見出し画像

蓼食う虫も好き好き

 3月で仕事を辞めるとのこと。
 彼は皆の「嫌われ者」でした。

 研修医の頃に大変お世話になり、偶然にもその後2つの病院で同じ時期に働くことになった先生がいます。T先生は優しい人でした。
 教科書やガイドライン通りの診療からは外れたこともしましたが、それは目の前の患者さんにとってのベストを考えてのことです。「命至上主義」の支配する医療現場において、彼は異質な存在でした。私とは違う診療科ですが、研修医の頃からお世話になっていた縁もあって、時々お話する機会に恵まれていました。

「皆、僕の意見には反対したいみたいだから。」

 ある日そう言ったT先生は、ひどく哀しい目をしていました。彼の属する「医局」では、たびたび衝突があったようです。

 外来スタッフからも疎まれていました。
 診療に時間がかかりすぎるからです。陰口を叩くなら本人に伝えればいいのに、と思いながら、しかし何も言えなかった私も同罪です。

 患者さんからは、この上なく慕われていました。
 外来。3月に入って「僕の外来は今日が最後で、次回からは他の先生に・・・」と説明する声が聞こえます。何人も、何人も、その場で泣き出す患者さんがいました。

 
 辞めるのか辞めないのか、迫られたそうです。
 家族の病気などの事情もあって、仕事に割くことのできる時間が限られていたことを責められたそうですが、その診療科内での人間関係の不和が大きく影響したことは明らかでした。人生最大のストレスは、いつだって人間関係です。
 ここに僕の味方はいないからね、といって彼は肩を落としました。

 先日、勇気を出して連絡先を聞きました。
 メールアドレスと電話番号を交換して、それから別れました。
 これで繋がりは保てると、少し安心しました。

 私は「皆が好きだから私も好き」や「皆が嫌いだから私も嫌い」とはなりません。他者の評価ほどアテにならないものはなくて、必ず自分の目で見極めるようにしています。自分の「スキ」と「キライ」を大切にできない人に、自分を大切にすることなどできないからです。

 私はT先生を尊敬しています。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の感情が他者の評価に惑わされず、純粋なスキを大切にできますように。



#業界あるある #やばい人間関係
#私の仕事 #は #修羅の道
#エッセイ   #医師 #人間関係 #辞職 #嫌われ者 #嫌い #好き #自分の感情を大切にしたい #他人の評価はアテにならない
#大人のいじめほど醜いものはありません
#彼を傷つけた人たちの幸せを祈ります


この記事が参加している募集

#業界あるある

8,679件

ご支援いただいたものは全て人の幸せに還元いたします。