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世界映画市場分析⑤〜映画館の供給は足りているのか?〜

前項「世界映画市場分析④〜最適なチケット料金とは?〜」では、各国のチケット料金事情を確認のうえ、最適なチケット料金とはなにか?について検証しました。簡単には答えの出ない問いで、これが正解ですという明快な解答は出せずじまいでしたが、何かのヒントになっていれば幸いです。 さて、その項のなかで、安価なチケット料金設定にしている国でも、国民1人あたりの平均動員数には大きな差が出ている、そしてそこには明確な理由があると書きました。まずは、その理由について論じるべく、各国の上映設備の供

    • 世界映画市場分析④〜最適なチケット料金とは?〜

      前回「世界映画市場分析③〜国産映画の盛り上がりが未来を分ける〜」では、国産映画のシェアを高めることが、この難局を乗り越えるひとつの方法であると書きました。国産映画の興収シェアが過半数を超える国はわずかに8カ国(イラン、アメリカ、インド、中国、日本、エジプト、韓国、トルコ)のみで、幸い日本では68.8%という高い自給率を誇っています。 一方、全世界で動員数No.1を誇るインドの事例を考えるに、「チケット料金設定」も映画市場の活性化に密接に結びつく要素だと言えそうです。世界の映

      • 世界映画市場分析③〜国産映画の盛り上がりが未来を分ける〜

        前項「世界映画市場分析②〜明暗分ける「コロナからの回復」〜」にて、コロナからの回復が早い国に共通するポイントのひとつは、「国産映画の興収シェアが高い」ことではないか、という仮説を立てました。自国で製作された映画のニーズが高い市場であれば、外国からの輸入状況に左右されることなく、自国のコントロールによってある程度市場の活気を計算できます。 本項では、「国産映画の盛り上がり」こそがその国の映画市場の未来を読む上で重要なポイントであると仮定し、2022年時点での各国の国産映画事情

        • 世界映画市場分析②〜明暗分ける「コロナからの回復」〜

          最初のエントリー「世界映画市場分析①〜日本は世界で何番目の映画市場?〜」では、世界各国の興収および動員規模をデータとして把握しながら、我らが日本映画市場がその中でどのくらいの存在感をもっているのかをあらためて確認してみました。 かつてハリウッド映画の公開時には主演スターがこぞって来日して宣伝キャンペーンを展開する、世界有数の優良市場としてその存在を誇っていましたが、現在では中国や韓国など近隣市場の成長もあり、やや影が薄くなっているという指摘もあります。しかし、数字的に見れば

        世界映画市場分析⑤〜映画館の供給は足りているのか?〜

          世界映画市場分析①〜日本は世界で何番目の映画市場?〜

          これまでのnoteでは、北米および日本の映画市場がコロナ禍によってどのような変化に晒されたのかを考察してきました。今度はさらに視点を広げ、「世界各国」の映画市場がどのように変化しているのかを探ってみたいと思います。 先日、知人からとても興味深いデータが詰まった冊子を共有していただきました。「Marche du Film」という世界の映画マーケットトレンドについてまとめた60数ページの読み物です。毎年、カンヌ国際映画祭にて(有料で)配布されているようなのですが、恥ずかしながら

          世界映画市場分析①〜日本は世界で何番目の映画市場?〜

          2022年日本映画市場考察④〜映画館ユーザー構成の変化〜

          前回「2022年日本映画市場考察③〜特大ヒット作が市場を独占している?〜」では、一部の特大ヒット作が市場のかなりの部分を独占し、一方で10億円台の中ヒット作が生まれにくくなっている、と書きました。本稿では、そうなった原因を探るべく、「映画館に足を運ぶユーザーの構成がどう変化しているか?」について考察していきます。 マーケティングに関する有名な法則に、“パレートの法則”というものがあります。どんな市場においても、およそ20%の顧客が全体の80%の売上を作っている、というもので

          2022年日本映画市場考察④〜映画館ユーザー構成の変化〜

          2022年日本映画市場考察③〜特大ヒット作が市場を独占?〜

          前回「2022年日本映画市場考察②〜邦画アニメが市場を席巻している〜」では、邦画アニメが絶頂期を迎えている裏で、実は邦画実写作品が苦戦に強いられている現状について指摘しました。本稿では、考察をもう一歩先に進めて、興収レンジごとの内訳がコロナ前後でどう変化しているのかについて、見ていきたいと思います。 まずは日本映画製作者連盟が発表した資料から、2022年に興収10億円以上を稼いだ作品のリストを見てみましょう。ちなみに年間1143本の映画が公開された中で、10億円を超えたのは

          2022年日本映画市場考察③〜特大ヒット作が市場を独占?〜

          2022年日本映画市場考察②〜邦画アニメが市場を席巻している〜

          前回「2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜」では、洋画と邦画のあいだで800億円もの興収格差が生まれてしまった理由について分析し、拡大公開(初日5万席以上)される洋画と邦画の本数に大きな開きがある、というひとつの要素を提示しました。また、1本あたりの初日動員数では洋画と邦画のあいだにそれほど差がないことを示しつつ、それでも洋画には明らかな課題があるとして項を終えました。本項ではまず、その課題について説明していきます。 洋画の興行が頭かぶりに

