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広告運用を内製化するメリットと、デジタル広告の歴史の変遷について

大企業・中小企業・ベンチャーや個人事業に関わらず、web広告の運用を自社で行うことは珍しくなくなってきました。Google広告をはじめとしたリスティング広告だけでなく、Twitter, Facebook, Tiktok広告といったSNS広告を自社で広告出稿することはもはや選択肢の一つとして当たり前になってきています。

しかし、たった10年前は全く世界の様相が違いました。web広告を自社だけで運用することは難しく、時には不可能でした。ここでは、web広告が内製化できるようになった時代の流れを確認しながら、web広告を内製化するメリットとデメリットを見ていきたいと思います。


web広告の内製化が難しかった時代

時を遡り2010年以前。この時代においては、web広告を自社で出稿・運用するという発想はなく、web広告は広告代理店の専売品でした。たった10数年前では、TVCMや新聞広告と同じく、web広告も「広告代理店に発注しなければ広告を出すことができない」商品だったのです。

当時の広告媒体としては国内のアドネットワーク媒体が主流でした。Google広告のディスプレイ広告は日本では今ほど在庫を抱えておらず、AdMobという名称で、小さなアドネットワーク会社の一つでしかありませんでした。純広告と呼ばれる、メディアへの直接出稿も盛んでした。

SNSはありましたがSNS広告はほとんどありませんでした。大手のSNS会社は、運用型ではなく純広告のメニューを販売していました。例えば、自社のトップページを一週間ジャックするから何千万円でどうですか、といった具合です。

当時、アドネットワーク会社はいくつも分散しており、自社の商品を出稿するのに最適なアドネットワーク会社(ASP)を探すことも重要なミッションの一つでありました。その点においても、広告業界に詳しくない事業会社が、自社だけでweb広告の運用を行うというのはほぼ不可能な時代だったでしょう。

そもそも、デジタル広告自体が未成熟な時代です。現代の運用媒体は自動最適化機能が当たり前のように搭載されていますが、当時のアドネットワークを運用するためには、メディアごとに入札金額を設定する必要すらありました。自動で最適化なんて、そんな機能はありません。全て人力で設定する必要があったのです。つまり、このサイトにはCPCいくらが最適、このサイトのこの枠にはCPCいくら、といった選定を人力で行う必要があったのです。経験値の高い専門家でなければ、到底設定できるようなものではありません。当時の国内のアドネットワーク会社を経験している人材の中には、こういった人力でのCPC設定を経験している人間が少なからず存在しています。

更に、最低出稿金額の縛りもありました。現代においてはweb広告を100円からはじめることができますが、当時ではそうはいきません。どの面に広告を出すにしても、最低出稿金額という制限が重くのしかかります。管理画面だけ渡して設定してもらう、なんてことが出来ず、必ず代理店の人間がかかわるシステムだったのですから仕様がありません。100円の広告出稿に、人件費は割けませんからね。


web広告の内製化が当たり前になってきた時代

その後、2010年前半から後半にかけて、web広告市場に内製化(インハウス化)の潮流が巻き起こります。広告媒体としてFacebookやTwitterといったSNS広告媒体が出現し、国内のアドネットワーク会社の在庫はGoogle広告に飲み込まれていきました。

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Facebook広告に代表される「自ら広告を出稿できる」体制は革命的でもありました。

2010年前半はnend, i-mobileといった国内のアドネットワーク会社が大手の広告会社でした。しかし、GoogleがAdMobからGoogle Adsと名前を変え、数多くのメディアがGoogleの広告にリプレイスしていきました。結果として、2010年台後半になるにつれ、どんどんGoogle広告の一強時代が築かれていったのです。

元々インハウスで出稿できていたFacebook/Instragram広告に続き、それまで出稿がYahoo!経由に限定されていたTwitter広告のセルフサーブ化や、Google広告がリスティングやディスプレイをすべてまとめたGoogle Adsの集約など、有力な広告媒体が続々とセルフサーブ化(代理店経由でなくても直接ユーザーが広告配信できるようになること)するようになってきました。直近ではTikTok, LINE Ads Platformなど新規リリースされる媒体がセルフサーブ化することはもはや当たり前になっています。

広告市場は、以前の「代理店経由のみ広告配信ができる」時代から、「すべての会社(個人)が直接広告を出稿する」ことができる時代へと変化してきたのです。

特に大手広告であるGoogle/Yahoo/Twitter/Facebookがすべてセルフサーブ化したことは大きく、オンライン広告の予算のうち大半がインハウス部署で行っている、という会社も珍しくなくなってきました。

そしてコロナ禍を経験した2020年代の現代では、2010年台後半の流れを汲み、数多くの企業がインハウス化と広告代理店を併用しています。更に、内製化と言いながらも実態は業務委託のマーケターに業務を任せている会社など、多様な選択肢を取れることができているのが現代の企業体制の特徴と言えます。


デジタル広告市場は進化し続けている

コロナ禍を経て、web広告の需要は益々増え続けています。2019年から2020年にかけては、テレビCMや新聞広告、雑誌広告などオフラインの広告が軒並み広告費を削減され売り上げが落ちる中、web広告だけは市場成長を続けていました。また、ネスレの「ミロ」やしまむらグループのように、TVCMのボリュームを落としてweb広告へと比重を転換する企業も見られます。TVCMのメリットはさておき、最適化の進んだweb広告で出来ることも増えてきており、効果測定も容易なweb広告に需要が高まることは、これからも続いていくでしょう。

