んだ理由としては国民の豊かさを測る指標としては最も直感的だからです。比較のため以下の5つの国のデータを1970年から50年分用意しました。
・日本
・フィリピン
・タイ
・ラオス
・中国

※この五つの国を選んだ理由は自分が訪れたことのある国で、肌感としてその国のことを理解できているからです。


World Bank: GDP per capita (current US$)


こうして俯瞰してみると、フィリピンの一人当たりGDPは日本の10分の1未満です。また、中国の3分の1程度で、タイの半分です。ラオスよりは高いです。


確かに、一人当たりGDPで見るとそうなのですが、物価が10分の1かというと全然そんなことはなく、せいぜい半分から3分の1程度で、スーパーで買うような生活必需品は日本とそこまで変わらないという印象でした。


ここからフィリピンは貧富の格差が大きく、高い物価でも問題なく暮らしていける人と、そもそも市場経済ではやっていけないような暮らしの人との差が大きいことが推測されます。



ジニ係数

なので、ジニ係数という貧富の格差の指標を見てみましょう。ジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示します。係数が0の場合だと、全国民が完全に平等なことを表します。一方で、1の場合は1人の人間がその国の富を独占している状態を表します。


World Bank: Gini index


この中だと日本は比較的平等な国で、ジニ係数は32.9%です。なお、平等な国の代名詞ともいえる北欧のスウェーデンやデンマークはそれぞれ28.9%よ27.5%で日本よりもジニ係数が低いです。


一方で、フィリピンはどちらかというと不平等な国で、40.7%です。この数字は格差の大きいことで知られるアメリカの39.8%を上回っています


このことからもフィリピンが不平等な社会であることが分かります。




フィリピンの教育と労働市場について

ここでは、国民の豊かさを押し上げるために重要な教育についてと労働市場についての情報を見ていきます。



進学率

自分はフィリピンに滞在中にたまに街中をプラプラとしていたのですが、その時に感じたことがあります。それは、平日に関わらず、子ども(12歳未満)をよく見かけることでした。その時は「フィリピンくらいの発展具合だと子供は貴重な労働力とみなさるるため、学校に行かせるのを親が嫌がっているのだろう」くらいしか考えていませんでした。


ただ、ちょっと調べてみると、以下のような資料が見つかりました。

2021年の総就学率は、初等教育92.40%、前期中等教育96.95%、後期中等教育77.11%であった。コロナ禍前の総就学率99.15%(2019年)から大幅に下降した初等教育と後期中等教育の就学率向上が課題である。

JICA: フィリピンの教育制度

※初等教育は小学校、前期中等教育は中学校、後期中等教育は高等学校にあたります。




コロナ前の小学校就学率でいえば、ほぼ100%で日本と変わりません。コロナ後はだいぶ下がってしまったようですが。あくまで自分の肌感なのですが、小学校就学率100%の国とは思えないほど、小さな子供が平日の昼にいたのですが、理由が全然わかりません。考えられる理由としては就学率の判定が甘いとかだとは思うのですが、フィリピンの教育について詳しい方教えていただきたいです!!!






IELTSセミナーで感じたこと

自分はフィリピン滞在の目的がIELTSのスコアリングでした。そのため、フィリピン滞在中にIDPというオーストラリアの団体によって開かれていた「IDP's Gear up for IELTS Seminar」に参加しました!!

※筆者撮影


セミナー自体はIELTSの基礎的な知識だったのですが、面白いなと思ったことがあります。それは、フィリピンでIELTSを受ける人の大半はAcademicではなく、Generalを受けるということです。Generalは移民や仕事のために必要な試験タイプで、Academicは大学入学のための試験です。たしかに、フィリピンだと他国の大学に行くより、働きに行く方が多いのは納得できます。日本人で、しかも自分のような大学生だと、みんなAcademicを受けるのでこのことは新鮮でした。


なお、世界的な傾向としてみてもAcademicの方が受験者が多いようです。

IELTSは2019年にアカデミックモジュールは2,867,031名、ジェネラルモジュールは857,749名が受験しています。割合では、アカデミックモジュールが77%、ジェネラルモジュールが23%となり、留学や進学を目的としたIELTSの利用が盛んであることがわかります。

Metropolitan Academy of English


つまり、フィリピンにおいては、英語は海外に出稼ぎに行くための手段ということが分かります。





高い失業率と人材の流動性

そこで、海外在住のフィリピン人ってどれくらいなのか調べてみました。すると、驚きの数字を見つけることができました。


フィリピン人の10人に1人に当たる約1,000万人が海外に居住しているそうです!!なお、出入国在留管理庁のデータによると、令和4年の段階で29万人程度のフィリピン人が日本で暮らしています


