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食品関連事業者向け EU圏進出勉強会①を開催しました

こんにちは、さっぽろ産業振興財団です。

EU圏進出を目指す道内食品関連事業者向けの新たなコミュニティ「OUR BEST FOODS! FROM SAPPORO」の勉強会イベント、第一回目が8月23日に札幌にて開催されました!

このコミュニティは、「OUR BEST FOODS! FROM SAPPORO」に象徴されるよう札幌の食文化を世界へ広めることを目的に、EU圏進出をこれから初めて取り組む事業者から、EU圏へすでに多くの輸出を行っている事業者まで、道内食品関連企業10社が参加しています。

勉強会は、参加者にEU市場についての理解を深め、国際展開のロードマップを描く機会となることを目指します。イベント第一回目は現地に詳しい2名の専門家にご登壇いただき、現地の市場での人気商品や価格帯、規制情報、バイヤーへのアプローチ方法など、実践的な情報が提供されました。

今回は、そんな「OUR BEST FOODS! FROM SAPPORO」第一回勉強会の様子と講演内容の一部をご紹介いたします。


オンラインとのハイブリッド形式で行われた勉強会の様子

EU圏における北海道の食の可能性

前半はJETROパリ事務所の農林水産・食品担当ディレクター、西尾 友宏さんにより、EU圏のマーケット情報について、現地パリからオンラインにてご講演いただきました。

JETROパリ事務所の農林水産・食品担当ディレクター、西尾 友宏さん 

「健康的」なイメージをもつ日本食が人気急上昇中

フランスにおいて、日本食の持つ「文化的」「健康的」「神秘的」といったイメージが大きな要因とされ人気が広がっています。
 
その背景からも、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、健康志向が急速に高まっている現在、日本食の人気は一段と拡大。健康面への配慮から、バラエティに富んだ食材や調理法、バランスの取れた食事スタイルが支持されるようになりました。
 
さらにフランス全土における日本食レストランの数は、現在、急激に増加。日本食への需要の高まりを示すものであり、その魅力がフランスの食卓に浸透していることを証明しています。
日本食材の利用者は主に日本食料理店での外食を中心としている一方で、醤油やゆず関連商品など、一般的な調味料はフレンチなどのレストランでも使用されています。そういった調味料は既に多数の商品(安価な他国産商品も含む)が市場に出回っており、新たな商流を開拓するためには、品質や価格の違いについて丁寧に説明する必要があるでしょう。

今後の日本食さらなる普及拡大への可能性

独自の食品をEUに広めたい勉強会参加者にとって、大いに興味深いのは今後のEUにおける日本食の展望。食文化の融合や新たな市場展開に向けた可能性について、フランスからの生の声をお届けいただきました。
 
フランスでは新しい文化や商品に保守的な傾向がありますが、一度理解すると受け入れやすく、長期的な取引が期待できます。日本食の普及に伴い、おにぎり、カレーライス、お好み焼きなどが広まったことで、専門店展開の可能性が見込まれ、今後は「うまみ」「発酵」などの、日本の食材がキーワードとなります。
 
さらに消費者の健康志向やグリーン志向は特に若者の間ではファッションの一部とされ、関心も高まっていることから、特に「海藻」がトレンドとして浮上。
コロナ禍により、グルテンフリーやビーガン、ノンアルコール飲料などの商品が選ばれる割合が増え、健康志向の食品が市場に広がっています。
一方でフランス人の食を楽しむ文化は健在。食卓を囲む楽しい瞬間もとても重要なのです。
 
これらの要素が、未来のフランスにおける日本食の展望を彩ることでしょう。

ドイツの業務用スーパーMETROの日本食コーナー(現地ライターShiho撮影)

次なる課題「日本食材への理解不足」-食のプロへの具体的な説明が第一歩-

近年では日本の「うまみ」も理解が広がり始めていますが、フランスの食文化に交わっていくにはまだ課題も多くあります。その中のひとつで、消費者が日本食材に対し、他商品との違いや、実際の利用方法などの理解が浸透していないという点が目立ちます。
 
この課題を克服すべくJETROでは、シェフ、ソムリエなど日本食の魅力を広めるための役割を担うプロフェッショナルの理解度を向上させるため、日本食材の知識を深める取り組みを強化。さらに、新たなマーケット開拓と新規ユーザーへのプロモーションにも力を注いでいます。

EU圏における食品の貿易規制

勉強会の後半では、EU進出において大きな難関のひとつでもある、食品の貿易規制について、貿易の専門家 Euro Agri Notitia代表の松井えりなさんにパリからオンラインにて講演いただきました。奥の深い貿易規制ですが、今回はこれから輸出をスタートする初心者向けの基礎編をお話いただいています。

Euro Agri Notitia代表の松井えりなさん

EUが目指すトレーサビリティーの追求 -安全な食品を食卓に-

EUへの食品輸出において、トレーサビリティーが非常に重要です。特に加工食品においては、第一原産国や使用されている食材の出所、調達元、成分、加工手法などを正確に把握することが求められます。
 
