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『エルサレム』というフェイクドキュメンタリーホラー映画を冷静に見ることが年々難しくなっていく理由は


私も世代的には深夜特急やら猿岩石やらな「バックパック」ブームに少々かかっており、

実は学生の時にイスラエルをバックパック一人旅行したことがあります。

今言うと驚かれるのですが、トボトボと歩きながらヒッチハイクしてたら、あっけなくウエストバンクにも入れてパレスチナ自治区の街を見学できたりと、当時は今からするとずいぶん緩かった。

粗くて申し訳ございませんがその時にエルサレムで安物カメラで撮った古い写真

そんな私が、イスラエル観光において何にいちばん感動したかと言えば、行ったことのある人なら共感を多くいただけるのではなかろうか、、、エルサレム旧市街の、城壁に囲まれた古い町並の、迷路のように入り組んだ路地の作りでした。まるでドラゴンクエストの不思議な街に迷い込んだような、ね。

そして、そんな私が、「フェイクドキュメンタリーなホラー映画が好き」なオトナとなった今、

イスラエルの監督が撮ったフェイクドキュメンタリーホラー映画、『エルサレム』なるものがあるときけばとうぜん飛びつき、劇中のエルサレム・ロケ地のシーンを見ていたらかつてバックパッカーとして歩いた街並みがまさに出てきて懐かしく、その感情のおかげでマイナーなB級ホラー映画であるはずのこの作品を二回も観てしまったのですが、

いやあ、POV形式(※一人称の主観カメラ)で、夜のエルサレムを、溢れ出したバケモノどもから群衆たちと一緒に右往左往逃げ惑うというアイデアそのものは、よかった。主人公がパニックに陥って逃げる集団に溢れた街の中の一人というのは「クローバーフィールド」を参考にしたのかな?

登場するモンスターが、ゾンビとか宇宙人ではなく、聖書ぽい「天使だか悪魔だか」な姿のバケモノな点も、エルサレム・ロケだからこそ成立する設定でしょう。よしんばそのCGがかなり低予算なウスペラペラな造形であってもね。

また、本作のPOVの設定が、カメラでもスマホでもなく、主人公のスマートグラスであるという点も、まあ、試みとしてはいいんじゃないでしょうか?スマートグラス(つまり主人公が顔に常時装着してるグラス)にしては「新しい場所についたら一度周囲を俯瞰して確認してくれたり、やけに観客に親切な視線の動かし方をしてくれる人だなー」という点が気になっちゃったりするところは否めないんですがね。

しかし、本作がフェイクドキュメンタリーとして「うまくいってるな」と思ったのは、やはりイスラエルでのロケということが、「観光している途中にサイレンが鳴り、何事かと思ってホテルから出ると、軍隊がやってきて『急げ!避難しろ!』と指示され、状況がわからないままに慌てて他の大勢の観光客たちと一緒に逃げ出す」という展開に妙なリアリティを与えているからでしょう。

それがエルサレム旧市街という、いろいろ国際問題の舞台となっているが、やはり訪れてみると、古い街並みや、ユダヤ・キリスト・イスラムそれぞれの聖地が隣接しあう荘厳な雰囲気に圧倒される「観光地としての魅力は否めない」場所でのロケで撮影されているのだから、B級ホラー映画とはいえ、なかなか戦略的には 練り込まれた企画と感心します。

ですが、、、

この作品が出たのは約10年ですし、その時に見た私は「うわあ、昔、バックパッカーとして訪れたあの国のロケだ!懐かしいー!」という気持ちもあって楽しめた。

ところが2024年の現在、現実のイスラエルのニュースがこんな風な意味で毎日流れてくる今は、「イスラエルロケという珍しいB級ホラー映画」としての本作『エルサレム』を純粋に楽しむことができなくなっているのは、なんたることだ。

私自身、若い頃のバックパック旅行の印象もあり、中東の国々には好意的だし、その後もいろいろと中東の文化や歴史には関心を抱いていたが、現実のニュースが深刻になると私の心はどうにもそこから離れてしまう。こんなことは不本意であって、本当は私は日本のいろんな人に中東旅行をオススメしたいし、オススメしたい本や映画も色々あるのだが、

今はなかなかそんな気になれず、「フェイクドキュメンタリー映画を語る」というこのマガジンをやっている中で、唐突に『エルサレム』のことを思い出し、唐突に語ったところでこの話題を引っ込めます。いつかまたもっと穏やかに私の中東バックバック旅行の思い出などを「楽しく」語れる日が来ることを祈念する。

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