春になったら莓を摘みに

書影

表紙の写真がすごくいいなぁ…と思ったら星野道夫さんの写真だった。「旅をする木」は僕の愛読書。内容もそれに通ずる。
他には村上春樹さんの旅行記や、沢木耕太郎さんの「深夜特急」や、遠藤周作さんの「深い河」や、3年すこし前に旅したインドのことや、もう少しさかのぼると社会人になって間もない頃に読んだ三浦綾子さんの「道ありき」3部作のことや…いろんなシーンがよみがえってきた。

ウェスト夫人は始終登場するクウェーカー教徒(プロテスタントの一派、従来の教会形式を嫌い職位も極めて少ない、個々人で瞑想に入る、政治社会活動に熱心)。とても寛容で献身的。

一方で梨木さんはところどころでがんこになったり、いらいらしたりする。ウェスト夫人のような生き方に憧れているようにみえる。落ち着ける場所を探しているようにもみえる。

多彩な人種や宗教をもつ人たちが登場するのはもちろんのこと、七十代から九十代でも元気ばりばり現役の人たちが出てくるのもこのエッセイ集のおもしろさ。
そのエネルギーはどこから生まれるのだろう…と特に感じるのは8つめの章「トロントのリス」への挿話。身長190cmで76歳、元イスラエル軍で5回の戦争を経験したモシェは、妻ネハマのためにほとんどの家事をこなす。息子は生まれつき脳に障碍があり、イスラエルの教育ではどうにもならないとわかってから、国を出、トロント大学に入学しいくつかの学位を得、同じような障碍に直面する人たちのためにリハビリテーション施設を開設した。
2人は自宅でも障碍を持つ子どもたちを十数人、成人するまで面倒を見た。

陰の過去に陽があたる…。

信じられない奇跡、愛のスケール…。

それを阻害しているものがあるとすればいったい何だろう。

情報にまみれ、気がつかないうちに大切なことを見失っているかもしれない。そんなふうにまどわされたくはない…。

梨木さんと共に僕も旅をした。

小さいことにとらわれないで生きよう…と思えた。

【著書紹介】
「理解はできないが、受け容れる」それがウェスト夫人の生き方だった。「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、さまざまな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。ウェスト夫人の強靱な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて、「私」は日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続ける――物語の生れる場所からの、著者初めてのエッセイ。

(書影と著書紹介は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)

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