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コロナ禍、試される日本のエンタメの底力

先日、懐かしい、昔の教え子に出会った。
彼女は新藤兼人監督のファンで、現在はエンタメ業界で働いている。

僕は、エンタメについて、ちょっと考えた。


緊急事態宣言

テレビの報道番組が、緊急事態宣言下の街の声として、
名探偵コナン、観たいのに、映画館、あいてない、と愚痴る、20代の女性二人を映していた。

僕が驚愕したのは、彼女たちが20歳をこえているにもかかわらず、アニメ映画を観たいと言っていたからではない。僕はそんなに意地悪ではない。
そうではなく、彼女たちがあまりにも屈託なく、あっけらかんと、含羞の色を微塵も浮かべることなく、コナン、観たいのに、観れない、と、言っていたからである。
そのまるで子供のような素直さ、自然なありさまに唖然としたのである。

もっと想像力を持つべきではなかろうか。
大人の想像力を。

既に日本でも、コロナによる死者数は、約1万人に達している。
お亡くなりになった方々、その近親者の方々、そしてその死に立ち会った医療関係者のことを、想像すべきである。
追悼。
まずはそれが大事だ。


次に、その追悼の念を忘れることなく、自分や自分の周囲をかえりみよう。
おそらく恐怖を感じるはずだ。
生老病死。
生きるかぎり免れ得ない苦しみに対する畏怖。
世の中、思い通りにならないことは、思いのほかに多い。

それらのせいで、絶望と不安と孤独に陥ることは、恥でも何でもない。
人間らしさのあらわれだ。
絶望と不安と孤独をつうじて、ひとは自らが生きる意味を知る。
絶望と不安と孤独は、人生をアップデートする鍵である。

もしも君が大学生で、自宅にひとりでいると気が滅入るというのなら、
お友だちと群れをなして路上でアルコールを飲むよりも、
家でキュルケゴールの『死に至る病』でも読むのがよいだろう。
読めば、さらにいっそう気が滅入るかもしれないが、その自分の気持ちを自分の知性で慰撫してやればよい。
知性は人生を豊かにするためにこそある。
そもそも学生ならば、勉強こそが本分であろう。本を読みなさい。


生老病死に対峙するエンタメ

しかし、そうは言っても、僕たちはそれなりに弱い。
それくらいのことは知っている。
西願先生は決してカタブツではない。

それに、確かにお勉強ばかりしていると、思索に偏りが生じる。
だから所謂「うるおい」や「明るさ」が必要となる。


それならば、暗さから逃げる明るさではなく、
むしろ暗さに対峙する明るさを求めようではないか。

誤解しないでほしい。
僕がここで言いたいのは、暗さを撃退して排除する明るさではない。
何故なら暗さは人生の一部なのである。
コロナでお亡くなりになった方々を忘却すべきではない。
だから求められるべきは、暗さを凝視する明るさ、
暗さを内包できるだけの器のある明るさである。

そう、こんにち必要とされているエンタメとは、そんな明るさを持ったエンタメではなかろうか。


例えば、あるコメディアンのかたがお亡くなりになられたとき、
テレビの追悼特集番組で、御友人のタレントさんたちが、
もっと明るくしようよ!
こんな暗い、辛気臭い曲は流さないでよ、
芸人は死んだって、みんなが笑ってくれるのが嬉しいのだから、
みたいなことをおっしゃっていらした。
そう、いま必要なのは、そういうたぐいの明るさではなかろうか。


タフな人間のエンタメ

昔からひとは、危機や苦難に際して、
ときにゲラゲラ、ときにニヤリ、ときにクスッと、笑って生きてきた。

有名なのは絞首台のユーモアだろう。
死刑囚が絞首台に向かうため、牢屋から外に出る。
天気だ。空が青い。
彼はつぶやく、「今週は、なにかいいことがありそうだ。」

ところで、
ロビン・ウィリアムズは映画『グッドモーニング、ベトナム』でベトナム戦争に笑いを持ち込んだ。
ロベルト・ベニーニは映画『ライフ・イズ・ビューティフル』でホロコーストに笑いを持ち込んだ。
コロナに笑いを持ち込んだからといって、不謹慎だということはない。
むしろコロナをしっかりと見つめる、タフな笑いが必要なのだ。


エンタメ業界の方々は、是非、精進し、頑張ってください。
コロナ禍を、コンテンツのクオリティを向上させる修行のための良いチャンスだとぐらいに思うこと、難しいでしょうか。
応援していますから。


さいごにひとつだけ、リクエストがあります。
「冬の次には必ず春が来る」みたいな、
日本的情緒の世界とでも申しましょうか、
無根拠な楽観主義に身をゆだねるのは、もういい加減にやめたいものですよね。
なんだか目につきすぎます。

死者は帰ってこない。
流れた時間は戻ってこない。
永遠に続く日常なんて存在しない。
そんなシビアな真実を見つめることから、大人の夢づくりを始めてほしいのです。

死の恐怖は、死そのものよりもひとを悩ます。
みせてもらおうか。日本のエンタメの底力とやらを!

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