見出し画像

広告運用におけるクリエイティブ制作の考え方

ここでは広告設計の肝要、クリエイティブ制作の考え方について考えていきます。web広告の設計・設定が正しくても、クリエイティブが悪ければ広告効果は上がりません。

クリエイティブ制作の考え方

web広告の現場におけるクリエイティブ制作の考え方は、プロダクト制作の考え方とは少し異なってきます。クリエイティブの変更や検証が容易なweb広告においては、1種類の定められたクリエイティブの精度を上げることよりも、複数の訴求軸やデザインを試しながら、最も反応率の高いクリエイティブを探していくという運用作業が最も大切になるからです。

効果の良いクリエイティブとは何でしょうか?「効果が良い」とは、複数の要素の掛け合わせです。写真のモデルが良かったかもしれないし、キャッチコピーが良かったかもしれないし、そもそも商材の魅力が良かっただけなのかもしれない。あらゆる変数の掛け合わせで、効果の良さが決まります。web広告の担当者は、クリエイティブの成果を数値で見ながら、どの要素が最も効果に寄与しており、その要素を活かしてより効果の高いクリエイティブを考えて検証していく、というプロセスを繰り返していくことになります。

仮に、web広告のクリエイティブ制作を自社で完結させたいとしましょう。その際にweb広告の担当者とデザイナーは、何を考えるべきなのでしょうか。ここではバナー広告を想定し、クリエイティブ制作のプロセスを考えてみましょう。

web広告のクリエイティブ制作のプロセスは下記の通りです。

1)プロダクトを理解し、その魅力を言語化する

2)訴求軸を策定し、制作スケジュールを立てる(Plan)

3)訴求軸に基づき制作を行い、実際の広告配信を行う(Do)

4)効果測定を行う(Check)

5)改善点と継承点を可視化し、①または②に戻る(Action)

それぞれのプロセスでやるべきことが異なります。


導入:プロダクトを理解し、その魅力を言語化する

広告クリエイティブの制作におけるPDCAサイクルに入る前に、この段階を経る必要性があります。マーケティングの基本となるプロダクト理解の部分です。主にこの部分において、マーケティングのフレームワークが便利に活用できるでしょう。3C分析やSWOT分析・PEST分析などのフレームワークの活用によって、自社プロダクトの魅力や立ち位置を明らかにすることができ、結果として自社プロダクトにはどういった魅力があるのかを理解することができます。

何より大切なのは、その魅力を言語化することができるかどうかです。「価格が安い」「品質が良い」といったざっくりな表現ではなく、より具体的な表現が望まれます。「健康な弁当をワンコインで配達」「業界No.1の耐衝撃ケース」「24時間いつでも相談できるオンラインカウンセリング」などあらゆる訴求軸を想定し、自社の魅力を洗い出していきます。これらはweb広告の担当者だけではなく、プロダクト責任者やデザイナーを巻き込んで行うことを推奨します。


Plan:訴求軸を策定し、制作スケジュールを立てる

いきなり制作に着手するのではなく、まずは制作スケジュールを立てることを意識しましょう。そして何よりも、訴求軸を策定することが重要です。訴求軸とはその名の通り、どの魅力を訴求するのかを決める軸となるものです。例えば価格や品質、サポートの手厚さや導入の手軽さなど、自社の魅力にはあらゆる側面から言える内容があるはずです。それら一つ一つを訴求軸とし、ジャンルごとに整理をしていくのです。訴求軸の整理に正解はありません。プロダクトの数だけ、訴求軸は存在するものです。

例えばソーシャルゲームの宣伝を考えた場合に、訴求できる内容は無限に存在します。魅力的なキャラクターやゲームシステム、世界観や操作性、育成などの要素や起用された声優など、あらゆる要素が訴求軸として点在しているのがわかります。それらをなるべく多く洗い出して、小項目と大項目にまとめていくのです。