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※コロナ禍で交通広告は前年度70%近くもの広告費削減という打撃を受けた


ちなみに、テレビCMに関しても「運用型テレビCM」という発想が出てきています。運用型テレビCMとは、データ分析や発注においてオンラインダッシュボードを活用し、広告主やその委託を受けた広告会社が、製品・サービスの直接的な販売促進や顧客獲得などを主たる目的に、一定のKPIを参考とし、短期的に広告クリエイティブや出稿先の変更、調整を繰り返して、広告効果の最適化を図るテレビCMの出稿方法のことを指します。

テレビCMは直接成果を図ることはできませんが、CMの配信時間や地域など複数のKPIを組み合わせることによって疑似的な効果測定を可能とします。いわば、間接的貢献度の可視化といえるでしょう。この発想を使えば、テレビCMなどのオフラインメディアも疑似的な効果測定が可能となります。この発想は、一部の屋外広告・デジタルサイネージなどにも導入され、あらゆるオフラインメディアが効果測定を可能とできるよう尽力しているのが現代の広告業界の流れの一つです。

運用型と呼ばれる広告の利点は大きく二つあります。一点は、効果が可視化されることにより、投資判断の合理性を高めることが出来る点。そしてもう一点は、細かくクリエイティブや出稿先を調整することによって、効果の最大化をいつでも目指していくことができるという点です。デジタル時代において、この考え方はスタンダードになっていくでしょう。

この考え方はプロダクト開発にも活かされています。例えば、Netflixは映画・ドラマの表紙を1作品に対して複数、用意しています。一つの映画でも、複数のタイトルクリエイティブを準備して出し分けているのです。どの場面が最も反応率が高いのか検証しながら、常にプロダクトの見せ方を変化させていく。こういった個別最適化が、これからは当たり前の時代になっていくことになります。2050年にもなれば、レンタルビデオ店に並ぶDVDのパッケージも、見る人に合わせて変わっているサイネージ画面になっているのかもしれません。


企業がweb広告運用を内製化するメリットとデメリット

事業会社が広告出稿をインハウス化することには、多くのメリットとデメリットがあります。

メリットとしては、適切な出稿管理による広告ノウハウの自社集約、代理店手数料のカットによる出稿予算の最適化などがあげられます。代理店を通さないことによる施策スピードの向上も大きなメリットでしょう。

特に個人事業主やベンチャー企業といった予算の少ない部署だと、web広告に避ける予算が少ないことも多く、「広告代理店に頼むほどでも…」という体制から自社ではじめる会社も少なくありません。先に述べた通り、多くの広告代理店は最適出稿金額の規定があり、小さな広告代理店でも月50万円以上の発注から承るという会社がほとんどです。

反面、デメリットとして、社内の工数増加やノウハウ不足による出稿効果の悪化などもあげられます。インハウス化を行ったが、結果としてノウハウやリソースが足りずに代理店配信よりも効果が悪化してしまった…というケースも少なくありません。自社の運用体制だけでは、効果が悪化した際に適切な打ち手を検討することができず、逆に自社のリソースを使い余してしまうことも珍しくありません。

余談ですが、2020年以降はフリーランスのマーケター・広告運用者を業務委託で起用するケースが増えています。コロナ禍の影響もあり、リモートが当たり前になってきたという要因もありますが、毎月変動する広告費や状況に合わせて柔軟にミッションを変えたり契約を変更できるというのも、その要因の一つであると感じます。

中小企業のマーケティング部と多く向き合っている弊社の肌感覚としては、重要になってくるのは「マーケティング人材の有無」です。ベンチャーであれ中小企業であれば、マーケティングに詳しいor学ぶモチベーションの高い人材がいる企業は、web広告を内製化しても上手くいっているケースが多い。反面、マーケティングに長けた人材がおらず、代表や事業部長がマーケティング部を兼任して広告を見ているような企業だと、いずれ施策に限界がきます。結局、外部の代理店または業務委託のマーケターに頼む、というケースが多いように見受けられます。

大切なのは、適切な体制と適切なノウハウを構築し、広告の取り扱いを学ぶことです。弊社は、インハウス化と代理店配信を並走する形を推奨しています。現在では、インハウス化すべき媒体も、代理店に依頼すべき媒体も、市場に混在しています。また、自社のリソース状況や広告予算にも大きく影響を受けるため、慎重に検討する必要があります。

web広告運用に正解はありません。ただ、内製化すべきか外注すべきか、といった、単純なAorBの問いでもありません。広告の運用は、常に正解を探し続けて変化し続けるものです。これだけやっていれば正解というものはありません。運用体制に関しても同じ。いかに進化を続ける体制を作れるかということが最も重要です。

このnoteでは、弊社の関わってきたケーススタディや運用経験を交えながら、どのように最適な施策を選んでいくべきかを考えていきたいと思います。noteとTwitterのフォローや、いいねを頂けると大変励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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