「私たちの心が実現できると知っているもっと美しい世界」 希望 （第１０章）
本の内容紹介、著者チャールズ・アイゼンシュタインについてと目次。
別の世界は起こり得るというだけでなく、彼女は近づいてきているのです。静かな日には、彼女の吐く息が私には聞こえるのです。
ーアルンダティ・ロイ
近頃は、先生たちの間で、希望という言葉は評判が悪くなっています。一方で、希望は現実についての冷静な判断から私たちを遠ざけ、非現実的な期待を助長する希望的観測を示唆しているようです。ニーチェが書いているように、「希望は一切の悪のなかでも最悪のものです。なぜなら人間の苦悩を長引かせるからです。」その一方で、「スピリチュアリティ」の言語では、希望は現在という瞬間の拒絶、あるいは、自分の意図の創造的な力を侵食する疑いの痕跡を意味しています。それでも、人間の精神のこの根本的な要素をそうさっさと退けてしまわないようにしましょう。絶望という荒涼とした路地に咲く花のように、「永遠に湧き出ている」希望は私たちに何を教えてくれるのでしょうか？
認めざるを得ないことですが、人々は現在の真実の経験とそれに賢く対応する能力を遮るようなばかげたことを願います：病気の女性は、無視すれば乳房のしこりがただ消えてしまうことを願います。ママとパパがまたよりを戻すことを子供は願います。私たちの社会は気候変動への解決策を科学が思いつくことを願っています。どのように表現されていても、希望の根底にある感情エネルギーは「すべては大丈夫になるだろう。」というものです。私たちの最悪の恐怖が起こるからではなく、その恐怖が起こった後にそれを甘受するので、ある意味では、それは正しいのです。女性が大丈夫になるのは、しこりを無視するからではなく、しこりを認めて治療を受けたから、あるいは、乳房を失って、外見を超えた愛と自己受容を体験したから、もしくは、死にゆく過程で起こった何かによるものなのです。同じように、科学者たちはすでに気候変動への解決策、たくさんの解決策を考え出しているのです。それらは私たちの目の前にあります：自然保護、パーマカルチャー、再生可能エネルギー、シンプルな暮らし、自転車、ゼロ・ウェイスト製造などなどです。しかし、気候変動が本格化して初めて、私たちはこれらの解決策を大規模に実行に移すことができるのです。希望は私たちに行き先を示してくれますが、希望と私たちの間には、広大な領域、絶望の領域が横たわっているのです。
暗黒の絶望の中にあっても、希望の閃光は私たちの内に消えずに存在していて、吉報によるわずかな変化で炎へと広がる準備ができています。皮肉な考え方にどんなに説得力があるとしても、子どものような理想主義が私たちの中では生きており、いつでも信じる準備をして、新鮮な目で新しい可能性に目を向ける準備をして、無限の失望にもかかわらず生き延びているのです。旧態依然とした秩序への屈服という暗黒の時期でさえ、旧態依然とした秩序への私たちの参加は半端な気持ちからのものであり、私たちのエネルギーの一部は既知の世界の外側の何かを探していたからです。
古い物語の論理の中では、希望とは偽りであり、不可能な何かの幻影となります。しかし、希望は私たちに本来備わっている理想主義、私たちの心が認識する、もっと美しい世界に由来するものです。もっと美しい世界が不可能だという信念は、それが可能だと言う心と相反するものです。それらの信念の足場が崩れ始めると、希望はもはや訳の分からないものに身を包む必要がなくなるのです。新しい「世界の物語」は私たちが希望と呼ぶ、心が知っていることに現実的な表現を与えるのです。それが真の楽観主義となるのです。私たちの非合理な希望は、真実の何かを指し示すものなのです。それが希望を私が先触れと呼ぶ理由です。
この新しい物語は現実の異なった理解と因果関係を体現しているので、それは何が現実的なのかの私たちの理解をもまた変容します。「インタービーイングの物語」からは、95歳の義母の世話をすることが大切だという心の知識はマインドの論理と相反する必要はないのです。理性の諸条件が変わったのです。心とマインドはもはや対立する必要はないのです。心とマインドの和解は、精神と物質、規律と欲望、肉体と魂、お金とギフト、自然とテクノロジー、男性と女性、家庭と野生、仕事と遊び、生活と芸術の再会が含まれる私たちの世界の癒しである再会というより大きな流れの一部なのです。これらそれぞれが、互いを創り出し内包していることを私たちは理解することになるでしょう。それらが分離しているという幻想の中で私たちが生きることはもうなくなるのです。