ソーシャルゲームの世界では、大きく6つの訴求軸に整理できます。「システム」「グラフィック」「キャラ」「世界観」「ガチャ」「スマホ」この6つの大項目が、ソーシャルゲームにおける大きな訴求軸です。これらの6項目は大項目であり、この6つの下に小項目である訴求軸がぶら下がっています。例えば「システム」という訴求軸の中には「ゲーム性」「育成・強化」「ゲームフロー」「ジャンル」「バトル方式」などが小さな訴求軸として存在しています。

このように、自社プロダクトが持つ魅力をなるべく多く洗い出し、訴求軸ごとにまとめていきます。これら訴求軸の数が多ければ多いほど、検証できる数が増えるということです。訴求軸の策定は大変カロリーを消費する行動ですが、必ずやるべき行動です。

大切なのは「自社プロダクトの価値」と「ユーザーニーズ」を汲み取って決めていくことです。訴求軸が決まったら、自社プロダクトが特に魅力的に見えるものから優先度をつけていきましょう。価格を強く言える会社もあれば、品質を強く言いたい会社もあるはずです。自社にとって、どの訴求軸が優先度が高いのかをチェックしていきます。そして、これら訴求軸とその優先度に基づいて、クリエイティブの制作スケジュールを立てていくのです。

まずは優先度の高い訴求軸からスケジュールを立てていきます。デザイナーが週2本新しいバナーを作れるとしたら、2周ごとにそれぞれどの訴求軸に基づいてバナー制作を行うのかを決めます。仮に、良さそうな訴求軸が8つあれば、4週間ですべての訴求軸を検証することが出来る、ということになります。

ちなみに、今回はバナー広告を想定してます。バナー広告ではひとつの広告に入れることができる訴求軸は1つか2つが最適で、多くても3つが限界だと言われています。動画広告などのリッチなメニューでは複数の訴求軸を1つのクリエイティブに入れることができますが、優先度は必ず決めておくことにしましょう。


Do:訴求軸に基づき制作を行い、実際の広告配信を行う

Planの段階で訴求軸とその優先度を決めました。ここからは実際に制作を行い、広告を入稿し広告配信を行っていきます。

web広告のクリエイティブはあらゆる変数の掛け合わせで効果が決まりますが、大きく二つにジャンルを分けることができます。web広告の効果は「訴求軸」と「デザイン」の掛け合わせで決まってくるのです。訴求軸とはすなわち「何を言うか」の部分、デザインはそれを「どう言うか」の部分です。素晴らしいキャッチコピーをしていても写真や配色がダサければ一気に信用度のないクリエイティブになってしまいます。その逆も然り。素晴らしいイメージや配色を使っていても、コピーの内容が陳腐なら、お客さんはその広告をクリックしないでしょう。訴求軸は主にweb広告担当者が、デザインはデザイナーがそれぞれ実力を大きく発揮できる箇所ですので、これらの連携が鍵を握っていると言えるでしょう。

先ほどのPlanの段階で決めた訴求軸をもとに、それに合うデザインを考えていきます。訴求軸とデザインはそれぞれ良質である必要があり、またそれらの関連度も無視できない要素です。安さを押し出しているクリエイティブに、ラグジュアリーな女性をモデルに起用しますか?これではメッセージがちぐはぐになってしまい、要素が良質でも広告の反応率は下がります。訴求軸とデザインそれぞれの質と、それらの関連度を意識して広告を制作しましょう。

さて、クリエイティブが完成すれば、その日のうちに全世界に向けて配信できるスピード感がweb広告の魅力です。また、チラシ広告などと違い、お客さんの反応率がすべて数値で帰ってくるというのも魅力の一つでしょう。


Check:効果測定を行う

広告配信を行って一定期間が立てば、効果測定を行います。クリエイティブの良し悪しの判断基準は反応率です。まずはCTRとCVRを重視します。またFacebook広告などでは「クリエイティブスコア」という独自の評価指標があり、管理画面で評価が確認できますので、こちらも参考にしてください。反応率が高くてもクリエイティブスコアが低いと露出が下がってしまう場合があり、すべての評価で高い反応率を得られるよう努力していきましょう。

