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探求学習にふさわしい「問い」とは

探求学習は試行錯誤中

探求学習に関する情報を探すと、成功事例をたくさん見つけることができます。コンテストで勝ち抜いた事例や、企業や自治体からスポンサーを受けた例など、羨ましい話が溢れています。

でも、そういうのが日本の高校生の全国標準かと言ったら、いやいや、そんな簡単ではないんじゃないでしょうか。うちの学校では探究学習を「自主研究」と呼んでいますが、やっぱり色々と試行錯誤しています。今回は、その試行錯誤の中で私たちが心掛けていることをシェアしてみたいと思います。

調べ学習で終わらせない

調べ学習で終わらせない。これは一番最初に気をつけたいことです。小学生のときの自由研究では、自分で決めたテーマをとことん調べまくると、すごい!と褒められたりしますが、高校生の探求学習の場合それでは不充分です。(その理由は「自主研究は「好きを仕事にする準備」」の記事をご参照ください。)

と、その前に、まず私たちが使っている言葉を定義しておきますね。先ほど「自分で決めたテーマを」と書きましたが、「テーマ」とは、どんなことを研究するのかを包括的に指す言葉として使っています。そしてテーマは、取り上げる分野を指す「題材」と、その題材について答えを出したい「問い」で構成されるイメージです。問いをひねり出す過程においては、「大課題」(大きな問い)を立てて、そこから掘り下げて「小課題」(絞り込まれた問い)を導き出す方法を取ったりしています。

さて、生徒たちが問いを立てるときには、単なる調べ学習になってしまわないように、授業で私はこんな説明をします。

1.調べなくてもわかること(みんな知っている)
2.調べればわかること(大人なら知っている)
3.よく調べればわかること(専門家なら知っている)

この中で、どれが研究テーマにふさわしいと思いますか?
1は研究する意味がないと皆さんもわかると思います。でも実は、2や3もやめた方がいいのです。それこそ調べ学習になってしまうからです。ではどうしたらいいでしょうか?

実は4つめがあります。
4.まだ解決していないこと(自分なりの答えが見つけられる)

――これが今まで意外とできていなかったんです。まさにVUCAの時代、正解のない課題に向き合う…とよく言われている通りで、自分なりの答えが見つけられる問いというのが、本当に大切なポイントです。調べ学習にしないためには、問いの立て方が極めて重要です。

深めやすい「問い」の条件とは

ですが「まだ解決していないこと」なんて言うと、多くの生徒たちの頭上には?マークが浮遊しますし、中には思考停止に陥る生徒も出てくるでしょう。もう少し補足する必要があるので、こんな風に話します。

「まだ解決していないこと」と言っても、神様は本当にいるのか?とか、なぜ人は人を好きになるのか?とか、地球温暖化を止めるには?みたいな、壮大なことではありませんよ。それは「まだ」解決していないと言うよりも、これからも解決しそうにないことだったり、解決策が多すぎたりすることですから。

では、どんな問いが「まだ解決していないこと」になるのでしょうか。実はそんなに難しく考える必要はありません。例えばこんな感じです。

・よく眠れた次の日は部活でいいタイムが出るのはなぜだろう?
・自分に一番合っている英単語の覚え方を見つけるにはどうしたらいいだろう?
・仕事も家事もあるお母さんを楽にしてあげるには、どうしたらいいんだろう?
・お父さんとお母さんのケンカは、どうしたら減るんだろう?
・地元の商店街を活気づけるために高校生はどうしたらいいだろう?

意外でしたか?
これらの例の共通点を3つに整理してみましょう。

1.身近で具体的
2.「なぜ」または「どうしたら」の疑問文
3.誰かの“こうしたい”や“困った”を解決する

1は、実はごく身の回りのことがいいということです。地球温暖化を止めるには?のような、大きすぎるテーマの真逆です。自宅の冷蔵庫のことだったり、それこそ自分や家族の悩みのような、具体的でピンポイントなことがよいです。

なぜなら、色々な切り口でたくさん調べたり実験したりでき、父の場合、母の場合、などと実質的な研究ができるからです。上記の商店街の問いの例も、地元の商店街と特定されていて、高校生ができることに絞られているのがポイントです。

2も大切です。神様は本当にいるのか?のような問いにしてしまうと、結論が「いるか」「いないか」の2択になってしまって、深みが出しにくいんですね。イエス・ノー・クエスチョンは避けた方がいい。

その問いを英語にしてみたとき、What, When, Where, Whoで始まっていたら、もっと練ってみるべきです。これも深みが出しにくいからです。
理想はWhy(なぜ)かHow(どうしたら)の問いです。これなら自分オリジナルの結論に持っていけるので、深みのある研究になります。

3は課題解決型というものですね。答えのない課題を解決する力は大人になったときに絶対必要ですし、なにより「誰かが喜んでくれるかもしれない」と思ったら、研究しがいがありますよね!このモチベーションは結構大きいですからね。

良質な問いをひねり出すには

ここまで、研究にふさわしい問いについて、つらつらと書いてきました。
でも、「どういう問いが良質か」は書きましたが、「どうしたら良質な問いがひねり出せるのか」は書いていません。課題解決力の前段階の、課題発見力というものです。

実際、自主研究の授業の中で問いを立てるプロセスにおいても、生徒個々のひらめきや偶然、あるいは生徒がたまたま前から思っていたことなどに頼っている部分は大きいです。課題発見って、難しいんです。

ですが私は、中学や高校においては、問いの質をできるだけ引き上げて、課題解決を経験することを優先するべきと考えています。できるだけ大きな課題を合理的・効率的に発見するというビジネススキルには、社会に出てから否が応でも仕事として向き合うわけですので、中学生・高校生の段階ではその第一歩として「まず課題を解決してみる!」ことが大切なんじゃないかと。

あ、でもこう言うと放置プレーだと思われたかもしれませんね。決してそういうつもりではありません。課題発見にまつわるノウハウは、企業活動の歴史の中でかなり整理されていますし、今も進化し続けています。私は、これまでの一般企業での経験を活かして、将来その基礎のところを高校生に届けることができたら、画期的だなーなんて思い描いています!

(H Sakamoto)

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