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病気のお父さんを助けたい 優しい少女の場合 ナゴルノカラバフ 難民100人取材

優しい少女は語る”早く学校を卒業してお父さんとお母さんを助けたい”と

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ハイカジャン村出身 ナゴルノ=カラバフ難民の優しい少女(17)

優しい少女は以前noteに取材記事を投稿した病に苛まれた夫婦の一人娘だ。彼らは村、家、農地、仕事など全てを戦争に奪われた。


Q”昔住んでいた(2020年の44日間戦争前)ハイカジャン村での生活はどうでしか?”

”とてもいい場所だったわ。16年過ごした私の故郷。全てがハイカジャン村にあるの。思い出も家も全部。”彼女は優しい笑顔で語ってくれたが、何故だろうか?どこか儚げに見える。

”何の準備もできていなかったの、、、。”彼女は切ない瞳をして、そう語り出した。2020年9月27日朝、アゼルバイジャンによるナゴルノ =カラバフ、未承認国家アルツァフ共和国へのドローンと爆弾による攻撃が始まる。ナゴルノ=カラバフ難民の人々が全てを失った44日間戦争の始まりである。日本人には中東やコーカサスなどずっと戦争をしている野蛮な人たちだと思い込んでいる人がいる。しかし、彼らは2020年9月27日まで普通に暮らしていた、ある学生はインスタグラムにセルフィーを投稿していた。ある人は夢の教師になるために資格の勉強をしていた。ある人は子育てに追われていた。そんな、普通の生活はドローンの襲来により終わりを迎えたのだ。優しい少女の家族も例外ではなく荷物を持ち出す時間すら与えられず、何も持たずに徒歩でハイカジャンの村を脱出した。そして、彼女達は、幸せな思い出、家、仕事、友人関係、今までの人生の全てと言っても差し支えない故郷を失う。美しいハイカジャン村はアゼルバイジャンの手に渡り、もう戻ることはできない。彼女達家族は1時間ほど歩き、通りすがりの車に乗せてもらい無事アルメニア本土ゴリス市へ逃れた。

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子供を可愛がる優しい少女

Q”新しいゴリスでの生活はどう?”

”最初は問題ばかりだったけど、今は新しい友達も居て順調よ”と彼女は笑顔で語った。子供を可愛がったり、SNSが大好きだったり、一見普通の17歳の少女のように見える。しかし、全てを失う過酷な経験をも笑って語る彼女の心は間違いなく強い。

Q”将来の夢は何?”

”早く学校を卒業してプログラマーになって働いてお父さんとお母さんを助けたいわ。”彼女は微笑みながらも真っすぐな瞳をして語った。彼女の夢はプログラマーだ、彼女自身がコンピューターを好きなのもあるが、アルメニアでプログラマーは給料の高い仕事だ。

”だってお父さん病気なんだもん。”そう彼女は言った。優しくて、強い彼女だが家族の状況は厳しい。彼女は切実にそんな苦しんでいる両親を助けたいのだ。

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写真左少女のお父さん、写真右少女のお母さん

お父さんはアルツァフ共和国(ナゴルノ=カラバフの未承認国家)のパスポートをハイカジャンの村に置いてきており、アルメニアのIDを作る事ができないため仕事に就く事ができない。さらには、ブルセラ症という病に苦しんでいる。現在、自分たちの家もなくお母さんの仕事の雇主の家の地下室に住まわせてもらっており、いつ追い出されるかも分からない。

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彼女達家族がゴリスで生活する、お母さんの雇主の家の地下室。昼間でも薄暗く、プライベートはない。いつ追い出されるか分からない。

あの取材中彼らの薄暗い部屋に飾られている笑顔の少女の写真が気になっていた。この夫婦の現実は辛すぎる。それに立ち向かい生きるためには何か希望の光が必要だ。きっとそれがこの写真の笑顔の少女なのだろうと筆者は夫婦への取材中考えていた。そう考えながらも優しい少女の両親である夫婦から悲しい話しか聞き出せなかった。それが筆者のあの取材に対する後悔だった。だからこそ、少女にも話をずっと聞いてみたかった。

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ブルセラ症のお父さんが使用している薬。

”彼女のお父さんが、仮に新しくパスポートを手に入れたとしても、病気で働くのが難しいのか?”通訳に素朴な疑問を尋ねた。”ええ、ブルセラ症だから、家畜を扱う仕事はできないわ。彼はそういう仕事の経験しかないし、学歴もないし厳しいでしょうね。”通訳はそう説明してくれた。割と支援金目当てで嘘をつく難民達に厳しい通訳がいうのならば本当なのだろう。

そんな両親を助けたいと切実に願う少女の優しい心に筆者は感動していた。なんて健気でいい娘なのだろうか。戦争ですら彼女の優しい心までは奪えなかったのだ。厳しく安定して住む場所もない夫婦。優しい笑顔をして誰よりも強い娘がいるから彼らは何もかも失った厳しい状況でも何とか頑張れるのだろう。アルメニアの親子の絆は強い。

Q”平和と戦争についてどう思う?”

”あの戦争で平和とは何なのかは初めて理解できたわ。平和になったらハイカジャンの村に帰りたいな。”そんな強い少女の願いはただ平和な世界で、ボルタン川が流れる美しいハイカジャン村に帰ること。日本人であれば故郷や実家に帰ることなど遠くても飛行機や新幹線を使い数時間かければ物理的には誰でもできることだ、しかし彼女達にとって故郷に帰る、たったそれだけのことがどれだけ大変なことか。いくら彼女が苦難に負けず笑顔で頑張っても、個人の力ではどうしよもない。世界や大国、アルメニアやアゼルバイジャン自体の力関係、思惑が絡んでくる。故郷に帰ることができない、家に帰ることができない、それがどれだけ悲しいことか。

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Q”両親のことは好き?”

彼女はその質問を聞いて吹き出して大爆笑していた。”当たり前でしょう”今までと違い心から少年のように大笑いしながら彼女は答えた。こっちが素なのだろう。この笑顔があの夫婦の希望の光なのだろうと思った。いや、少女の素敵な笑顔、それはこの世界全ての希望の光。

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