媒体ごとにCTR/CVRは変わりますが、まずはCTR/CVRともに1%の最低ラインに乗せて、そこから良いクリエイティブに絞っていくのが良いでしょう。もちろん商材のジャンルや配信媒体によっても数値の相場は変わってくるため、柔軟に検討してください。

※広告予算が少ない場合、クリエイティブの数に対して検証が追いつかないことがあります。1週間に検証できる広告数はおよそ3~5ぐらいと思っておいたほうが良いでしょう。既存の獲得できているクリエイティブ:検証用クリエイティブ=7:3ぐらいが理想値です。検証用クリエイティブが多すぎると、CPAが荒れてしまう可能性が高くなります。検証用クリエイティブが多い場合は広告セットを分ける場合もありますが、最適化を考えると一つの広告セット内に既存/新規ともに入れてしまって大丈夫です。


Action:改善点と継承点を可視化し、前の段階に戻る

Checkの段階で行った効果測定をもとに、次につながるアクションを考えていきます。先に述べた通り、広告のクリエイティブ効果はあらゆる変数の掛け合わせで成り立っています。

「プロダクトの魅力」「デザインの良さ」「コピーの良さ」「広告媒体との親和性」「時事・世論との親和性」「目新しさ」「競合の出稿状況」など、広告クリエイティブの効果はあらゆる変数に左右されます。web広告担当者の仕事は、これらの要素を洗い出しながら、効果の高かったクリエイティブが「なぜ効果が高かったのか」、効果の低かったクリエイティブが「なぜ効果が低かったのか」を明らかにしていきます。

仮に、特定のモデルを起用したクリエイティブがすべてCTRが高かった結果になったとします。そうするとこのクリエイティブでは「モデルという要素が良かった」という学びが得られます。では、次はこのモデルでキャッチコピーをより良いものに変えてみたら?あるいは、モデルの中でもどのポーズが良かったのかを検証し、次のポージングを考えてみたら?といった風に、個別の改善点がどんどん浮かんでくるわけです。良い要素は次に継承し、悪かった要素は改善・廃止していきます。

変数は多いですが、まずは「キャッチコピー」と「デザイン」という二点で検証をはじめていくのがお勧めです。効果の高いキャッチコピーを探しながら、効果の高い写真・イメージを探していく。その二軸を深掘りしていくことで、効果の高いクリエイティブにたどり着きやすくなります。

時には、自社ではどうしようもできない変数もあります。業界に対しての悪いニュースが流れている時、競合が一時的に広告を強めている時、プロダクトに欠陥が見つかっている時など、必ずしもweb広告を行うべきではないタイミングもあります。時代の流れやプロダクトを取り巻く環境、その中で自社プロダクトの魅力をきちんと世に出せるタイミングで広告を出すことが、最適な広告効果に繋がっていきます。

本稿のPDCAサイクルにおけるクリエイティブの改善プロセスは、個別最適化を推し進める際に有効な考え方です。しかし、時にこのプロセスは、ブランディングと相反する施策になってしまうこともあります。自社プロダクトとしては信頼性を押し出したいものの、広告で効果が良いのは安さの訴求だから、安さ押しのバナーばっかりが世に出ている…という状況は珍しくはありません。数値だけを見るとこういった事態になりがちです。マーケティングの責任者や経営陣などは、個別最適による数値の向上と、ブランディングや全体最適のための施策をバランスよく検討する必要があります。


web広告におけるクリエイティブの重要度は上がり続けている

現代のweb広告における最大の特徴は、GoogleやFacebookをはじめとした大手広告媒体が打ち出す「機械学習による最適化」です。AIによって広告は管理され、自動入札による最適な入札、自動的なクリエイティブテストによる配置比重の決定など、広告の効果のほとんどがAIによって判断されています。「すべて自動で、優れた場所とターゲットに、優れたクリエイティブを露出します」というのが現代のweb広告媒体の考え方です。

