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もう一度『サイバーパンク2077』のデイビッド・マルティネスが飲みたくて

昨年買ってよかったものをリストアップするとなると、私の場合真っ先に出てくるのが炭酸水メーカー(ソーダストリーム)です。

もともと炭酸水は好きな方なので前々から興味はあったのですが、導入コストと自身の飲用頻度を比べてみるとなかなか手が出しにくく、長らく自分の中で「あったら嬉しいけど無くても困らないもの」のポジションを動くことはありませんでした。
ところが昨年、カクテル作りというマイブームが到来したことで炭酸水の消費スピードが急上昇。それに比例して買い物の手間やペットボトルの処分がだんだん億劫になってきたので、それならいっそと「頑張った自分へのクリスマスプレゼント(笑)」なんて名目で思い切って購入したわけです。

勢いでポチった直後は妙な高揚感を覚えつつも「数回使っただけで無用の長物と化したらどうしよう」という不安も抱きましたが、蓋を開けてみたらまったくの杞憂。今やほぼ毎日のように炭酸水を作っては、炭酸ガス注入ボタンをプッシュするたびに「あぁ~!炭酸水の音ォ〜!!」と大興奮してます。
ただ普通に飲むだけでなく、その日の気分でカクテルやモクテルを作ったり、肉をやわらかくする目的で煮込み料理で使ったり、美肌効果を期待して洗顔に使ったりなどなど、活用方法は多岐にわたります。そんな炭酸水が飲み放題&作り放題という夢のような環境を手に入れたおかげで、私のQOLは天井知らずの右肩上がりです。

だからでしょうか。「今の自分ならもっとクオリティの高いドリンクが作れるはずだ」という謎の自信が、胸の内にふつふつとこみ上げてくるのを感じるのは。

……つまるところ、オンザロックのウォッカにコーラをほんの少し注いだだけのアレをゲーム再現カクテルだと言い張っていた過去の私を、今日の私は撤回したくてたまらないのです。

デイビッド・マルティネス(『サイバーパンク2077』)

今でこそサイバーパンクゲームの金字塔として知られる『サイバーパンク2077』ですが、発売当初は散々な評価でした。あの『ウィッチャー』シリーズで有名なCD PROJEKT REDの最新作ということで絶大な期待が寄せられていたのが一転し、延期に次ぐ延期と深刻かつ大量のバグが原因で「2020年最大のガッカリゲー」の烙印を押されてしまったことは今でもよく覚えています。
その名誉挽回に成功したのは、間違いなく開発チームの努力のたまものです。断続的に行われる修正&改善アップデートのおかげで、今日のナイトシティは見違えるほど過ごしやすいディストピアへと変貌しました。

ですが、それともうひとつ。一度離れた既存プレイヤーの心に再び火を灯しただけでなく、新規ユーザーをも街に呼び込んだ功労者の存在も忘れてはなりません。

ゲーム本編より少し前のナイトシティを描いたNetflixオリジナルアニメシリーズ『サイバーパンク エッジランナーズ』。ひょんなことからアウトローの世界に足を踏み入れた少年デイビッド・マルティネスとその仲間たちが織り成す熱いドラマは、ゲームのプレイ経験を問わず世界中の人々の心を揺さぶりました。
その影響は数字にも表れていて、アニメ配信直後のSteam版同時接続者数は、なんと4週連続で100万人超/日と爆発的に増加。2年前に発売されたシングルプレイ専用RPGにも関わらず、新作タイトル並の異例の盛り上がりとなったことは、いちゲームファンとして忘れがたい光景でした。

さらにパッチ1.6(エッジランナーズ・アップデート)以降、数々のアニメ要素がゲームにも反映されたため、彼らが生きた証を2077年のナイトシティでも目にすることができます。
例えばデイビッドと同じサントドミンゴ出身のエル・キャピタンに彼のことを尋ねると、少し誇らしげに「聞き覚えがあるに決まってんだろ!」と答えてくれます。どうやら地元では「無名の新人でありながら瞬く間にメジャーリーグで大活躍したサントの出世頭」として有名だったらしく、アニメに登場したフリオ君のような若者にとって憧れの存在だったようです。

ジャッキーの例を見る限り、店側が勝手にメニューに追加するのでなく自己(またはその仲間からの)申告制っぽい

有名なのは地元民の間だけではありません。世界的大企業と派手に喧嘩した命知らずのエッジランナーということで、傭兵たちの間でも彼の武勇伝はまことしやかに語り継がれています。
中でも傭兵たちの社交場として知られるアフターライフでは、「派手な最期を遂げた常連客の名をカクテルにつける」という店の風習に則り、デイビッドもまたドリンクメニューにその名を連ねています。

