【小説】黒く塗れ(8/13)
ある朝、僕はいつものようにグラスにミルクを注いでいた。ミルクはグラスの縁まで上って来てテーブルの上に零れた。テーブルの上のミルクはしばらく戸惑った後、テーブルの表面を真っ直ぐに走って縁に達するとそこで少しの間奈落の底を見続けていた。少しして決心が決まったようで細い糸のようになってそろりそろりと床に降りた。床の白い海はだんだんと成長して大きくなって僕の足を濡らした。ミルクの海は深さを増していき、僕の足首の高さ、それから膝の高さ、腰の高さにまで達してしまった。窓から外を見ると、街じゅうがミルクに浸かっていた。
僕はその日、仕事を休んだ。そしていつものように彼女は言った。
「大丈夫よ。あなたには私がついているんだから。」
そして僕は辞めるともなく仕事を辞めた。もう目覚ましで朝起きる事もなくなった。僕はミルクで満たされた街をずっと窓から見ていた。
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