配置やターゲット・入札といったweb広告に専門的な知識領域である設定はほとんど自動設定に置き換わってきており、web広告を出稿するハードルはぐんと低くなりました。どんな初心者でも、クリエイティブひとつ準備すればweb広告を出稿できる時代です。参入者は増えて、市場は成長し続けています。こんな時代の中で有利になるための武器は少しの知識と、反応率の高いクリエイティブです。

以前と比べて、広告の管理画面の中で出来る設定にも限りがあります。すべての設定を最適にしたあとは、クリエイティブの勝負になってきます。ある程度の設定を終えると、残った課題の中で最も重要度が高いものはクリエイティブです。いかに反応率の高いクリエイティブを企画することができるか、という点が、これからのweb広告担当者に求められる最重要スキルになっていくでしょう。


画像広告と動画広告の違い

クリエイティブの考え方ではバナー広告を想定して考え方をお伝えしました。けれども実際には、クリエイティブには多くの種類があります。キャッチコピー単体でもクリエイティブですし、バナーをはじめサムネイル型の広告もあれば、動画広告やプレイアブルアド(実際に遊べるゲーム広告)などリッチコンテンツなクリエイティブもあります。リスティング広告においては、テキスト情報だけがクリエイティブです。テキスト・画像・動画と、それぞれの種類によって情報量は異なります。なるべく多くの種類を準備しておくことが、成功への近道となるでしょう。

Googleのディスプレイ広告などでは、画像と動画広告の両方を入稿することができます。それぞれにメリット・デメリットがあるため、優先度を決める際の参考にしてください。

画像広告:制作コストが軽く、ABテストや訴求軸の検証に向いている。一般的な広告スタイルであることから、どの媒体でも在庫(広告枠)が多い。出稿にあたるCPMが動画より安くなりやすい。

動画広告:制作コストが重いが、ユーザーの反応率・成約率も高い傾向にある。情報量が多く、複数の訴求軸を入れることに向いている。CPMは画像より高くなりやすい。SNS広告と相性が良い。

一昔前は画像広告と動画広告は在庫が別であることが多かったため、それぞれ制作する必要がありましたが、現代においてはレスポンシブ広告が発展してきており、広告在庫に大きな違いはなくなってきました。けれども現代でもYouTubeへの広告のように、動画でなければ出せない媒体なども一部存在します(逆も然り)。このあたりは親和性の高い広告媒体も視野に入れて考えましょう。

2020年代に入ってからは動画制作も一般的になってきたため、大企業の広告のほとんどが動画広告中心に変わってきています。動画広告をメインにしながら画像広告も活用する、というスタイルがほとんどですね。中小企業や個人においては、まずは画像広告から小さく始めてみる、というスタイルで全く問題ないと思います。また、例えばECであればGoogleのショッピング広告を活用してみるなど、商材に合ったクリエイティブスタイルを選ぶことも重要になってきます。

コラム:AIと広告クリエイティブ

AIの活用によりクリエイティブの自動生成技術が研究されています。日本国内でも、サイバーエージェントや電通といった大手広告代理店がAI開発・運用の部署を立ち上げており、実際にAIの活用によるクリエイティブのサポートがはじまっています。現状、各社が行っているのはAIの活用によるクリエイティブの自動生成や広告予測といった機能が中心。画像とキャッチコピーを組み合わせてCTRが高いと想定されるクリエイティブの組み合わせを複数自動生成したり、リスティング広告の広告文を自動生成したりといった機能が実装・稼働段階にあります。既存の出稿広告と比較して効果が高くなると想定されるクリエイティブを新規提案できるうえに、実際に出稿した際のCTRの増加予測なども具体的に行われています。

これまでのweb広告は「出稿してみて効果を見て判断する」というのがスタンダードでしたが、これからは「出稿する以前にクリエイティブの効果を予測し、良いクリエイティブに絞る」というのがスタンダードになっていくかもしれません。AIの業務範囲については、現状はまだ人の設計にAIがサポートするといった具合の連携ですが、いずれはクリエイティブ部分はAIが全て担い、効果の良い出稿媒体の予測など、多くの実務部分をAIに任せるようになっていく未来が予測されます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?