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【紙の本で読むべき名作選#13】「シリアの秘密図書館」で電子書籍を越えてゆけ!(※「テロリストはアメリを引用しない」)

「読書が好き!」とのんきに公言している(私のような)平和日本の人間にとっては、読むのが物凄くツラい本、けれども絶対に一度は読んでおいたほうが良い本、それがデルフィーヌ・ミヌーイの『シリアの秘密図書館』です。

シリア内戦下で、瓦礫と化した町から丁寧に本を拾い集め、地下に秘密の図書館を作って、貸し出しや読書会、時には映画上映会までを続けていた若者たちのドキュメンタリーです。実話です。

何がツラいかというと、この若者達にとっては、好きな本を読むことすらも命がけであるという現実。

内戦が始まる前のシリアの若者たちにとって、「本」といえば学校で押し付けられる、アサド政権を賛美するプロパガンダばかり。彼らが逆説的にも戦争の混乱の中で見つけた「プロパガンダではない本当の本」が、『レ・ミゼラブル』であり『星の王子様』であり『アルケミスト』でした。食料さえも満足に入ってこない町の中で、時間も忘れて古今の名作を読み耽る若者たち。非武装の若者だけでなく、途中からは反政府軍に参加して戦っている若者すらも、ちょくちょく図書館にきて本を読む習慣ができてくるという展開になります。

だがその図書館の場所をネットに書くことは絶対禁止!政府軍の攻撃のターゲットにされるから。政権側からすれば、『星の王子様』を読んで希望をつないでいる若者たちのグループすら、なんとかシリアから抹殺したい集団なのです。よって、あくまで「秘密の図書館」。

何をもって本書を「絶対に一度は読んでおくべき本」とススメているのかというと、私たちが日本で「電子書籍に押されて本が売れない」とか「漫画に押されて本が売れない」とか嘆いているのが、途端にばかばかしくなってくるから

「本という文化を守る」というのは、売れるとか売れないとかの問題じゃない。

本当の読書は明日をもしれない戦場で絶望している人たちの心に希望を灯すほどのパワーがあるわけで、そんな真の読書のすばらしさを次世代に継承していくことを目標にすえるのが、世界中の「本好き」の役割のはず。

戦場に取り残された人たちが飢餓をも忘れて没頭するほどの内容をもった本こそが、ちゃんと次世代に残ってほしい。たったそれだけでも贅沢な悩みかもしれません。この本に書かれている通り、秘密図書館も執拗な攻撃にさらされ、最終的には陥落しすべての本が政府軍に没収されてしまうという結末を迎えるわけですから。「本を守る」というただそれだけのことが、本来いかに難しいことか、打ちのめされます。

著者のミヌーイさんはトルコ在住のジャーナリスト。「シリア内戦下で秘密図書館を作っていた若者たちの姿もまた、複雑なシリア情勢の一側面でしかない」と何度も釘を刺すほど、冷静な筆致に感心します。著者の言う通り、「内戦の中でも本を読んでいた若者がいたんだ、素晴らしい!」と単純に賛美して終わるには、あまりにも複雑で深刻な内容なのですが、少なくとも平和な日本の「どんな本でも好きなものが読める」という状態に甘えている私に強烈なパンチを食らわせてくれた貴重な読書体験でした。襟を正して読むべき本。オススメです。

それにしても、

不覚にも泣きそうになったのが、著者のミヌーイさんと、秘密図書館を営むアフマドさんの、ネットを通したやりとり。

アフマドさんはフランス映画の『アメリ』のファンだそうで、ミヌーイさんとの信頼ができてくると、ネットでのやりとりにはアメリの引用を交えた冗談まで入ってくるようになるのですが、

そんなアフマドさんたち秘密図書館のスタッフのことも、シリアの政権側は「テロリスト」とみなして非難します。

それに対して著者のミヌーイさんが書いたヒトコト、「(でも)テロリストはアメリを引用なんかしない」という一文が、なんだか凄く印象に残りました。(※より正確な引用は以下画像)

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なんでそんなに感動したのかは自分でも難しいのですが。遠い国の話と思っていたのが、「アメリのファン」というだけで、急に我々と同じ時代に生きている「普通の若者」であることを思い出させられるからでしょうか。

結論:本というのは、ただの「商品」で済むものではない。本書のおかげで痛感。

△本記事はコチラの「紙の本で読んでほしい名作選」マガジンの一記事となります

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