そんな若きエッジランナーのレシピは、ウォッカのロックにニコーラ(劇中に登場するコーラ飲料)を少々加えただけのシンプルなカクテル。ただしフレーバーテキストを見る限りだと、ルシアンコークやコークハイのようなコーラメインのアルコールというよりも、コーラで気持ち風味付けしたウォッカという印象を受けます。

私も以前作ったことがあるのですが……まあ、見た目通りの味です。少なくともスクリュー1杯でマーライオンした過去を持つ下戸体質としては、積極的に飲みたいと思わない代物でした。
これをアフターライフのメニューに載せたのは、おそらくルーシーかファルコかツダケンボイスのリパーのいずれかなんでしょうけど、いったい何を思ってニコーラを“少々”加えたウォッカに「デイビット・マルティネス」と命名したのか……その真意は測りかねます。

ところがゲーム内のアイテムイラストを見ると、グラスに入っているのは青と黄の二層に分かれた色鮮やかな液体で、私が作ったような薄い色付きウォッカとは似ても似つかぬビジュアルをしています。

さらに昨年開催されたオフラインイベント『Phantom Liberty Tour Tokyo』で販売されたデイビッド・マルティネス(カクテル)も、実際に訪れたファンやゲーム系メディアの写真を見る限り、私が作ったような地味色ウォッカとはまた別物。どうもブルーハワイに似た涼しげな青色の液体が、パウチに入った状態で提供されていたようです。

つまり、デイビット・マルティネスは青い。人物像も青ければ、カクテルの色も青い。たとえウォッカとニコーラ以外の材料が明記されていなくても、青いったら青い。

……というのが公式の見解だとすると、私が過去に作ったあの飲み物はアフターライフに並ぶ「デイビット・マルティネス」でなく、ただの「なんかスミノフのロックにペプシをちょっと入れただけのやつ」ということになります。「ちいかわ」ならぬ「スミペプ」です。

そんなまがい物を作っただけで「ゲーム再現カクテルだ~!」などと無邪気に喜んでいたと思うと、途端に恥ずかしさがこみ上げてきます。心なしか私の中のシルヴァーハンドも嫌味ったらしい笑みを浮かべているような気がしてならず、ヤギの鳴き声に似た奇声を上げつつCHOOH2ステーションへマイケル湾したくなる衝動に駆られます。

ならばもう一度、高みを目指して派手にくたばろうじゃないか。中身よりスタイルを重視するのがストリートの掟なら、それを踏まえた上で崖っぷちを攻める姿勢があってこそサイバーパンクな生き方ってやつだろ?

そう思った私は、公式のビジュアルを忠実に再現した青いデイビット・マルティネスを作るべく、早速レシピの考察に取り掛かりました。

青いデイビッド・マルティネスの完成イメージ(画:SeeE)

とりあえずフレーバーテキストに明記されているウォッカとコーラは必須材料として。コーラは炭酸嫌いのデイビットに配慮し、微炭酸のものをクラフト。ニコーラブルーの着色料と思わしき青い部分は、ブルーキュラソーで再現します。
手順としては、まずウォッカ:炭酸水=3:1~2程度の割合でソーダ割りを作る。そこにクラフトコーラシロップを少量加えてステアし、全体に薄い琥珀色を付ける。最後にブルーキュラソーを1~2tspほど沈めてグラデーションを作ってやれば、きっとゲーム通りの見た目になってくれるはずです。

ブルーキュラソーの後ろにあるもうひとつのボトルについては後述

そんな机上論を信じて実際に作ったものがこちら。ゲームほどビビッドな色合いは出せませんでしたが、いい感じに青と黄の2層に分かれてくました。
つまり前回よりもさらなる高みへ到達したので、より派手にくたばれることでしょう。

実飲

これは絶対においしい。グラスを顔に近付けただけ甘く華やかな柑橘系の香りが広がった瞬間、その憶測は確信へと変わりました。
スピリッツの割合が大きいので飲みにくいのではないかと思いきや、むしろその逆。色付け程度に入れたはずのクラフトコーラシロップの個性が予想以上に強く、ウォッカのアルコール感を真正面から打ち消してくれます。おかげでほわほわとした酔いが頭にのぼってくるまで、お酒を飲んだという事実に気付きませんでした。
2色に分かれた見た目ももちろん、香りも味も悪くありません。おそらくガルフストリームのような甘い系のカクテルが好みであれば、きっと気に入るような味です。

私が「ブルー偽ュラソー」と呼ぶ青い液体
(モナンブルーキュラソーシロップとコアントローを1:1で調合したもの)