口にするものの出所や成分が不明瞭なことはリスクです。この点は日本でも同様であり、この取り組み自体は難しいことではありません。ただし、システムの構築が適切に行われているかどうかが問題。EU市場への食品輸出を成功させるためには、トレーサビリティーを確保し、消費者に安心感を提供する仕組みをしっかりと構築することが重要です。

EU規制を正しく理解する -EUへの輸出は世界で一番難しい?!-

専門家の視点から観ても、EUの食品規制は世界でもっとも複雑といえます。
 
ただ将来的には、日本でも欧米と同レベルの食品衛生を要求される可能性もあり、日本国内でも同様の取り組みが求められることもあるでしょう。規制について学び、導入することは、透明性のある食品供給を提供するための重要なステップです。早めの取り組みは、消費者に対して信頼性をアピールするチャンスでもあります。ポジティブな視点で、EUの規制を理解して取り組みましょう。

食品カテゴリーを確認する上で、輸出をする多くの事業者が頭を抱えている項目が「混合食品」といわれる加工品。これはEUにしかない独自の概念で、「加工済動物性原料と植物性原料の両方を含む食品」を「混合食品」と定めています。この独特な規制がEUへの輸出が難しいと言われる要因の一つです。

緊急警告システムとは? -実際にどんなものが通過拒否やリコールなどの対象になったのか-

EU食品・飼料緊急警告システム(RASFF)とは、EU加盟国において食品・飼料のリスクが発見された場合、欧州委員会がすべての加盟国に関連情報を提供するシステムです。EU域外から輸出入される食品・飼料に関するリスクについても、当該域外国への情報共有が行われ、これにより、食品安全の維持と向上が図られ、消費者保護が強化されています。
 
日本も例外ではなく、EU食品・飼料緊急警告システム(RASFF)から通知を受けた事例があります。この通知の対象となる要因となったケースを一部ご紹介いただきました。
 
【アレルゲン表示】
EUではアレルゲン表示の対象が日本よりも広範で、個別の成分表示が求められます。
具体的には、例えばセロリや辛子など、日本では対象とされていない成分がEUでは義務表示対象となっており、日本の成分表示をそのまま翻訳して使うことで、必要な表示が抜けて、通知の対象になる可能性があります。また、加工助剤や添加物についても、アレルゲン表示の対象となることから、第一原材料の把握が求められることに、十分な注意が必要です。


【重金属・汚染物質】
海藻から高濃度のヨウ素(ヨード)が検出されるなどの事例がありました。EUの汚染物質の規則では、海藻のヨウ素の最大レベルは現在のところ設定されておらず、統一はされていません。ただし、EFSAやWHOによる、推奨値や各加盟国で規制が存在することがあります。また、製品ごとに重金属や汚染物質の基準があり、それを超える原料は使用不可。食品の生産から輸送・保管までの過程や環境に由来する汚染物質にも基準が設けられています。

【残留農薬規制】
穀物(コメ)からも EUで未承認の残留農薬が検出された事例があります。残留農薬は上限値が食品ごとに定められていて、さらにEUで承認されていない活性物質の農薬は使用できません。使用可能な活性物質はEU農薬データベースで確認できます。
 
【食品添加物】
EUの食品添加物規制では、日本の様に一括表示が可能な添加物はなく、全ての添加物を個別に表示する必要があることが、日本とEUの大きな違いです。現時点では全項目を網羅した一覧は存在せず、データベースから逐一確認が必要です。事例として、未認可や認められない着色料が柴漬けから検出された例があります。
 
【食品接触材】
EU規制では、食品と接触する容器や包装、調理器具などの食品接触材に厳格な規制があります。輸出または輸入事業者はEU規則に従い、「適合宣言書」を作成して提示する必要がありますが、食品事業者が梱包材の素材成分まで把握するのは困難なため、EUの食品接触材規制に適合した製品を扱っている梱包業者を選ぶことが最短です。
 
【Novel Food 規制】
「新規食品またはヌーベルフード(Novel Food)」とは、1997年5月15日以前にEU内でほとんどまたは全く消費されていなかった食品や食品原料のことを指し、Novel Food(新規食品) として承認されていない品種はEUで流通ができません。例えば、日本食材では一部の海藻やシソの葉などが対象になっています。
 
このような規制や日本との違いが、EUの食品安全基準に対応する上での課題となっています。

第一回勉強会を終えて

勉強会の様子:オンライン上で共有された資料

勉強会では参加者の皆さんの熱心な質問と意欲的な姿勢が会場に活気をもたらし、未来の食品輸出に向けての準備が一層進むことを実感しました。
 
アジアからアメリカ、そしてヨーロッパへ、新たな市場開拓の道が開かれていますが、特にヨーロッパ市場はその厳格な規制や情報の不足から、挑戦が難しいとされているのが現状です。
今回の勉強会での実践的な情報収集が、輸出に向けた課題の具体化に繋がるだけでなく、自社商品の国際市場での可能性を確信するヒントとなれば幸いです。
 
食産業振興課では、このようなEU圏進出を目指す道内事業者の支援だけでなく、『海外市場オリジナルレポートの提供』『貿易情報の提供』『海外バイヤーとの商談会』などの海外展開支援も実施しています。
どうぞお気軽にご相談ください。