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即効性のある漢方薬の見分け方

 漢方薬というと、不味いし効いているのかいないのか分からないし、長く飲まなければ効果がないもので、ゆっくりじっくり体質を改善していく…

…という誤解が世に蔓延っております。

 古く傷寒論および金匱要略でも述べられているように、漢方医学の源流は、急性疾患の治療と慢性疾患の治療の二本立てです。前者は感染症治療を代表として、後者は亜急性から慢性に経過するあらゆる病態を治療対象とします。


 私がまだ医学生だった頃、旅行先で友人のサトシが風邪をひきました。喉が痛いと唸る彼に、試してみたらどうかと桔梗湯ききょうとうを渡しました。漢方を飲むのは初めてだという彼は、飲んで「甘いね」と驚き、その20分後には急に笑い始めました。気でも触れたかと心配しましたが、彼は笑いながら、
「嘘だろ…?もう喉の痛みがなくなってきた。」と目を丸くして言いました。

 先日、行きつけのショップの店長の顔色が悪かったので声をかけたところ、メニエール病が再発したようだといいます。疲れが溜まっているところに仕事で無理をして、悪天候も合間って発症したようでした。眩暈の他に耳鳴りや頭痛、腰痛に足の痺れもあって、いかにも具合が悪そうです。
 もし差し支えなければ診察しましょうか、と申し出て、みますと随分と強い水毒と腎陽虚がありました。これではつらいだろうと手持ちを漁ると、幸いなことに五苓散ごれいさんのエキス製剤が幾つかありました。応急処置ですが、と前置きして差し上げたところ、内服して30分もしないうちに「楽になってきた」と喜んでいただけました。
 今後の体質改善の治療に役立ちそうな漢方薬を幾つかメモして、都合がよければ受診を検討いただくようにお伝えしました。


 どちらも即効性のある使い方です。
 早いもので10分から30分程度で効果が現れることもあるのが、漢方薬の興味深いところです。

 では、薬の性質をどうやって見分ければよいのでしょうか。

 本来は東洋医学を基本から修めねばなりませんが、漢方薬に含まれる生薬をみることで、大体の傾向がわかります。

構成生薬の種類が少ない程、速く鋭く効く。

ここテストに出ます。

 これが原則です。

 喉の痛みに用いた桔梗湯は「桔梗、甘草」の2味(種類)です。
 メニエール発作に用いた五苓散は「沢瀉、蒼朮、猪苓、茯苓、桂皮」の5味です。足をつったとき等に使う芍薬甘草湯は「芍薬、甘草」の2味、インフルエンザの初期等で実証のときに使う麻黄湯は「杏仁、麻黄、桂皮、甘草」の4味です。

 比して例えば、虚弱体質で血行が悪く疲れ過ぎて眠れない上に精神に不調を来しているような体質を改善する加味帰脾湯かみきひとうは実に14種類もの生薬から構成され、その効果もゆっくりじっくり現れます。

 もちろんこれらは原則ですが、生薬の数が増えるほど効果は穏やかに、切れ味は鈍くなる傾向があります。

 …私の師匠は原則を飛び越えて色々な処方を組み合わせながら瞬く間に治療していきますが、ほんの少し間違えるとヤベーことになる禁法もありますから、例外的なものと解釈しています。弟子のひとりが師匠の真似をしようと強力な漢方治療を行ってた際、肺に重大な副作用が出現して私の勤務先に搬送されてきたのは苦い思い出です。その方は幸いにして、西洋医学的治療がよく効いて退院できましたが、漢方薬といえども使い方を誤ると命に関わることがあるのです。


 今日では、ドラッグストアで簡単に漢方薬を購入することができます。しかしながら、即効性を期待するには一日あたりの有効成分量が少なく、かといって用法用量を無視して増量すると間違った治療法だった場合に激しい副作用が出て大変なことになるかもしれません。出来ることなら、漢方医学に精通した専門家に相談した方がいい。

 漢方医学は断じて民間療法ではありません。

 極めて専門性の高い漢方医学を正しく理解して実践することのできる医療者がひとりでも増えることを祈り、結びとさせていただきます。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは貴方や貴方の大切な人の不調が、良い医療に出会って快方に向かいますように。


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