心臓を貫かれて

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下巻

まず、出版社Web ( https://books.bunshun.jp ) より「単行本」版の方の紹介内容から下記を転載する。(書影も上記Webより)

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みずから望んで銃殺刑に処せられた殺人犯の実弟が、兄と家族の血ぬられた歴史、残酷な秘密を探り哀しくも濃密な血の絆を語り尽す

担当編集者より
自ら銃殺刑を望んだ死刑囚の実弟の記した、衝撃的な、家族の「クロニクル」。殺人はもちろん、幽霊は出るわ、ゴシック・ホラーばりの因縁話がつきまとうわで、とにかく怖い話(ノンフィクションですが)です。訳了した村上氏は、「僕の人間に対する、あるいは世界に対する基本的な考え方は、少なからぬ変更を余儀なくされた」という次第。実際、最後の最後で明かされる家族の秘密はまさに Shot in the Heartです。(O)

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僕が読んだのは文庫版で(上・下)、裏表紙にはもう少し詳しく書かれているが割愛する。

あまりにも暴力がすさまじすぎて、いろいろなことが麻痺してくる。もうひとつは、ここまで罪を繰り返して収監されるのに、何度も何度も釈放されるのがなんだか不思議に思える。しかし最後に著者の兄であるゲイリー・ギルモア(上記でいう「自ら銃殺刑を望んだ死刑囚」)は2人を銃殺してしまう。

あまりにも家庭は複雑。しばしば書かれているのは「自分が誰かわからない」という苦しみ。大なり小なり、今を生きる我々の苦しみもそこに端を発するのかもしれない。

ゲイリーは何度も更生の兆しを見せるが最後までうまくいかない。著者も何かしらのトラウマを抱え続ける。

この話の感動的な余韻は兄であるフランク・ギルモア(・ジュニア)の人生にあると僕は感じた。

彼は、長男ゆえの性質なのか、最後まで母の面倒を見続けたし、何かと兄弟の暴力沙汰の仲裁にも入った。(ネタバレはしたくないのでここまで)

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読書はしばしば「同一化」の営みとなる。

訳者(村上春樹氏)の作品発表のクロニクルと照らし合わせると(自然とそうしたくなった)長篇小説「ねじまき鳥クロニクル」を書きながら、本書を訳している。そしてそのあとに地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしたノンフィクション「アンダーグラウンド」を発表している。氏の社会へのコミットメントが濃厚になりはじめた頃。

上記の「担当編集者より」にも以下のようにある。

「僕の人間に対する、あるいは世界に対する基本的な考え方は、少なからぬ変更を余儀なくされた」

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考えてみると、ここ5年ぐらいの僕の暮らしは、コミットメントとデタッチメントをいったりきたりしているように思う。

触れるものが、心の深いところで何かしらの作用をしているような気がする。

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