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2023年下半期に読んでよかった本10選

年の瀬ということで、最近読んだ本の中からいくつかの本を紹介する記事、2023年下半期編です。

僕が2023年下半期に読んだ本の中から選出するので、必ずしも最近の本というわけではありません。

紹介する順番にとくに規則性はないです。それに、ジャンルも雑多。ランダムに紹介していきます。気になる本が見つかったら嬉しいね。




批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く

北村 紗衣  ちくま新書 2021年

文学や映画を批評するための入門書。

ネット上には感想文が溢れているが、批評文はあまりない。おそらく、批評をするためには技術が必要になるからだろう。では、どうすれば批評性が身に付くのか。とりあえずこの本を読んでみよう。

批評とは、科学的、客観的、分析的に見たり書いたりすること。そこまでする必要があるのかと言う人もいるだろうが、批評は作品をより楽しむためのものでもある。


進撃の巨人という神話

宮台真司 , 斎藤環 , 藤本由香里 他 blueprint 2022年

『進撃の巨人』の批評集。8名の有識者が、それぞれの視点から考察する。

この本の中で全員が口をそろえて、『進撃の巨人』は漫画・アニメ史に残る名作と言っている。丁寧に作りこまれた壮大で、歴史やドキュメンタリーの要素もある稀有な作品だ。だからこそ、こういう本が出版される。

評論家の藤本由香里さんの章が良かった。『エヴァンゲリオン』と『進撃の巨人』を比較してこう述べている。

この二作には決定的な違いがある。むしろ正反対の作品だといってもよい。というのは『エヴァ』が描いているのは徹底的に「内部」の世界であり、それに対して『進撃の巨人』は、徹底して「外部」に向かう物語だからである。

58ページ 藤本由香里 『ヒューマニズムの外へ』より


教養としての宗教入門 基礎から学べる信仰と文化

中村圭志  中公新書 2014年 

宗教を信じる必要はないが、宗教の歴史や世界観については知っておいた方がいい。そういうコンセプトの入門書。

神道と仏教の違いや、パレスチナの問題に絡んでいる宗教の問題など、宗教に関するややこしいことをすっきり理解できるようになった。テーマこそ難解だが読みやすい本。

日本人は、この本が言うところの「薄い」宗教、なんなら無宗教とも言われる。しかし、アニメや漫画でも宗教がモチーフにされていることが多かったり、気づいていないだけで宗教的なものは周りに存在している。宗教を知っておいて損することはない。


ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち

レジ― 集英社新書 2022年

短時間で、効率よく、ビジネスにつながる教養は果たして本当に教養と言えるのか。「ファスト教養」について考える一冊。

ファスト教養とは、ビジネスやお金儲けを目的とした、大ざっぱに手広い知識を手に入れたいという姿勢(27ページ)。堀江貴文氏や中田敦彦氏が、ファスト教養を加速させた人として挙げられている。

何を隠そう、僕もかつて彼らの本やyoutubeを観ていたことがあった。恥ずかしながら。(といったら失礼だけど)。リアルな問題を提起し、グワッと胸をつまかまれる著だ。


はじめての社会保障〔第20版〕 福祉を学ぶ人へ

椋野 美智子 , 田中 耕太郎 有斐閣アルマ  2023年

日本の社会保障の仕組みについて、基礎からしっかり学べる本。2001年の初版から続く第20版。

医療保険や年金など、社会人になると誰もがその制度の対象者となるのに、その仕組みをイマイチ理解できてない。というか教えてもらうことがない。

給与明細を見てなんでこんなに引かれてるんだろう…と不満を覚えている人も、その仕組みがどういう意図を持って作られてきたかを学べば、納得できるはず。納得感は大事。


日本のコミュニケーションを診る 遠慮・建前・気疲れ社会

パントー・フランチェスコ 光文社新書 2023年

イタリア出身の精神科医である筆者が、日本社会の心理やコミュニケーションについて語る本。

外国の方だからこそ分かる、日本の病ともいえるような特徴。本書で述べられていることがズブズブと入ってきた。

痛みは人間が互いに助けを求め、他者を探るための仕組み。その痛みを他者に伝えることが重要で、それこそが日本人が苦手とすることだという。心身の健康のためにも、痛みや弱みを見せることを大事にしたい。


《新装版》吉本隆明『共同幻想論』の読み方

宇田 亮一 アルファベータブックス 2022年

名著だが難解なことで知られる、吉本隆明の『共同幻想論』(1968)の分かりやすい解説書。

「人類は何万年もの間、国家を必要としなかったのに、なぜ数千年前から国家が必要になったのだろうか」という問いが吉本隆明にはあった。共同幻想がどういう経路をたどって、国家に結晶していくのか。それが『共同幻想論』の基本的枠組み…。

分かりやすいけれど、そもそも『共同幻想論』が骨太な内容なので、一読しただけでは理解はできないかもしれない。それでもその内容の射程は恐ろしいほどに広く、だからこそ名著と呼ばれるのだろう。


月と六ペンス

サマセット モーム (著), 金原 瑞人 (訳) 新潮文庫  2014年(原著は1919年、イギリス)

40歳で突如、画家になる決心をした奔放な男・ストリックランドの生涯を描き、正気と狂気の混在する人間の本質に迫った物語。

彼は妻と子供たちを置いていったり、友人の妻と不倫(本人にはその気がなかったが結果的にそうなった)する男なのだが、それは彼が「美」に突き動かされていたからだ。

たとえば、真実を求める気持ちが異様に強い人間がいます。真理を希求するうちに、自分の世界を土台から粉々に破壊してしまう。ストリックランドはその類の人間でした。彼の場合、求めたのは真実ではなく美でした。

332ページ

タイトルの六ペンスとは硬貨のこと。月と玉…狂気と正気の対比を示している?


新版 日本語使いさばき辞典

東京書籍編集部 (編集) 2014年

似た意味の言葉を集め、それをまとめて検索できるようにした一冊。本というより辞書。

例えば、「驚く」という言葉をもっと違う表現をしたいなーと思ったとき、この辞書が役に立つ。


こんな風に

noteや他のSNSで文章を書いている人は、これがあると小洒落た表現ができるかもね。


「みんな違ってみんないい」のか?  相対主義と普遍主義の問題

山口 裕之  ちくまプリマー新書  2022年

「正しさはひとそれぞれ」「みんな違ってみんないい」は本当か?相対主義や普遍主義を考え直す本。

ここであらかじめ結論だけを述べておけば、私は、「正しさは人それぞれ」でも「真実は一つ」でもなく、人間の生物学的特性を前提としながら、人間と世界の関係や人間同士の関係の中で、いわば共同作業によって「正しさ」というものが作られていくのだと考えています。それゆえ、多様な他者と理解し合うということは、かれらとともに「正しさ」を作っていくということです。

9ページ はじめに より

僕自身「人それぞれでいいじゃない」という思考を携えていたので、ショッキングというかハッとさせられた。「人それぞれ」でいいと言い切ると、何も考えない思考に繋がってしまう。相手と共に正しさを作っていくことが不可欠だとさ。



おしまい。よいお年を!

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