個人的な反省点を挙げるとすると、その甘さが少々気になること。おそらくデイビッドに配慮して微炭酸ソーダを採用したことと、通常のブルーキュラソー“リキュール”の代わりにブルー偽ュラソー(ブルーキュラソー“シロップ”とホワイトキュラソーを混ぜ合わせたなんちゃってリキュール)を使用したため、甘さが一層強く出たのだと思います。
次に作るときはソーダの炭酸を強くしたり、シロップの量を調整したり、レモンジュースを加えたりすれば、もう少しさっぱり感が増すかもしれません。

これは「Vとキャピたんゎズッ友だょ……!」みたいノリでウザ絡みするうちのV君

ウォッカのロックにニコーラを少々――はた迷惑なクソ野郎や愛すべきチューマよりもずっと若い17歳の少年だというのに、何故こんなにもシンプルというか味気ない飲み物としてアフターライフに並んでいるのか。そしてサイドジョブ『OVER THE EDGE / エッジの向こう側』の冒頭にあった、デイビッドが学ばなかったという“人生の教訓”は何だったのか。
アニメを全話視聴してもそれらの答えを得ることは叶いませんでしたが、今回これを作ってようやく自分なりに納得のいく解釈ができたような気がします。

共通点はウォッカとコーラ。独特の香りを持つジンやテキーラなどでなく、無味無臭のピュアウォッカがベースなのは、自他共に認めるデイビッドの“特別”っぷり――いわゆる生来の才能を表現しているように思います。
アクセントとなる副材料のコーラも、やはり「炭酸が苦手」という味覚を由来とした彼自身の個性(性格)でしょうか。同じ炭酸飲料でもあえてコーラ(それもニコーラ)が選ばれたのは、「どこにでも売っているありふれたソフトドリンク」という商品の性質が「ゲームではモブに過ぎないごく普通の一般市民」という彼の生い立ちを暗喩しているような気がします。

副材料よりベースの割合が大きいという点もまた同じ。ガツンとくるアルコール感はまる傭兵としての腕っぷしの強さを物語っているようです。特に前回作った方は“ほぼ”オンザロックのウォッカでしかなかったため、少年の面影も残らないほど数々の修羅場を潜り抜けたベテランの傭兵らしい一杯というのが第一印象でした。
今になって振り返ると、あの味は物語後半のデイビッド――傭兵としてのキャリアを築き上げていくにつれて個としての感受性が乏しくなっていくさまを表現していたのかもしれません。注意深く味わわないと感じ取れないようなコーラの風味は、最後の最後まで彼を突き動かす原動力となったルーシーへの想い……いえ、これまで他人の夢を背負って走り続けてきた彼のことですから、そこにはきっとグロリアの願いやメインの意志も含まれていることでしょう。

唯一の相違点はリキュールの有無。今回作った方はキュラソーを加えたおかげで、度数の割に格段と飲みやすくなっていました。淡々と仕事をこなす無愛想の傭兵のようだったあちらとは打って変わり、こちらではチームワークを重んじる協調性や年相応の少年らしい雰囲気を感じ取ることができます。
それはさながら、チームの弟分としてメインたちに可愛がられていた頃のデイビッドのよう。目を引くほど鮮やかな青色も、まったりとしたオレンジの香りも、飲みやすいくせに意外と度数が高いという怖さも、その見た目と味からは物語前半のデイビッドの姿を容易に想像することができます。

ゆえに、シンプルにウォッカとコーラだけで作ったドリンクも、キュラソーの色と香りが華やかなドリンクも。どちらもアフターライフの伝説入りした「デイビッド・マルティネス」というキャラクターを象徴するに相応しいメニューではないでしょうか。

……というのを、思ったより口当たりが良くて一気にグラスを空けたら酔いも一気に回ってきて、軽い吐き気を覚えつつソファで派手にくたばりながら考えたのでした。

あ、ちなみに“人生の教訓”ってやつは「何事も過ぎれば毒になる」ってことだと解釈しています。
よくある寓話やことわざや薬物乱用防止スローガンのように「無茶な飲酒と無計画なサイボーグ化はダメゼッタイ。アルコールもインプラントも身の丈に合わせてインストールしようね」という現代にも通ずるメッセージかなーなんて。ベタですが。

街一番のマヌケがバイヤーの売り文句に乗せられて怪しいバーチャに手を出す瞬間

……ただ、例のバーチャの発見者は「その辺に落ちてる怪しいBDを嬉々として再生した挙句、Relicが無ければ死んでいたレベルの痛い目に遭う」という愚行を複数回に渡って犯しているナイトシティで一番強くてマヌケなBDマニアなので、どう考えても学習しない側の人間なんだよなぁ。

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