          2022年日本映画市場考察②〜邦画アニメが市場を席巻している〜

          2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜

          全4回にわたって「全米ボックスオフィス考察」をお届けしてきましたが、その中で全米の映画館ビジネスはコロナ前の正常期に比べ、2022年は約6割のところまで回復してきている、と書きました。全米市場は一時期は全盛期の20%まで興収が落ち込むなど壊滅的な被害を受けましたが、それに対して日本の映画市場はどうでしょうか。いろいろな角度から分析してみたいと思います。 アメリカに比べれば日本市場の回復具合は早い結論から言えば、日本の映画館ビジネスは2022年に急速な回復を遂げました。「日本

          2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜

          2023年 全米ボックスオフィス考察⑤〜映画ビジネスの最適化はもう始まっている〜

          4回にわたって「2022年 全米ボックスオフィス考察」をお届けしてきましたが、最後にそれを踏まえて2023年の全米ボックスオフィスがどうなっていくのかを考えてみたいと思います。 「2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜」で示したデータのとおり、いま映画館での「公開本数」が大幅に減っています。コロナが直撃した2020年が前年比50%の456本、2022年はそこから若干増の492本となっています。コロナ前2019年(910本)対比でま

          2023年 全米ボックスオフィス考察⑤〜映画ビジネスの最適化はもう始まっている〜

          2022年 全米ボックスオフィス考察④〜配信サービスとの住み分け〜

          「2022年 全米ボックスオフィス考察②〜公開規模別の興行収入分析〜」にて、公開規模別で分類した場合の興行収入の構成比が大きく変化していると書きました。以下はそのおさらいとして、2018年と2022年の「公開規模別の興行収入」をグラフ化したものです。 2018年から2022年にかけて、年間約30億ドルの興行収入が失われているのですが、そのうち65%にあたる約20億ドルが、「2,000〜3,999館公開」規模作品の減収によるものです。 2,000〜3,999館規模の公開作品

          2022年 全米ボックスオフィス考察④〜配信サービスとの住み分け〜

          2022年 全米ボックスオフィス考察③〜限定公開作品が受けた影響について〜

          全米の映画館ビジネスがコロナによって受けた影響について考察する本シリーズ。第1弾「2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜」および第2弾「2022年 全米ボックスオフィス考察②〜公開規模別の興行収入分析〜」にて、コロナ前後で主に以下のような変化が起きたことをお伝えしました。 コロナ前後で年間興行収入は大きく減少した。 ただし、スクリーン数や料金など、環境面は大きく変わっていない。 興収減の大きな要因は「公開本数の減少」にある。

          2022年 全米ボックスオフィス考察③〜限定公開作品が受けた影響について〜

          2022年 全米ボックスオフィス考察②〜公開規模別の興行収入分析〜

          前回「2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜」では、コロナで大打撃を受けた全米映画館ビジネスの現状と将来について、主に年間興行収入の推移データをもとに考察しました。 続く本項では、公開規模別に興行収入の推移がどう変化しているのかを分析することで、市場構造がどう変化しているのかを探ってみたいと思います。 スクリーン数の減少率は数%まず大前提として、「全米市場」というものがどのように構成されているかをおさらいします。映画館の数、映画

          2022年 全米ボックスオフィス考察②〜公開規模別の興行収入分析〜

          2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜

          コロナで大きな打撃を受けた全米市場2020年3月から全世界を襲ったコロナウィルスにより、映画業界も大きなダメージを受けました。日本の映画市場も2020年は前年比で約45%減と大きく売上を減らしましたが、それ以上に打撃を受けたのが全米市場でした。 ここ10年、年間で100億ドルを超える興行収入を稼ぎ出し、2018年には過去最高となる118.8億ドルを稼いだ全米市場ですが、コロナの影響で劇場運営がままならなかった2020年は実に前年比80%以上減という壊滅的な結果となりました。

          2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜

          ウーマンリブ(死語)をテーマにした映画「トッツィー」の好きなシーンを並べてみたら、余計に好きになってしまった。

          映画界を揺るがすあのヒット作「E.T.」が生まれたのと同じ年、映画ファンから愛されてやまない傑作がもう1本誕生しています。ダスティン・ホフマン演じる売れない役者がが女装して当たり役をつかんだはいいが、女性として生きることに四苦八苦する様を描いたコメディー映画「トッツィー」です。 この映画、まだまだ男尊女卑がまかり通っていた80年代初期の作品とあって、ウーマンリブ(死語)というテーマはやや古くさい。でも、名作というのは時代を超えてその魅力を放ち続けるもの。ためしに好きなシーン

          ウーマンリブ(死語)をテーマにした映画「トッツィー」の好きなシーンを並べてみたら、余計に好きになってしまった。