その背景としては以下の3点があるそうです。

日本に限らず、世界中に多くの海外就労者を送り出すフィリピン。その背景には、フィリピンの有する
(1)若年層の高い人口比率と失業率
(2)高い英語力
(3)充実した政府のサポート
という3つの特徴がある

JETRO:世界最大の労働力輸出国フィリピンの現状と課題(前編)


つまり、フィリピンの労働力は海外に流出しているということが言えます。





世界システム論から考えるフィリピン

ここで社会学部らしく、社会学の理論である「世界システム論」という理論を用いて、このフィリピンの現象について考察していきたいと思います。


世界システム論

世界スステム論はアメリカの社会学者であるウォーラーステインによって提唱された理論になります。具体的には、以下のような理論です。

近代以降の世界全体を単一の社会システム,すなわち世界資本主義体制としてとらえ,その生成・発展の歴史的過程を究明することによって,さまざまな政治経済的諸問題,とりわけ国家間関係,経済的な支配・従属,世界秩序の構造と変動などを全体的に究明しようとする理論。

コトバンク:世界システム論


世界システム論では、以下のように、世界の国々は中心、半周辺、周辺の三要素に分けることができ、国際的な分業体制が出来上がっていると主張されています。ここでの「周辺」は中央に対する原料・食料などの一次産品供給地として単一産業化されており、低開発状態が固定されていおります。





フィリピンの労働力の搾取

このように考えると、フィリピンは人材という原料の産地であり、そこで生み出された資源は先進国に搾取され続けているということもできます。



日本でいえば、2005年と少し古いデータですが、フィリピン人就業者の主な職業として
・製造業:17.3%
・飲食店、宿泊業:5.2%
・サービス業:14.3%
・卸売・小売業:17.9%
・その他の産業:45.3%

となっています
※Lambino, John XXV Paaragas:『グローバリゼーションとフィリピン人の国際移動-1980年代以降の日本への移動を中心に-』経済諭業 2009年183巻4号p97


また、メインとしては日本人があまりしたがらない職業が多いとのことです。さらに、技能実習生といった枠組みで労働している場合だと、中間の業者にマージンを取られています。




香港でも多くのフィリピン人が家政婦(菲佣)としてはたらいています。北京大学で出会った香港人数人に聞いたところ、すべての学生が「子どもの時に家にフィリピン人が住んでいた」と言っていました。フィリピン人は共働きの家庭で子供の世話を平日にすることが多いとのことです。


下記画像は香港で撮ったのですが、週末になると香港市街にたくさんのフィリピン人が出現します。なぜかというと、週末は香港人の両親が家にいるので、フィリピン人家政婦は家から追い出されるからです(笑)

※筆者撮影



具体的な金額は忘れましたが、香港の高い物価を考えると、彼らはかなりの低賃金で働いていたはずです。そのためか、家を追い出されたフィリピン人は橋の上や公園で段ボールハウスで暮らします

※筆者撮影



このようにフィリピン人が多いので、フィリピンのローカルチェーンであるJolibeeというファーストフード店も香港に出店しています(笑)

※筆者撮影


日本や香港という二つの地域だけを鑑みても、フィリピン人の出稼ぎ労働者は比較的大変な環境下で働いていることが分かります。彼らの安価な労働力が先進国の発展のエンジンの一つになっているともいえるのではないのでしょうか?


また、北京大学の『労働問題』という授業で、先生が以下のように述べていました。

世界の賃金格差
労働市場という観点から見ると、お金こそが原動力である。 フィリピン人メイドの場合、アメリカやイタリアに移住する前は教師、看護師、管理職、聖職者として働くことが多く、彼らの月給は平均176ドルである。 しかし、乳母、メイド、介護士として働くと、シンガポールでは月収200ドル、香港では400ドル、イタリアでは700ドル、ロサンゼルスでは1,400ドルになる。


つまり、グローバルなレベルで労働力の移動が起こっており、その原因がフィリピンと各国の賃金格差にあるということです。この現象は世界レベルでの分業体系というある種構造的な問題なので、しばらく変わらないのではないかと思います。



以上が、フィリピンの貧困について自分が考えたことになります。
フィリピンは自分の専門ではなく、1か月という短い滞在経験を元に書いた記事なので、ひょっとすると現実をとらえきれていない箇所もあるかもしれません。その場合はコメントしていただけると幸いです。



それでは、以上とさせていただきます。ここまで読んでいただきありがとうございます。フィリピンでの理解を深める助けになれば幸いです


以下の記事では、スラムツアーについて書いています。



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