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水無月の天使

高校生のとき出会って、3年間ずっと同じクラスだった女の子がいる。

彼女は全体的に小さくてほっそりしていて、しかもとても整った顔立ちをしているから、私はなんとなく漠然と「私が近づいていいものかなあ」と感じていた。

しかも彼女は単なるかわいい女の子ではなく、まぎれもない美少女だった。私が今までに出会ってきた女の子の中で誰よりも美少女だった。

そして上品でおしとやかそうに見えるのに、話してみると結構おふざけしているし、変顔とかもノリノリでやっちゃうような美少女なのだ。そういうところも魅力的だった。ただかわいいだけの女の子や、どこか儚げな女の子ならいくらでもいるけど、彼女はそれだけじゃなくて愉快な女の子でもあった。ちっともすかしていないし、意地悪でもなかった。

そして彼女は成績もよかった気がする。

成績表を見せてもらったとかじゃないけども、ああいうのって日ごろの授業のときに垣間見えるクラスメイトの能力とか、テスト返しの時間の空気感なんてものでなんとなくわかるでしょう。誰がどのくらいの順位だとか、どの教科で何点取ったとかっていうこと。

私は彼女が賢かったのを覚えているから、きっと本当に賢かったんだと思う。しかも単に賢いのではなくて、きちんと努力していた。彼女は当時からすごく頑張り屋さんだったのだ。

そんな彼女に私がようやく気さくに話しかけられるようになったころ、私たちは受験を終えて高校を卒業しなくてはならなかった。3年間というのはまばたきのように一瞬で、気づいたときには過ぎ去っていってしまっているものなのだ。

そんな美少女だった女の子と、最近よくおしゃべりをするようになった。

以前からSNSで軽くメッセージのやりとりはしていたけど、互いの深いところまで入ったり、入られたりすることはなかったように思う。

しかし私が教育実習に行っていた5月のある日、私は彼女がInstagramのストーリーを更新しているのを見つけた。

実習は毎日慌ただしく、私は毎日家に帰った途端に睡魔に襲われ、気を失いそうになるのを必死にこらえる日々だった。私はそれくらい疲弊していて、とても誰かの話を聞くような状態ではなかったし、SNSのチェックはおろかLINEの返信さえ後回しにするような毎日だった。

けれど私は彼女の投稿が本当にすごく気になった。声をかけようかすごく悩んだ。話しかけるのであれば最後まできちんと話を聞きたいから。中途半端に聞いて、中途半端に投げ出される痛みを私は知っていた。

そしてすこし悩んだ挙句、彼女に「どうしたの、大丈夫?」というメッセージを送信した。

詳しくは書かないけれど、私と彼女とはそこですこし話をした。やりとりはしばらく続いて、でも、彼女が傷ついているのとか弱っているのが分かったから、私は自分がかけられたい言葉を彼女に手渡した。

私に話を聞いてほしいわけではないかもしれないし、他に聞いてくれる友人が彼女にはいるはずだとも思ったから、私は「あんまり無理しないでね」ということと、「でも私はあなたのことを胸に置いておくよ」ということだけ伝えた。

それしかできなかったのですこし申し訳なかったけど、彼女は私に何があったかを話してくれて、それが私はうれしかった。

そのあと彼女とは、今まで以上にまめに連絡したりされたりするようになった。私がInstagramのストーリーやノートに日々のことや音楽を投稿すると、彼女はよくそれに対してコメントをくれた。

私が矢沢あいさんの「NANA」を読み返していること、レンと出会ったころの髪がすこし長めのナナがかわいくてすごく好きだということを(でも私はナナじゃなくてハチタイプの女の子だと思うけど…ということも。へへ)のっけると、彼女は「わたしもNANAだいすき」とメッセージをくれた。

スピッツの「フェイクファー」の話をすると、彼女も自分の好きな曲を教えてくれた。スピッツでは「楓」がいちばん好きなのだと言っていた。

そして欅坂46の「角を曲がる」という曲を聴いてみて、とYouTubeのリンクを貼りつけてくれた。私はリンクをたどってその曲を聴きながら、そういえば彼女は高校生だったころから欅坂46が好きだったなあ、と思い出した。

そしてここ最近の彼女との楽しいやりとりの中で最たるものは、彼女が私の生まれた日に「お誕生日おめでとう」とメッセージをくれたことだ。

しかもそのメッセージの送信時間は私の恋人のそれよりも早くて、日付が変わった深夜0時ちょうどだった。恋人からのメッセージは0時3分とかで、それでも十分早いのに、彼女は恋人を上回っていた。

私はその時間既に眠っていたので、朝目を覚まし、携帯電話の通知を見たときには心底びっくりした。

そんなこんなで親交を深めている中、私は「彼女に手紙を書きたい」という衝動が、空気でぱんぱんに膨らんだ風船のようになって、歯止めがきかなくなっていっているのを感じた。手紙を送るならば彼女の住所を知る必要があったけど、残念なことに知らないので書こうにも書けない。

しかしついに堪えきれなくなり、このまえ「ねえ、私今すごくあなたにお手紙を書いてみたい気分なんだけれども、住所を教えてもらうことはできる?」と尋ねてしまった。

彼女も私と同じ水無月の生まれだから、どうしても確認するなら今月でなくてはならないと思ったのだ。

なんて言われるか不安に感じていたけど、彼女は「ねえ私も同じこと思ってたの!あと送りたいものもあって!」とすぐに住所を教えてくれて、私は自分の住所を送ったあとでひとりで悶絶した。よろこびで胸がはちきれそうだった。

私たち、お友だちの作り方がよくわかっていない小学生の女の子みたいで、なんともかわいいじゃん、と。

そして彼女のお誕生日を祝ったその日、私のアパートのポストに彼女からの手紙が届いた。表にはきれいな字で私の住所と名前が大きく書いてあり、裏には彼女の名も書かれていた。

切手が紫陽花の花だったのもきゅんときた(こういうこまやかなひとがだいすき)。

部屋に入ってすぐに手紙を開封しすると、中には一緒にビーズの指輪が入っていて、「インスタのノート機能にビーズのリング?だったか欲しいなって言うのが記憶に残っておりまして…よかったら使ってください」とあった。かわいいお花のリング。

ビーズの指輪をくれたこともだけど、私の欲しいものを(しかも直接言ったわけでもないのに)見てくれていたことが、1番星くらいきらきら輝いていることのように思えた。

お手紙にはいろいろなことが書いてあったけど、最後の方に「無理しないでね」「大変だと思うけど私がいることも知っといてね」という言葉があった。それは私があなたに言いたいことなのに、彼女はやさしい女の子だ。

そして彼女のお誕生日なのに私があれこれもらってるんじゃ仕方がないやと、私はいま彼女への手紙の返事を書き上げたところでnoteを書いている。

同じ高校の同じクラスに在籍していたときにはこんなこと一度もなかった。

私の知っている大人たちはみんなよく私に言う。
「そのときはあまり話したことがないひとと大人になってから縁があったり、仲よくなったりすることがあるよ」と。

そんなことあるかなとちょっと疑っていたけど、自分でそれを経験してしまったから、私も彼らと同じようなことを言う大人になるだろう。

高校生だったころ、私と彼女はここまで親しくあれこれ言葉を交わし合ったことはなかったけれど、もしかすると、そのおかげで今こうなっているのかもしれない。

私はいま同じ教室で学んでいたころより彼女を身近に感じている。

彼女もそうだといいと私は思う。



ビーズの指輪、ありがとう🌼






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