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10月12日「コロンブスの日」に対する先住民族の思いをもとに、社会の分断に示唆される企業が取り組むべき人権リスクを分析する

[最新ニュース]#先住民族 #ビジネスと人権 #社会の分断 #ライツホルダー

企業のリスクマネジメントにかかる主要テーマとして、「社会の分断」という問題をどのくらい考慮しているでしょうか。本記事では、社会・文化・経済的に脆弱な先住民族が「コロンブスの日」に各地で実施した抗議運動を取り上げ、「社会の分断」に潜む企業の人権リスクを考察します。

アメリカ大陸の発見は、奴隷的支配の始まり

1492年10月12日は、イタリア人の探検家クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した「コロンブスの日」として知られていますが、アメリカ大陸では、植民地支配、奴隷化、大量殺戮(ジェノサイド)の象徴として認識されています。そのため、「民族の日」「先住民の日」「先住民のレジスタンスの日」「文化の多様性の日」など名称に地域によって差はあるものの、今年も先住民族の権利が侵害された日として、各地で大規模なデモや抗議運動が起こります。

先住民族の人権侵害はコロンブス以降、今も続く

アメリカ大陸の植民地制度はコロンブスの時代に始まり、時代とともに統治者が変化しつつも、何百年もの間、先住民族に対し、奴隷制度、大量殺戮、人種差別、迫害などが繰り返されてきました。

奴隷を解放し、植民地支配から独立したことで、先住民族の人権が保護されるようになったわけではありません。

現在でも、彼らの権利を尊重する政策を積極的に導入・実行している国は少なく、その結果、経済発展から取り残され、医療・教育・情報へアクセスする手段を持たないことで、先住民族の貧困レベルやパンデミックによる死亡率が全国平均を上回り、ラテンアメリカにおける最も脆弱層と言われています。

加えて、先住民族の許可なしに活動を行う企業によって、先住民族が先祖代々守ってきた鉱物資源や森林、農地、河川などが奪われる事態が今も続いています。これは、先住民族の土地や資源とそれによって得られる経済的利益に対する権利、先住民族の伝統的な文化を保護する権利が損なわれる事態です。

つまり、「ビジネスと人権に関する指導原則」では、国際人権基準を尊重し、ステークホルダーの権利を侵害しないこと(do no harm)を求めていますが、このような企業行動は国際的に認められた先住民の権利を侵害するものであり、指導原則の趣旨にも反しています。

こうした経緯があり、10月12日は、そういった植民地支配の歴史やビジネスに関連する問題に対し、先住民族が抗議する日として知られるようになりました。

今年の各地の抗議活動の様子は以下の通りです。

●チリ
・10月12日は「民族の日(Día de la Raza)」という祝日。
・チリ最大の先住民族であるマプチェ族を中心とする先住民族の代表者数十人を含む数百人が参加、首都サンティアゴに集合。民族衣装を装い、楽器を弾きながら大規模なデモを行った。警察と衝突。暴徒化した抗議デモの参加者の撤退を促すため、催涙ガスや放水車を警察が使用し、14人が逮捕された。
・毎年行われるデモは、南部ラ・アウラウカニア地方の土地が奪われた歴史を持つ先住民族マプチェ族の権利を尊重する目的があり、先住民族以外も参加する。
最近では、マプチェ族が企業の違法な森林伐採を政府が黙認している実態に対しても抗議。

●コロンビア
・チリと同様、10月12日は「民族の日(Día de la Raza)」という祝日。
・コロンビアの先住民族の貧困指数は、全国平均の2.5倍と言われる。
約7,000人の先住民族がバスや徒歩で、第3の都市・カリ市に集合し、イヴァン・ドゥケ大統領に対し抗議。
・先住民族は、ゲリラと政府との和平合意に記載された先住民族の権利保護が実施されないこと、環境保護活動家や人権活動家として知られる先住民族指導者が暗殺・脅迫される生存権の侵害、大規模な開発プロジェクトにおいて先住民族との事前協議の未実施について抗議。

●メキシコ

・祝祭日ではなく、「先住民族の文化やメスティソ(スペイン人と先住民族の混血)を祝うための日」
例年抗議活動が行われることから、銅像の破壊や撤去を防ぐために、大統領とメキシコシティ市長は、首都メキシコシティのコロンブス像を撤去し、銅像の場所は金属の柵で囲った。
・先住民族団体はオンラインイベントにて、マヤ族のテリトリー(Múuch' Xíinbal)で計画される鉄道建設メガプロジェクト、湿地帯での採掘、モノカルチャー農業、遺伝子組換作物、水力発電所や風力発電所の開発、水の民営化に対する抗議。

抗議活動は各地で起こり、活動家は連帯している

ラテンアメリカの暴動の話は報道されても、その背景や抗議内容までは、日本のメディアが報じられることが少ないように思います。しかし、先住民族の抗議内容は、植民地支配の歴史だけではなく、ビジネスに起因する人権侵害に対する抗議活動へと進化しているのが理解できるでしょう。

「ビジネスと人権に関する指導原則」上、直接的に人権侵害に関与しなくても、間接的に関与した場合にもその責任が問われます。

また、こうした先住民族主体のデモや抗議活動は、類似した問題に対して地域的に取り組んでいる集団が各地に存在し、SNSなどインターネットを活用した情報網を形成し、連帯感(solidarity)が増しているのが近年の特徴です。

各地域で起こっている活動が、突然、地域を超えた大規模なムーブメントとなり、人権侵害に関与した企業に対する抗議運動になることも考えられます。

企業に求められていること

ラテンアメリカだけではなく、世界中の「社会の分断」が発生しつつある地域でビジネスを行う場合、企業が意識すべき点は、以下の3点だと考えます。

1)大規模なデモや抗議運動を単なる「治安リスク」として捉えず、そうした「社会の分断」は人権侵害の現れとして考える必要がある。ESG投資の「S」のテーマとして考慮すべきである。

2)「社会の分断」には、歴史・文化・経済の根底に原因があり、政府だけではなく、企業も人権侵害に加担していることが多い。

3)人権デューデリジェンスを実施する際、人権リスクをコストとして最低限の範囲で調査するのではなく、(先住民族のような)ライツホルダーを中心に据え、ライツホルダーの主張が、どのような内容で誰に対して発信されているのか、今後どう変化していくか予測を交えながら分析すること。

 Social Connection for Human Rights/ 鈴木 真代

<参考になる記事>

・chiapas paralelo, Resistencia y autonomía; 528 años de lucha del pueblo originario(2020年10月12日)

・FRANCE 24, Indígenas latinoamericanos reivindican sus luchas en un Día de la Raza sin mucho que celebrar(2020年10月12日)

・infobae, Miles de indígenas se movilizan para exigir cese de la violencia en Colombia(2020年10月12日)

・SEMANARIO UNIVERSIDAD,  Protestas en apoyo al pueblo mapuche durante el «Día de la Raza» en Chile(2020年10月12日)

・W Radio, Protestas en apoyo a los mapuche durante el Día de la Raza en Chile(2020年10月12日)

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