おそらく読者のほとんどの方々には、新しい物語に完全に根差す前に、まだ航行しなければならない広い絶望の領域がまだあるのではないでしょうか。私は自分がそうであるということを分かっています。そうだとしても、私たちが時々、思い出したようにその絶望の領域から脱する時に、古い物語が私たちに言っていたことは無駄だったと行動する誠実さと勇気を得るのです。この理解は解放をもたらすものです。数え切れないほど多くの人たちが、自分たちのギフトで何か大きなことを成さなければならないと考えることによって、そのギフトの表現を押し潰しているのです。自分自身の行動では十分ではなく、何百万もの人たちに届くような本を書かなけれならないと。これが、誰のアイデアを耳にすることができたかを競う競争へと早変わりしてしまうのです。いかにその競争が人類の大半の小さくも美しい努力を価値がないものとするかが、逆説的に、住みやすい地球を存続させるために私たちが一斉にやり始めなければならない事そのものを価値がないものにしてしまうのです。何度も何度も、若者は私にこのような感じのことを尋ねてきます。「パーマカルチャーをかなりやりたいと思っているのですけれど。それが大好きなので。でも、もっと大きなことをしなければならない責任が自分にはあるのではないでしょうか？」私は答えるのです、その選択は分離の目によってのみ小さく見えるのですよと。インタービーイングの観点からすれば、あなたの選択は大統領の選択よりも重要なわけでも、重要でないわけでもないのです。
「分離の論理」は私たちをパラドックスの中に閉じ込めます。何十億人もの人々が人生の中で異なった選択をすることによってのみ世界は変わりますが、個々では、これらの選択のどれもが違いをもたらしはしないのです。違いを生み出すものが、何も違いを生まないのです。私がそれをやったとしても、他の誰もやらないとしたら？ほとんど誰もがやっていないように確かに見えるのです。なぜそれをやるのでしょうか？
小さな行動が何らかの神秘的なやり方で世界を変えるでしょうから、これらの小さな行動を取りましょうと提案しているわけでは実はないのです（それらの行動が世界を変えるでしょうけれども）。むしろ、私たちの選択がどこに向かっているのかよりも、私たちの選択がどこから来ているのかにもっと目を向けましょうと提案しているのです。新しい物語は私たちの選択の正当性を立証し明確にしますが、モチベーションは別のところに由来するのです。最終的に、どのように私たちは自分たちの行動の帰結を知り得るでしょうか？複雑性理論は、二つのアトラクター間のカオスの領域では、小さな摂動が莫大で予測不可能な影響を及ぼし得るということを教えてくれます。私たちは今日、そのような場所にいるのです。私たちの文明は、相転移[移行期]に近づいているのです。誰が私たちの行動の影響を予測できるでしょうか？靴を履いていないホームレスの人に警察官が靴を一足あげます、人目につかない親切な行為です。誰かが彼を撮影して、その行為が何百万もの人たちの優しさを呼び覚ますであろうことを彼はどのようにして知り得るというのでしょうか?そのホームレス男性はその後、その靴をドラッグを買うために売り、さらに何百万という人たちの冷笑を煽るのです。目に見えようと見えずとも、再会の領域内部の深みにある姿勢から来る偉大で誠実な行為は、因果関係の織り物を通じて強力な波紋を広げるのです。いずれにせよ、おそらく私たちも気づいていない経路を通って、目に見える世界に現れるのです。
私の子供たちが小さかった時、モンテッソーリの幼稚園に通っていました。それ以前に、またはそれ以来、愛、笑い、優しさにあれほど満ちた学校に巡り合ったことはありません。先生方は、深い正直な敬意を持って子供たちに接し、子供たちを決して見下すことなく、決して威圧することなく、否認や称賛で子供たちを操ることなく、無条件の愛を体験させてくれました。そこから過酷で劣化した分離の世界に入っていた子供たちにとって、幼稚園時代の日々は今や霧のような記憶に過ぎませんが、私の心の中の目には、子供たちの内側に小さな黄金の輝きあり、その輝きの中に種があるのが見えるのです。それは子供たちがそこで受け取った無条件の愛と敬意の種であり、それは芽を出して花を咲かせ、私たちの子供たちが接する人たちに、彼らが受け取ったのと同じ果実を届けるのを待ち望んでいるのです。現代の子供時代を支配している残忍な分離の装置を克服するには幼稚園の1年や2年は十分ではないかもしれませんが、それがいつ、どのように咲き誇るかは誰にも分からないのです。このような人生の形成段階の間に1年でも2年でも愛と敬意の聖域にいられることは、コンパッション、心の穏やかさ、自分への愛、自尊心の方を向く傾向を人に刻み込むのです。その刻印が後の人生で子供の選択をどのように変えるかを誰も知る由はないですよね？それらの選択が世界を変えていくかもしれないですよね？
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